第8話

十月十一日(火)


 朝、廊下で下級生に絡んでる上級生を見かけた。

 明らかに暴力的な絡み方だが、きっと、上級生は「いじりだ」なんだと言い訳をするのだろう。


「ジーズジーズ オウォンイー……ジーズジーズ オウォンイー」



 ひっそりと誰にも聞こえない位の呟きで、唱えてみた。

 気休めかもしれないけれど、ほんの少し心が軽くなった気がした。


 きっと、自分だけしか私は見えてなかった。


 だから、上級生が、ムシャクシャしてきたからなんて理由で見知らぬ下級生に更に暴力を振るった事なんて知らなかった。


 ___

 教室でも、これまでと変わらず中園さん達が、川波さんが絡んでた。


「ねー、パパ活してるのって、川波さんじゃないよねぇ」


「川波さんじゃ無理だよー、もっと可愛くしてあげたら沢山パパ寄ってくるかもよ」


「もえが可愛くしてあげるー」


 いつも通りの光景だ

 モヤモヤと心に黒い影が落ちそうになる



(ジーズジーズ オウォンイー、ジーズジーズ オウォンイー、神様どうかこの悪意を移してください)



 私にとってはお守りみたいな気持ちで呪詛を呟いていた。 

 

 

 唱える事にほんの少し気持ちが楽になる気がしていく。




 元々、私のせいではないのだから。

 

 中園さん達がイジメなんてするからだ

 

 川波さんだって、納得してる


 そう、これは私の悪意ではない。

 


 私は人の事を悪く思ったりしないのだから。

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