第7話 令嬢の使用人が個性的
翌朝、早速父に呼び出されたので鞭で打たれるかと思ったが、何故かディートリヒからお誘いが来ていて、それの説明を求めるものだった。
タイミング的に、お茶会の後すぐに手紙を出したのだと思う。父が私宛の手紙を先に勝手に読んでいるのはいつものこと。
今王都で人気のカフェに行きませんかとの誘いらしい。自分宛の手紙の内容を、人から知らされる不思議。
送り迎え等は全てディートリヒがするとのことだった。余計なことは書かれていないみたいで助かった。
「どういうことだ」
知りませんがな。けれど。
この手紙を利用して、ディートリヒ側から攻めるのがベルンハルトに近付く最良の方法だと力説してみた。
完全に嘘だけどな。一応ベルンハルトに対する本音を語っているので、ディートリヒとはそれなりに親しくしても問題はないだろう。
無事に鞭打ちを逃れた。お誘いのタイミングが良かった。ラッキー。でも何で? 利用したので断る選択肢はないので返事を書いた。
私は昨日のお茶会の為だけに領地から出て来ているので、早く用事を済ませて領地に帰りたい。最短でお願いした。
普段は父だけが王都にいて、お母様とお兄様と一緒に領地のカントリーハウスで暮らしている。
あちらはお母様が厳選した使用人しかおらず、居心地抜群。こっちははっきり言って、敵の本拠地状態。
領地の御者役と二人でこちらに来たが、二人して正直早く帰りたい。
御者役と一緒に鞭打ちから助かったのを喜ぶべきか、滞在が延びたことを嘆くべきか微妙な気分になった。
「ガロン侯爵家ディートリヒ様が迎えに来られました」
約束の日、準備はしていたけれど、本当にディートリヒが迎えに来た。
誘われたし楽しみにしていますと返事を書いたので当然だけれど、こんな日が来るとは思っていなかった。
父から服の指定は無かったので、町歩きに向いたシンプルなワンピースにケープで、髪はハーフアップにした。
馬車の傍で待っていたディートリヒも同じようにシンプルなズボンとシャツにケープだったが、異常にキラキラして見えた。
さすが微笑みの貴公子。平凡令嬢はキラキラなんて標準装備していないので、もう少し着飾った方が良かったのかと悩むほどだった。
いや、まずは挨拶。
「こんにちは。本日はお誘い頂きありがとうございます」
私の傍にはあの父の使用人がついて来ている。父の命令で、何とか強引に同行しようとしているというまさか。
仲の良い使用人と一緒に出かけることはあるが、人とのお出かけに強引について来ようとする使用人など聞いたことがない。
子どもの頃は流石に護衛などに着いてきてもらうが、貴族は魔力量が多く家庭教師から訓練を受けているので、下手な大人よりよっぽど強い。
更に私は防護魔法が付与されたアクセサリーでガチガチに守られている。
自分より弱い人を連れて行っても仕方が無いし、有事の際に守らなければならない人が増えるだけ。
父の使用人を守りたいと思う気持ちは皆無なので、ただのお荷物。
しかも王妃陛下と親戚で、王子の側近候補と言われているディートリヒがいる。
ディートリヒが私に思うところがあったとしても、自分より弱い彼女を連れて行く気はない。
しかもディートリヒが乗って来た馬車の御者台の横には、既に男性が座っている。
強引に馬車内で、私とディートリヒの三人になると?
「こんにちは。その服似合ってるね。行こうか」
貼りついた笑顔では、もっと着飾って来いよって事? とつい邪推してしまう。
けれどディートリヒは完全に父の使用人を無視して、私を馬車に乗せてくれた。嫌味でも何でもいい。取り付く島もないとはこのことかと思った。
使用人は私に何か言えとおそらく睨んでいるはずだが、当然無視した。
無理矢理カフェでまで同伴しようとしたり、ディートリヒの使用人にあれこれ話をされても困る。
御者が前のめりな父の使用人を危ないですよ~とさりげなくどけて、扉を閉めた。一瞬見えた顔は、何と言うかとんでもない顔をしていた。
「なかなか個性的な使用人だね」
「父の趣味ですね」
女性使用人を採用するのは一般的には女性で、妻がほとんど。お母様が雇ったのではないとアピールしておく。
「僕たちと三人で乗る気だったのかな?」
「カフェでも同席する勢いでしたね」
「……十分くらいで着くよ」
誘われても誘ってもいない使用人が同席するのは、馬車でもカフェでも嫌がらせまっしぐらだと思う。
どんな会話をしたらいいのかわからなかったが、話しかけて来なかったのでこちらも話しかけないことにした。
正直話題なんて、捻り出しても天気の話くらいしかない。椅子に深く腰掛け、ディートリヒはリラックスした感じで外を眺めている。
どうして誘ってきたのか全く分からないが、なんとなく私も優雅さを心がけて外を眺めることにした。
到着したカフェはとても繁盛していた。内装も可愛らしく、ほとんどのテーブルが埋まっている。
ディートリヒは店員と言葉を交わし、慣れた様子で個室へエスコートしてくれた。ここまでの一連の流れ全てが、本当に慣れている。
個室には特別感があるし、女性としたら嬉しいだろう。単に周囲に私の様な平凡女と一緒の所を見られたくないだけかもしれないが。
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