妖精村の真実と勇者の関わりを証明せよ3
妖精村の掟は破ってはいけない。それは、破ると自分達の生活が脅かされるから。
実際、村の外に出た彼らは、次々に発狂、餓死し、自分達の村を滅ぼしかねない事態に陥っている。
なぜ事件は起こり続けるのか。なぜ掟は破ってはいけないのか。それは──
「それはつまり、彼らの生態にあるわけだよ」
「生態……?」
シャロさんは淡々と次の事実を述べる。
「妖精の鱗粉には幻惑作用がある。と言っただろう? 例に漏れず彼らもその影響は受けるのさ。」
「え、でもフィクィさんや他の人達も正常でしたよ……?」
「それは、彼らは常にそれを浴びているからね。彼らにとってはそれが普通なのだよ。」
「じゃあ何が問題で?」
「【妖精の鱗粉の幻惑効果は、最大でも一日以上は保たない】、この容器にはそう書かれているね。」
流通しているという、妖精の鱗粉が入った容器を手に取り、説明書きを声に出して読むシャロさん。
「つまり、一日経ってしまったら効果は無くなるらしい。」
「はい」
「妖精村の門は、一日に一度しか開かなかったね?」
「あ、そうか……」
フィクィさんの様子を思い出す。彼は【村の外で飛んではいけない】の掟は守り、飛ばずに自らの足で歩いていた。それは他の人達も同じだったはず。
そうなると、羽根は使われず、鱗粉は多少落ちても、幻惑効果が強く出るほどのものではないのだろう。
そして、村に帰る頃には、彼らが日頃浴びている、鱗粉の効果は完全に無くなっている。
「では、禁断症状みたいな感じなんでしょうか?」
「……そう簡単なものだったら、彼らに救いはあったんだろうね。」
ボクが思っていた反応と違い、シャロさんはほんの少しだけ憐れむように言った。
「違うんですか?」
表情が少し暗くなったと思えば、切り替えるように明るく、シャロさんはボクに聞いた。
「さて、ここで問題だ。彼ら妖精達が取引している物はなんだと思うかい?」
「えっ……えーっと……」
「ヒントは、掃除屋だ。」
「え? なんでここで掃除屋、が…………」
シャロさんに影響されているのか、ボクはつい最悪な想像をしてしまった。
でも、それなら納得できる。できてしまう。妖精の彼女とシャロさんが最後に交わした会話の意味を……。
「まさか……」
「そう。君が想像した通り、それが正解だ。」
シャロさんは肯定し、続ける。
「掃除屋の仕事は、掃除をすること。そしてもう一つ、ソレを加工して妖精村に届けること。だが流石に加工したとしても普通の人にならバレるだろう。普通の人間、ならね。」
「………………」
「しかし彼ら妖精は、村の中では常に鱗粉の中にいるんだ。それが彼らの正常。おかしい事が正常なんだよ。つまり、例えばの話。人間の目玉を飴玉として貰うことなんて、普通なら受け付けないが、彼らは喜んで受取るだろう。……そうして、おかしの村の言い伝えが出来上がるわけだ。」
「………………」
「それが妖精村、おかしの村の真実にして事実。……また面白いのが、彼ら妖精はその真実を、誰も何も知らないことだよ。掟を破らない限り、ね。」
つまり、掟を破った彼らは知ってしまったんだ。その恐怖なる真実にして事実。鱗粉の効果は切れ、全てが鮮明に見えた時。その妖精から見た村はどんな風に映るだろうか。想像するだけでボクは吐きそうだった。
村に一度帰ってしまえば、一日は門が開かない。開いたとしても他の人間たちに合わせる顔もない。村の何も知らない妖精達にも説明しようがない。
ただただ家にこもり、何も飲まず、何も食わず、怯え、震えながら、自らの死を待つしかないのだった。
「と、妖精村の真実はこんなところだが、残念ながらワタシ達の問題は残っている。」
「え……?」
蒼白した顔面のまま、ボクは力なく聞き返した。
「この事実では、村に帰った彼女がワタシの忠告を、他の村人に伝えることはまず不可能なんだよ」
「………………」
確かに。村に帰った瞬間、真実に怯え、他の村人達と意思疎通するのは難しいだろう。
「そこで、君の出番だ。トワソン君」
「?」
またこの人は、なんの無茶振りをボクにするのだろう? ボクは身構える。
「村を抜け出した少女を見つけ、その少女に真実を伝えてもらおう作戦だ」
「村を抜け出した少女を見つけ、その少女に真実を伝えてもらおう作戦?」
「ああ」
「え、ちょっと待ってください。その妖精の少女は生きてるんですか?」
うーん、とシャロさんは悩む素振りを見せるが、大方答えは決まっているのだった。
「ワタシの推理では、生きているし、なんなら鱗粉効果も切らしてないだろうね」
「そんな自信満々に言われても……」
シャロさんに普通の理屈は通らない。なぜなら彼女は名探偵で、物事を見抜く力があるのは本当だったからだ。
「……少女のアテはあるんですか?」
「アテがなきゃ、こんなこと言わないよ。しかし……」
「しかし?」
「実際問題、やはり難しいかな……」
シャロさんはいつになく悩んでいるようだった。
「難しいんですか?」
「うーん、流石に危険すぎる。とも言うな。やっぱり却下だ。」
「えぇ……」
この名探偵は……。振り回すだけ振り回して、気が知れない。
「じゃあ、どうやって掟を破ってはいけない。村を出てはいけないことを伝えるんです?」
「そこは、交渉力さ。ワタシのね」
「交渉……?」
二転三転先が見えているのだろうシャロさんは、そう言って笑うだけだった。
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