第6話 令嬢は圧倒的なマイナスを告げる
「百点満点で考えて、まず王子であることにマイナス一万点」
キリッと言ってみたら、小姑が素直に驚いているっぽい?
心の中では態度でもマイナス一万点だけどな。
それからまともに話したことはないけれど、普段の言動からもマイナス一万点。
態度と言動が被ってる? そんなの関係ない。合計マイナス三万点だ! さすがにそこまでは言えないけれど。
「……もうちょっと、具体的にお願いできるかな」
いきなりの低評価に、貼り付いた笑顔が剥がれかけた? もう一押し?
「まず、王妃陛下は素晴らしい方ですが、自分が王妃になるということには興味がありません。一日中護衛と一緒に行動するというのも、私には向いておりません。ましてや国の代表になるなど、荷が重いです」
「そうなんだ」
小姑が貼り付いた笑顔を消した。真顔の方が安心感がある不思議。
誰もが憧れるわけじゃないのに、周囲にそういう令嬢は来ないから本当に知らなかったのか?
「王子であることは置いておいたら? ベルンはイケメンだよね?」
それを言うの? どう思うかは人それぞれだよね?
「好みじゃないので加点要素はないですね。髪が腰まであるのは、私の中ではむしろ減点です」
ベルンハルトの髪はさらさらでつややか。常々、髪の美しさを重要視される貴族令嬢に喧嘩を売っているように感じていた。
あの髪のせいで、どれだけの令嬢が苦労していることか。
「あれは王妃陛下の好みで……」
「マザコンも減点ですね」
「いや、そういうわけではないのだけれど」
慌てて小姑は否定したが、どちらでも構わない。興味が無いから。
「エルヴィーラ嬢は有力な婚約者候補だと思うし、実際ノルン卿はかなり積極的に両陛下へアピールをしているようだけれど」
「父は私の意志を完全に無視しています。打診されてしまえば、知らない間に婚約もするのでしょうね」
口にしただけでうんざりだわ。
「本当にベルンと婚約するのが嫌なんだ。令嬢にしてみれば、優良物件だと思ってたんだけど」
「優良物件という言い方をするなら、他にも沢山いらっしゃるじゃないですか。私にしてみれば、殿下は事故物件ですね」
小姑がかすかに笑った気がする。冗談が通じる人で良かった。いや、冗談のつもりもないのだけれど。
私にとっては間違いなく事故物件。こういう時は不良物件って言うんだったっけ? 間違えた?
「だからと言って、ここまで態度をはっきりさせるのって珍しいよね」
「私はこの瞬間の体裁よりも、選ばれないことを選びます。爵位的に誰かの派閥に入るのも無理ですし」
「本人の意志を無視するほどの強い当主の意向なら、それに逆らって大丈夫なの?」
「この先を考えれば、今罰を受けた方がましですね」
ぶっちゃけ最悪の場合は国外逃亡するつもりだしね!
「罰、……ね」
ディートリヒは優雅にスイーツを食べ始め、会話は途切れた。調子に乗って言い過ぎたかもしれない。
でもここまではっきり言ってしまえば、婚約者候補から外してくれるはず。私、頑張った。
ここまで嫌がっている人と結婚しても、上手くいく訳がないからね。
私もディートリヒを放ってスイーツを堪能しよう。まぁ、もうクッキーとチョコレートしか残っていないが。
一口でぱくっとは、ディートリヒが同じテーブルなので封印。クッキーをサクサク食べる。
クランベリー入りにナッツ入り各種など。クッキーの生地そのものが美味しいし、それぞれに合うように少しずつ配分を変えてあると思う。
今日のスイーツ、お持ち帰りもできたら良かったのになぁ。
うまくやれたと思っていて、完全に油断していた。ディートリヒを見ずにスイーツに夢中になり過ぎた。
気が付いた時にはベルンハルトがディートリヒの後ろに立って、肩に手を置いていた。
見つかった! それも激しく!
「おい、ディー。俺をあの中に置いていかないでくれ。猛獣の群れの中に置き去りにされた気分だ」
上から目線にイラッとする。今日の主役が何を言っている。
こっちは強制参加で朝から時間かけて用意しているんだよ!
「いい加減慣れてくれよ。僕にもゆっくりお茶をする権利はあるはずだよ。そもそも、今日はベルンの婚約者選びだ。僕は関係ない」
正論だな。確かに小姑が令嬢を選別する必要がそもそもない。自分ですればいいんだ。
周囲を窺うと、後ろに何人かの令嬢が遠巻きについてきている。逃げられなくなる前に逃げなければ。
このテーブルには椅子が二脚しか用意されていないので、ベルンハルトに席を譲る体で逃げられる。
最後の一つになったチョコレートを口に放り込んだ。
「こちらをどうぞ。失礼いたします」
優雅に見えるように、だけどできるだけ急いで席を立って逃げた。
テレーゼは令息と話をしている。テレーゼの邪魔はしたくないし、他に特に親しい人がいる訳でもない。
なので軽食コーナーの給仕のお兄さんに突撃!
逃げながらこっそり二人の表情を確認すると、ベルンハルトは驚いたような表情をしているし、ディートリヒはこちらをじっと見ていた。
心底止めてくれてと叫び出したくなった。何に驚いているんだ。
世の中全ての女性が自分に憧れているとか思うな、ナルシストめ。
苦笑いの給仕のお兄さんの仕事を邪魔しないように気を付けながらも、全種類制覇したスイーツについて語り合ってみた。
お茶会終了後、スイーツ全種類制覇に妙な達成感を感じて鼻歌交じりで馬車に揺られていた。
前に座っている使用人が睨み付けてきているが、気にしない。
屋敷に着くと父は留守だったが、腹を立てた使用人によって自室に閉じ込められた。
夜になっても父は戻らなかったようなので、さっさと寝よ。報告は使用人がするだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます