第12話
十月二十日(木)
朝登校するとクラスがざわついていた。
彼女が登校していたのだ。
さっそく亜心達に絡まれていたが、今まで、と何ら変わりない遼子の態度に優は安心とどこか違和感を覚えた。
そんな優の気持ちを無視するように時間は進んでいく。
優は遼子の後ろ姿を見る度になんとも言えない気持ちになっていた。
______
移動教室後、机の中に異変を感じ中を見渡すと見覚えのない一通の手紙が置かれていた。
「じゃ、兄貴に弁当届けに行ってくるわ」
「うん」
トイレから出て明と別れ、教室に向かおうとするも、ふと振り返り明が居ないことを確認し教室から離れた階段へ足を進ませた。
「本当に開くのかな……」
着いた場所は屋上だった。
机の中に差出人不明の手紙があった。
-昼休み、屋上で待ってます
ドアを蹴りあければ外に出れます-
手紙の通り思いっきり蹴りあげてみれば、軋む金属の音を辺りに響かせながらゆっくりと開いた。
屋上に出て辺りを見回すと、自分を呼んだ当人が待っていた。
フェンスの向こう側でいつも通りに笑っていた
「それ、鍵がバカになってるから結構簡単に入れるのよね」
「川波さん、何やってるの」
「ここ、フェンスボロボロだからすぐ入れるの、危ないわよね」
確かに遼子の言う通り彼女の傍のフェンスには大きな穴が空いていた。
人一人楽に通れるだろう
「川波さん、危ないよ」
「あのね…あれから考えたの、家族も悲しませたくないし皆も幸せにしたいなって話」
「川波さん…?」
「きっと、静見さんのお父さんも静見さんが何を言おうと何をしようと死んでたと思うのよ」
「……なっ」
「だって、そういうものなの、誰のせいでもないの」
「…」
「きっとね、静見さんのお父さんのお気持ち少しだけ分かるかもしれないと思って休んだ間考えてたの」
淡々と図書室や公園の時と同じトーンで話す遼子の声を聞いては鼓動が早くなるのを感じる。
聞いてはいけない
許されてはいけない
反省をしなければけない
頭に浮かぶ言葉とは裏腹に私の視覚は彼女から目を離すことをしようとはせず
私の聴覚は彼女の声を静かに聞いていた。
「静見さんのお父さんは、少しでも家族に幸せになって喜んで欲しくて残したんじゃないかしら」
「……そんなの分からないじゃない」
「そうね、でもきっとそんな風に考えた方が良いかなって思うの」
「私の事より…いいから、こっちにおいでよ
危ないから!」
私は川波さんの言葉を遮るようにフェンスの穴から彼女の腕を掴み振り向かせた。
いつもと変わらぬ彼女の表情に安堵を覚えた。
「大丈夫よ、そんなに心配しなくても」
「人を巻き込んで何言ってるの…ねぇ、ごめん
私、弱いけどもっと強くなりたい
自分の中の黒い気持ちを見て見ぬフリして嘘つかないようにしたい…弱い自分と向き合いたい」
なんでもっと、早く気づかなかったのかと彼女の怪我やクラスでの光景を思い出す度に後悔する。
「静見さん、足元見てくれる?」
「…手紙?」
川波さんの足元には揃えられた靴の下に二つ折りの便箋が置かれていた。
「直接言えなかった事があってね、読んでみてくれない?」
「いいけど…」
彼女のいつもと変わらない調子に安堵し腕を離し、かがみ込んで手紙を開こうとした瞬間だった。
「ごめんね」
「えっ…」
目の前にあった川波さんの姿は見えなくなっていた。
どれくらい時間が経ったのか
数分?数十分?数時間?
私は力の入らない手で、手紙を捲った。
「-貴方は何も悪くない
どうか自分を許せる日が来ますように-」
ぼんやりとしていく意識の中、下から聞こえる沢山の喧騒が私に現実を感じさせていた。
私の罪はもう消えない
貴方へ贖罪をすることさえも許されない
善きサマリア人とは幻想である。 @kanamikan
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