それは時に残酷であるコト。2

 翌朝。俺は部屋の明るさで目覚めた。いつもならもっと早い時間に、仕事に行くと言って叩き起こされている。


「あ? 帰ってねえのか?」

宿の金はそいつが払っているため、予算的問題で少し広めの1部屋を二人で使っていた。少し顔を上げて見渡せば居るか居ないかくらいは分かる。

(たしか、酒場にでも行くようなことは言ってたっけか。)

俺より大人で、俺より強い。なにも心配する要素がない。ただ朝に居ないのが珍しかっただけ。と、俺は久々の二度寝に入ろうとした。


 瞬間、部屋の扉が勢いよく開き、壁に当たる大きな音と、聞きなれた調子者の大声が響き渡る。

「おい、まだ寝てんのかー? ったく、いつからそんな気の抜けた間抜けになってんだ。勇者たるもの、悲鳴の一つや二つ聞こえたら、すぐさま駆けつけねえとオレみたいにモテねえぞーー」

「うるせえな! モテたくてやってんじゃねえよ! お前もモテてねえだろ! いや、そもそも俺は勇者になるとは一言も言ってねえ!」

「ん、起きてんじゃん。おはようクロウス。」

「……くそ」

二度寝をタイミングよく邪魔され、そいつのいつものテンションに合わせてしまった自分に苛つく。


「お前こそ帰ってきたのは今じゃねえか。」

 俺がボソッと放った一言に、そいつは一瞬キョトンとした間抜け顔をしたが、何がそうさせたかは知らないが、にんまりした表情で言ってきた。

「ほぉ、ふぅーん、そうか」

「んだよ」

「いんや、別にぃ……? と、オレは仕事仲間になんか情報がないか聞いてきたんだよ。」

変な含みが入ってはいたが、気にしても仕方がない。

「情報?」

「あぁ、これからはちゃんとした仕事も引き受けようと思ってな。」

「これまでのは仕事じゃなかったのかよ」

「いや、これらも立派な仕事さ。けどなぁ……」

「?」

「シンプルに金が足りないんだよ!」

「はぁ?」

深刻な顔つきで、何を言い出すのかと思えば。

「はぁ?じゃねーよ。お前なぁ、ここしばらく一人分で済んでいた金がシンプルに約2倍になってるんだぞ?」

「……お前が勝手に俺を弟子にしたんだろうが」

「それはそう! だけど、お前の評判の悪さが思った以上で、思っていたより仕事が入って来なかったんだよ!」

「……喧嘩売ってんのか?」

「ま、理由はどうでもいいんだよ。オレが慈善行為にちょいちょい金をかけてた事もあるしな。」

それには心当たりがある。

(やたら綺麗に直していた老人の家の材料費、こいつが全て出していたのか……)

「というわけで、頃合いも頃合いだ。正式な依頼を受けに行くぞ。」

俺は俺の疑問点を問う。

「……俺はお前からまともに、訓練もなにも受けてないが?」

「心配するな」

「?」

「それももう、だからな」

「…………」

全く答えになっていなかったが、そいつは何も心配していない笑顔を俺にニカッと見せた。

俺はその面をみて、なぜか信用してしまう。そいつのソレには、いつもそういう力があった。



 正式な依頼を受けるには、様々な条件があるらしく、そいつ曰く最低でも『勇者の三条件』は絶対らしい。

「『勇者の三条件』について。クロウスはなんも知らなさそうだから教えとくよ。」

そう言って、目的地に向かいながらそいつは説明し始めた。

「まず一つ目。『強さ』だ。魔物も多く巣くうこの世界で勇者という職業を名乗るなら、ある程度強くなきゃならない。」

「……俺は弱いんじゃなかったか? あと勇者になるなんて一言も言ってねえけどな。」

強さで言えば、クロウスは問題ないだろう。その辺の所謂いわゆる勇者より、腕っぷしはあるしな。」

(後半無視かよ。)

「んで二つ目。これが今向かってる目的地に関係してくる。『シェカント』っつう様々な物資や、武器、魔法道具なんかの交易が発展してる、でかい商業都市があるんだよ。」

「……なるほど、二つ目は『装備』か。」

俺が先に答えを出す。そいつはおっ、という顔をして続けた。

「正解。まぁ本来なら、勇者の条件に絶対必要か? と問われると。だが、三つ目の条件にもかかってくるが、依頼する方も保険は欲しいんだよ。無駄に死んでもらっては困る。という話だ。」

確かに。依頼をする側からしたら、簡単に死なれてもらうとその依頼の難易度が上がり、次の勇者に頼みづらくなる。そして報酬もそれなりに増やさなければいけなくなるのだろう。

「そしたら、最後の条件が見えてくるだろう?」

「……『評判』か」

「そう。一番曖昧なモノだが、それ故に依頼には一番必要とされていることだ。『信頼』と言い換えてもいい。」

「信頼、ねぇ……」

俺は目を細めて隣にいるそいつを見た。

「俺なんかを弟子にしようとか言い出す奴に、信頼なんてあったのか?」

するとそいつは怪訝そうな表情をしている。

「あのなぁ、オレは勇者の中の勇者だ。それだけは自負しているんだ。評判もそこそこだ。」

「俺は、あんたを知らなかったけど?」

「はぁ……。知名度なんて上げたところで、には程遠い。『勇者』ってのは、そういうんじゃねえんだよ。」

そう言ったそいつの顔つきは、さっきまでの表情とはまるで別人のようで。そして、遥か遠くを見つめているようだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界Q.E.D. 〜異世界に迷い込んだボクは名探偵役のカノジョに助手役として指名される〜 散花 @sanka_sweera

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画