第7話
十月十日(月)
優は日曜からずっと上の空のまま遼子を気にしていた。
「じゃあ、部活行ってくるから!またな」
「うん!明ちゃん行ってらっしゃい」
優は明を見送ってから図書室へと向かっていった。
図書室へ着くと新しい本が届いており、黙々と入れ替え作業を始めだした。
「大変そうね、手伝いましょうか?」
「えっ…あ、川波さん」
「ごめんね、驚かせちゃった?」
優にとって一番会いたくない相手だったがそれを悟られる訳にもいかず、呼吸を整え普通にすることを意識して遼子に向き直った。
「ありがと、でも川波さんも忙しいんじゃない?」
「部活も入ってないし、忙しくないわよ
この箱に入ってる本ラベルごとに分けてけばいい?」
「うん」
二人は黙ったまま作業を続けた。
優は遼子の方をチラリと見て、また目を逸らした。
「あのさ、川波さん、昨日とかお休みとかさ、普段何してるの?」
「昨日?出かけてたわよ」
優は昨日見たものが、自分の見間違いであってほしいと一縷の望みをかけて聞くことにした。
「そうなんだ」
「だって、静見さん会ったじゃない」
「え…」
誤魔化すのが正解なのか、どうすれば良いのか悩んでいたものの遼子の口ぶりからして無理だと判断し優は正直に伝えた。
「気づいてたの?」
「うん、バックに可愛いマスコットもついてたしすぐわかった」
遼子はさも、普通に天気の話でもするかのように話を続けた。
「仕分け終わったよ」
「うん」
二人は本棚に本を整理してる間、背中合わせになりながら会話を続けた。
「あのさ……いつからなの?」
「んー、五年生からだから三年くらい前かな」
「ヤじゃないの?」
「全然、皆喜んでくれるのよ、会ってる人もお父さんも」
「それって……」
「お金渡すとね喜ぶの、お母さんも安心した顔してくれるし」
優の背中に聞こえる声には憐憫も困惑も無く、ただ淡々と日常会話をしてるかのような声が返ってくる。
「ダメだよ…そんなの違うと思う、だって…」
優はますます、どこに、何に気持ちを持っていけばいいか分からなくなったのか、涙が止まらなくなり声を必死で絞り出していた。
「静見さんは優しすぎるのね」
「そんなんじゃない…よ」
遼子は優に近づき、服の袖でそっと涙を拭い安心させるように言葉を続けた。
「この前も言ったでしょう
私は皆が幸せであれば、それが一番嬉しいって」
「……」
「だから、大丈夫
私の為に泣いてくれてありがとう」
嘘は無い瞳だと直感で優は感じた。
遼子は、ただ純粋に真剣にそう思ってるのだと強く感じた優は何も言えなかった。
__________
帰宅後、優はベッドに体を投げ出して今日の出来事を思い返していた。
優にとっては何も昇華できない状態に雁字搦めになっているものの解決方法が無く頭を抱えていた。
相談相手の姉からの返信は日に日に遅くなり自分で解決する事を考えるが心身ともに拒否されるかのようにシャッターが閉じるのだ。
優は気晴らしに、祖父の所から持ち帰った本をパラパラと開いた。
民族的な魔術や仏学について書かれていた。
「三毒を退ける…許すのは自身の為…」
祖父から幼い頃よりよく聞いた話が多く並んでいる。
その中に優の目に止まった一つの文字があった。
「ジーズジーズ オウォンイー……中国の鏡写しの呪文」
悪意や嫌悪等の邪気を払い罪人や加害者に送るという呪法だった。
優は唾を一度飲み込んでからその言葉を携帯のメモに手早く打ち込み始めた。
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