第2話 令嬢は会場に到着する
案内してくれた王城の使用人が役目を終えて去り、主催者への挨拶の為に出来ている列の最後尾に並ぶ。
エルヴィーラの前に並んでいるのは全員令息。王子の婚約者候補を集めたお茶会に、多数の令息も参加するのは本来の目的を隠す意味があるらしい。
ベルンハルトが候補を誰も気に入らなかった場合に、女性に恥をかかせない為の配慮だとか。
普通のお茶会だったと言い張ったところで無駄な気がするが、令息も喜んで参加するのは優秀な令嬢のおこぼれ狙いと情報収集。
お茶会に参加していれば、誰がベルンハルトの目に留まらなかったかがすぐにわかる。
流石に王子に見初められた令嬢を横から掻っ攫うのは難しいが、王家が認めるほど優秀な令嬢が一同に揃う機会は早々ない。
優秀な令嬢は競争率も高いので、ベルンハルトの動向を確認した後に令息は動き出す。それは令嬢側も同じ。
自分には見込みが無いと感じたら、他の令息をチェックする。令息も王家が人選しているので、お互いに条件面で外れがないという。
婚約者はこの場で選ばれる場合もあるし、魔法学院在学中に婚約者候補として交流を深めて選ぶこともある。
過去には在学中に親しくなり、婚約者候補以外から選ばれたこともあるがそれは稀。
エルヴィーラは自分の平穏な学生生活の為にも、是非とも今日誰かがベルンハルトに選ばれて欲しいと願う。
これ以上父の勝手な思惑で時間を無駄に消費されたくないし、近付けとか何だとかの命令をされたくない。
魔法学院は専門学院と併設されている国立の学校で、王都近くの中央と東西南北で国内に五校ある。
中央魔法学院は伯爵以上で、一定以上の魔力量を持つ者が入学可能。なのでエルヴィーラは来年中央魔法学院へ入学する。
社交デビューは十八歳になる年で、王家を除き正式な婚約を結べるようになるのも十八歳になる年から。
社交デビューの年齢を考えて、令嬢は十三歳、令息は十五歳になる年で魔法学院へ入学する人が多い。
ただ、婚約予定の人や兄弟姉妹と合わせることもあり、特に年齢は決められていない。
三年間魔法学院で学んだ後は、専門学院へ進学する。専門学院は実力主義で、魔法学院の卒業試験の成績がそのまま入学資格に反映される。
専門学院で令嬢は花嫁修業的な授業を二年。令息は四年かけて戦い方や座学を専門的に学ぶ事が多い。
エルヴィーラは来年十五歳。
十三歳で入学したかったが、ベルンハルトが十五歳で入学すると事前発表されていたために、父に入学時期を調整させられた。
このお茶会か在学中にベルンハルトの婚約者になるというのが父の計画だが、エルヴィーラは断固拒否。厄介な野望を勝手に抱かないで欲しい。
他の貴族の多くも入学時期を調整していて、来年は多くの令息令嬢が入学すると聞いている。
人が集まれば人脈も広げやすいし、いい出会いもあるかもしれない。有望株とお近付きになるには、この年はいいことづくめと思われている。
エルヴィーラにはそういったことを頑張る気はないが、せめて楽しい学生生活を送りたい。
列に並んでいる令息から注目されている。エルヴィーラは気のせいだと思いたいが、気のせいではないことにも薄々気が付いている。
身分が高い人や主賓の待ち時間を短くする為に、それ以外の人は早めに来場して主催者へ挨拶を済ませておくのが暗黙のルール。
今回主賓には婚約者候補が当てはまるので、他の婚約者候補たちは令息の列が無くなる頃に来る。
今、エルヴィーラは思いっ切り前後を令息に挟まれている。すぐ後ろの令息がエルヴィーラを見て焦っていたのも知っている。
あなたがうっかりさんでは無いと話しかけたかったが、あの使用人がいるので口パクで謝るしか出来なかった。
彼女はこういう場に参加したことが無いので、こちらが必要以上に早く到着していると気付いていない。このまま気が付かないで欲しい。
令息からの注目は気にしちゃ駄目。だけれど、地味な女が張り切っているとか思われていたら泣く。
早く来たのは、婚約者候補の誰よりも早く席を選びたかったから。
今回は自由席なので、席の並びを確認する。主催者前の中央が婚約者候補でその周囲が令息用だと思われ。
いくら選ばれたく無いとはいえ、令息の席に混ざるのはよろしくない。
だがしかしこういう場の場合、そっと休憩が出来る席がある。そこに最初から座ってしまいたいのです。
嫌々お茶会に参加している人は他にもいるはず。その人たちが私と同じ考えならば、席は先着順の争奪戦。
ベルンハルトが自分に興味のない人に興味を示さないことは調査済。休憩用の席に座っていれば一目瞭然。
エルヴィーラ自身が、ベルンハルトを視界に入れたくないという理由もある。
会場端に紫陽花で隠れている場所に席を発見した。先着二名か。あそこをさっさと占領してしまおう。
同じ目的の令嬢が来たら仲良くするし、休憩したい人がいればそっとしとくよ!
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