それは時に残酷であるコト。1
そいつの仕事についていき、数日が経った。
様子をみていた限り、俺が思っていた『勇者』の仕事と何ら変わりもない。いやそれ以下かもしれない。
加えて俺には、『特になにもせず、ただついてくればいい』と言うもんだから、俺は特になにもしていなかった。
最初は俺がそいつの傍に立っているだけで、誰一人寄せ付けず、仕事になるのか? と思った。
そいつは何も気にとめていない顔をし、ただ街をぶらついて、人に声をかけては、「困ったことはないか、何かあればオレを呼ぶといい。」など売名行為を行っていた。
街の奴らは、近くにいる俺を見るなり、怪訝そうな顔をして、そいつの話をろくにきかず去っていった。
「これになんの意味があるんだよ」
俺は痺れを切らして、そいつに聞いた。
「これも
「あっそ」
もともと勇者なんて者になる奴らは気が知れないと思っていたが、それを実際に目の当たりにすると、なおさらそう思うのだと、俺は呆れていた。
時間が経つにつれ、俺がそいつの傍にいる限りなにもしないということが分かったからなのか、それともただ俺のことを知らなかっただけなのかは分からないが、売名行為に反応がでてくる。
とはいえ、老人の簡単な頼み事や、草むしりなど自発に行う最中、絡んできた子供の相手。金もならない、無駄だと思える時間だけがそうして過ぎていくばかりだった。
「なぁ、『勇者』は基本的こんなのばかりなのか?」
と俺は聞いた。
「んー、いや?」
さらっとそいつは否定した。
「は?」
「ちゃんとした依頼を受けてる奴らはいるさ。オレの友人達にもな。でかい案件だと国そのものから直接依頼が来たりすることもあるな。」
「じゃあなんで」
「今は、準備期間だ」
それ以上そいつは答えなかった。
「クソ……」
子供らと遊んでいるそいつを眺めながら、俺はベンチに座って空を仰いだ。そいつに苛立ちを覚えていたが、天上では何もない青さが広がっていて、それも忘れかけた。
(こんなにも、俺が、何もない日常を。穏やかな空気の中、存在していていいんだろうか?)
ふとそう思った。
その日の晩、そいつに静かに起こされ目を覚ました。
「なぁクロウス、君にはあれが何に見えるかな?」
「あ? 寝起きに何──」
シーッと、静かにするよう指示され、指差された方向を見る。
「……夜襲か」
「あぁ、きっと君の最近の評判を聞いてだろうね。君はどう思う?」
「どうって、あいつらが向かってきたら、そりゃ返り討ちにするが……」
「ふふ、そうか。」
「何が可笑しい」
「いや。オレも同意見だ。宿も壊されれば、オレ達の所為にされかねない。あいにく、最近は無収入でね。弁償できるほどの金はない。」
「…………」
指摘したい部分はあったが、無駄な会話をする必要もなかった。
「今の君なら、少しは信頼できるかな」
「?」
「いや、こちらの話だ。色々荒らされる前に奴らの前に出ていきなさい。ただし、自ら手を出すなよ。あくまで正当防衛のみ。だ」
「はいはい」
俺は適当に返事をし、夜襲を仕掛けようとしてきた奴らの前に出た。
「ひぇっ」
「どーすんだよ」
俺が自ら出てきたことに計画を乱され、混乱したのか、俺一人に対して数人いるにも関わらず、それぞれ怯えていたり、仲間内で口論を始めたりなど連携の欠片もなかった。
(こいつら、特にソレ専門ってわけじゃあなさそうだな)
「はぁ、めんどくせぇ」
俺は頭をかきながら、一言呟く。
「お、おらあぁぁぁぁ」
血迷った奴らの中には大声を出し、剣を振り上げながら自分に向かってくる奴もいた。それをギリギリまで引き付けて、既の所でスッと避けた。すると空振りし、勢い余ったのかそのまま転けていった。
それを見た仲間は、
「てめー!」
と、何もしていないのに勘違いをし、同じように突っかかってくる奴。
「ひぇぇぇ」
と、武器すら放り投げて逃げる奴。ただそれらを眺めながら、どうしようもなく呆然と立ち尽くす奴。見事なバラつき加減だった。
「はぁーーー」
俺は大きくわざと聞こえるようにため息をつく。そして少しだけ凄みを利かせ、
「なあ、これ意味あんのか? 俺に不満があるのは理解したが、こうも弱いと戦う価値すらねえよ」
残っている奴らに宣告した。
「……チッ、帰るぞお前ら」
懸命な判断をした奴が、他の奴らを説得し、引き帰っていった。
「……ったく、こういったのが湧くのは仕方ねえが、とんだ時間の無駄遣いだな……」
と、独り言を呟いたつもりだったが、背後からクククと笑い声が聞こえた。
「ははは、まさか君がそんなこと言うなんてねえ?」
「…………んだよ」
「いんや? 別にー?」
「…………」
そいつがニヤついた表情で俺を見ていることにムカついたが、何を言っても無駄なことは分かりはじめていたから、無視を決め込んだ。
「しかし、目が覚めちまったな。酔いにでも出掛けるか?」
「勝手にしろ。俺は戻って寝る」
「つれねえなぁ」
いちいち絡んでくるそいつを放置し、俺は部屋に戻り、翌朝まで眠った。
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