第3話 令嬢は背景と同化する
順番が来たので主催者である王妃陛下とベルンハルトへ挨拶をする。
正直ベルンハルトの顔を見るだけで震えがくるので、決して顔は見ない。
王妃陛下は焦げ茶の髪と目の上品な美人さん。人懐っこい目で優しく親しみやすい雰囲気。
だけど雰囲気に騙されてはいけない。王妃だし、当たり前だがちゃんとしなければならない。
「本日はお招き頂き、ありがとうございます」
ありがとうございましたっと言い切って、今すぐ帰りたい気持ちをぐっと抑えた。
「よく来てくれたわね。今日は楽しんでいって頂戴ね」
「あちらのテーブルへどうぞ」
王妃陛下は笑顔で応えてくれたが、ベルンハルトはこちらも見ずに不機嫌そうに手でテーブルを指し示すだけ。
目くらい合わせろ! いや、合わせられたら怖いので、一生合わせんでいい。だが、一般常識もないのか。
イライラする。誰のせいで今ここにいると思っている! 父のせいだ! 八つ当たりも含む。心の中は荒れ狂っているが、表向きは笑顔笑顔。
自分が目立たないために、王妃陛下も淡い紫色のドレスを選んでいた。発想が同じです! 気が合いますね!
挨拶を済ませれば、父の使用人とは別行動。会場には王城所属の使用人がいるので邪魔になる。
付き添いは会場が見える場所に設置された椅子か、用意されている部屋でお茶会が終わるまで待機する。
当然のように父の使用人は、会場が見える場所に陣取った。
優雅さを心がけて歩きながら、挨拶の列からは良く見えなかった、軽食が並べられているテーブルを見た。
今回のお茶会は王妃陛下主催だけあって、スイーツは全て極上品が並んでいるのは間違いない。
見たい、見よう、見るべき。
今回のお茶会では軽食が各テーブルには用意されず、取り分けてもらっての配膳形式になっている。
折角だからスイーツを楽しもう。お茶会だし、いいよね。ただ隠れているだけじゃ退屈だし。
食べたい、食べよう、食べるべき。
全部美味しそう。令息もいるので軽いものからややガッツリ系まである。
サンドイッチにスコーンにワッフルにパウンドケーキ、マフィンにクッキーにプチケーキ!
やばい、テンション上がって来た。まだ来場が続いているので、周囲の注目は主催者と来場者に集中している。
王妃陛下は体がこちらを向いているのでエルヴィーラの行動に気が付くだろうが、意図が伝わるだけなので構わない。
この間にお願いして、スイーツ系だけでも全種類制覇を目指そうかな。
「すみません、スイーツは全部で何種類あるのでしょうか」
給仕の人が話しかけられたことで一瞬固まったが、すぐに戻った。
そりゃあ、開会の挨拶もまだなのに話しかけられたら驚きますよね。わかります。
ある程度時間が経ってから軽食をつまんだりすることが多いのに、婚約者候補のくせに最初から食べる気満々だとは普通は思わない。
そのつもりですが、何か?
「今回は三十種類ご用意させて頂いております」
三十種類か。クッキーだけで十種類はありそうだし、一つ一つが小さいのでいけるかな。
「全種類、一つずつ取り分けて頂けますか」
ただの残念令嬢だと思われないように、できるだけ上品に優雅にと気を付けてお願いする。
「かしこまりました」
きっと驚いているだろうが、もう表には出さない。さすが王城の使用人。甘いものばかりだから、お茶はストレートティーにしようかな。
「茶会が始まりましたら、あちらのテーブルにお茶と一緒にお願いします」
指し示したテーブルの位置から、私がベルンハルトに興味が無いことを給仕の人も察した感じ。察しがいい使用人は大好きです!
僅かに笑った気がするが、興味が無いからと言ってこれだけのスイーツを食べようとしているのだから当然か。
でも嫌な感じではないし、王城の使用人は口が堅いから大丈夫なはず。
「茶葉は数種類用意しておりますが、いかがされますか」
「ストレートで、あなたのお勧めをお願いします」
「かしこまりました。用意が整い次第お持ちいたします」
給仕の人はにっこり笑ってくれた。お勧めの茶葉を選んでくれるだろう。詳しい人に任せるのが正解派です。
早速紫陽花の陰にある席へ引き籠もる。テーブルに椅子が二脚。更に隠れられる奥に座った。
同化に成功し過ぎて驚かれないように、手前の椅子にはストールをかけておく。
そうこうしているうちに令嬢も現われ、中央のテーブルがどんどん埋まっていく。普通はやっぱりそこだよね。
皆ちゃんと、原色かそれに近い綺麗な色のドレスを着ている。絶対に見ないけれど、父の使用人が色々な意味で歯ぎしりしていそう。
居るだけで目立っているのはハルン侯爵家のイザベラ。
派手な顔の美人で、赤いドレスと金とも茶とも言い難いオレンジの髪を緩く巻いている。
あれで年下の十二歳とか信じられん大人な雰囲気。小柄で華奢だけれど。純粋培養のお嬢様感が凄い。
多くの令嬢を引き連れていて目立つのは、黄色のドレスを着た十一歳のグルスト公爵家のルイーゼ。
王家と親戚なのでベルンハルトより少し濃い金髪に碧眼で、可愛らしくまだまだおこちゃま感がある。
イザベラと一つしか歳が変わらないのが驚き。でも多分ルイーゼが標準。
挨拶はルイーゼが最後だったようで主催者も一緒に移動を始め、それに合わせて全員が立ち上がる。
参加した婚約者候補は全部で十五人か。ベルンハルトが女性に興味を示さない為に、最大限集めた感じ。
エルヴィーラもわざと少し遅れて立ち上がる。悪目立ちを裂けるため、皆が主催者を見ているタイミングにした。
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