第10話
十月十七日(月)
気づいているのだ。
どんどんと、激しくなってる事に。
気休め程度だけの私のお呪いみたいな呪詛なんて原因じゃないかもしれない。
ただ、私はわかってる。
自分の楽と安寧と引き換えにしてる事に
自分の中の真っ黒な感情を塗りつぶして楽にしてきたはずなのに何も楽になんてなっていないのだ。
心の重さは前よりずっと重くなって私にのしかかっていた。
人の多い場所を通って喧騒で気を紛らわそうと公園を抜けるとベンチに座る川波さんを見かけた。
「川波さん…」
「静見さん、どうしたの?お化けでもみたいな顔して」
彼女の顔は前より怪我が増えガーゼや絆創膏が増えている。
「いや、なんでもないよ、川波さんこそどうしたの?」
「死ぬ前に好きだった景色でも眺めとこうかなって思って」
私は彼女の言葉に頭を鈍器で叩かれたような気持ちになった。
「それは…あの…」
「ああ、クラスのことじゃないわよ、あれは別にどうでもいい事だし」
あっけらかんという彼女と対照的に映る顔の傷達がより痛々しさを引き立てていた。
「前よりお金が稼げなくなっちゃって…両親がね昔みたいに喧嘩してすごく辛そうだから」
「だからってなんで…」
「保険金」
身体が固まった。
身に覚えがある言葉だったせいかもしれない。
「お金に余裕が出来れば、お父さんも前みたくなると思うしお母さんもそうすれば幸せになれるでしょ」
「残された家族は…辛いかも…しれないよ」
自分がどの口でそれを言うのだろうか
良くあろうとしたいだけで何も出来てない自分には彼女を止める資格もない
今止めているのだって彼女のためですらないのだ。
「静見さんって私の母に似てるわ」
「……」
「周りのことばかり考える所」
「考えてないよ…自分勝手に皆の機嫌損ねないように悪く思われないように、いい子にしてるだけだよ」
何かが音を立てて切れてしまった。
「私がもっと、考えてたら父さんも死ななかったかもしれない、父さんの保険金で暮らしてるの考える度にいつも思うよ、私のせいじゃないかって! クラスでだって…」
呼吸が乱れてしまい全て言うことは叶わなかったが思ってる事が全て出たのか少し心が軽くなった気がした。
「静見さん」
「ごめんね…なんか感情が高ぶったかも…忘れて」
「こちらこそ、ごめんなさい、だからこの前も気にしてくれてたのね」
「…」
「今日は帰りましょうか、ねっ」
「うん」
私は川波さんに手を引かれゆっくりと公園を出た。
川波さんが、何を思っているのか。
彼女の後ろ姿を見つめながらそんなことばかり考えていた。
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