妖精村の連続餓死事件を解決せよ
妖精村の真実を聞いた日から数日後……。
ボクは日課のように毎日屋敷に、足を運んでいる。
シャロさんは、交渉する。と言ったが、誰となのか、何をなのかは聞けずじまいだった。けれど実際ここ数日、新たに妖精の人達が屋敷に訪れることはなくなった。
何をしたのか聞いてもはぐらかされるだろうが、一応聞いてみることにする。
「あれから数日経ちましたけど。妖精の人達が来なくなったのは、シャロさんが交渉? したからですか?」
今日も今日とてフリルを纏い、そのフリルに埋もれているかのように、ソファーで寝っ転がっているシャロさんは適当な返事をした。
「うん? あー、たぶんそうだね。」
「たぶんって……」
自分のした事にたぶん。なんて物言いはおかしかったが、この名探偵には許されるんだろう。
「で、結局何をしたんですか?」
「交渉だって、君が言ったじゃないか。」
「いやボクはシャロさんがそう言ったから……」
「そうだったかな? まぁもうどうでもいいじゃないか。ワタシ達の問題としても解決できたんだから。」
心底どうでもいい感を出し、話を終わらせようとするシャロさん。それでもボクは納得がいかない。
「解決って……。結局、連続餓死事件は掟を破ったことによって、村の真実を知った妖精の人達が、その現実に耐えられなくなった。ということですよね? 解決って言うんですか?」
「彼らが来なくなった。ということは、村の外に出なくなった。つまり、餓死事件も起きなくなった。で解決じゃないか」
「うーん? まぁ、確かに?」
そんな解決でいいのだろうか、上手いこと言いくるめられていないか不安だったが。他に疑問点もないので、そういうことにしかどうもならないらしい。
「あ、でも」
一つだけ残った事件はある。最初に村を出てしまった女の子の行方だ。
「女の子が行方不明なのは、どうするんですか?」
「それは、依頼されてもないだろう。ワタシ達はあくまで餓死事件の方の解決を頼まれたんだ。勝手に村を出た少女なんて毛ほど興味もない。」
「そういうものなんですか……?」
「ワタシの元で助手として働く。ということなら、そういうものだね」
全然納得はいかないが、ボク一人で解決できるわけでもなし。シャロさんが依頼されていないと言うのなら、解決する必要もない。そういうことなんだろう。ボクは勇者ではないんだから。
「……そもそもワタシは関わりたくないと最初から言っていたからね。」
「確かに、そうですよね。失礼しました。」
「……君にしては随分と引きがいいじゃないか」
シャロさんは珍しくボクに関心を抱く。
「ボクだって、自分が勇者じゃないことくらい分かってますし、その女の子を見つけたとしても、何も、できませんよ。」
自分で言っていて少し虚しくはなるが、事実を言ったまでである。
「ふぅーん。ま、その少女が、別の勇者と出会っていることを祈るくらいしか、ワタシ達はできないからね。」
「そうですね……」
そんな会話をしていると、何やらいい匂いが漂ってきていた。
「この匂いは……?」
「マリィに頼んだんだよ。一つ事件を終わらせたから、焼き菓子を作ってくれ。とね。まぁ、マリィにも書庫の整理ばかりさせてしまっていたから、たまには息抜きも必要だろう?」
「シャロ様っお待たせしました〜!」
マリィさんはいつになく、明るく元気な様子で、出来たばかりの焼き菓子を持ってきた。
「わぁ、こんなに沢山……」
ボクは涎が自然と湧いて出てくるのがわかった。
そんな物欲しそうな目をしているのが、シャロさんにバレ、こう告げられる。
「トワソン君。これはワタシの食べ物だよ? 君が食べられるとでも?」
「え、まさかこの状況でお預けなんですか!」
「だって君、今回何もしていないじゃないか。むしろワタシにあの村と関わらせたという点では、マイナスだよ」
と、すでにいくつか頬張っているシャロさん。
「そんなぁ……」
本気でボクは悲しくなる。
「まぁまぁ、シャロ様。その事件があって解決したからという体で今回はご用意させていただいたので。ある意味トワソンさんのおかげじゃないでしょうか?」
と、マリィさんは助け舟を出してくれる。
「マリィさん……!」
「……マリィがそう言うのなら、仕方ないな。一つだけ好きな物をくれてやる」
「そんな悪役みたいな言い方で……」
「要らないのなら、別に問題はないが?」
「いただきます!」
ボクは貰ったお菓子を大切に噛みしめて食べるのだった。
「そういえば……」
と、マリィさんは思い出したように話し出す。
「事件の概要は、シャロ様から聞きましたが、おとぎ話のおかしの村は、村のすべてがお菓子でできている。という話でしたよね? その話はどこから……?」
純粋な疑問だったと思うが、タイミングが悪い。
シャロさんは何も気にせず答えてしまう。
「そりゃあ、彼らは加工されたソレの事を、お菓子として認識していたからさ。誰もソレをお菓子だと疑わず信じていたからね。」
「なるほど。だから本物の飴玉を見た際に、混乱してしまったのですね」
「そうだね。彼らは死体をお菓子と認識する。という幻惑にかかっていたのなら話は簡単だ。生きている人間を、食材に勘違いすることもない。そうしたら村の中が、どんなに荒んでいても、彼らにとってはそこはお菓子の村なのさ」
「………………」
ボクは、折角頂いたお菓子を無言で口に入れながら話を黙って聞いているしかなかった。
第二章
【2nd questions おかしの村と妖精と連続餓死事件と】
終
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