妖精村の真実と勇者の関わりを証明せよ2
ボクが淹れてきたお茶を口に含み、シャロさんは一言。
「マリィの淹れた方がいい」
そう言って少し拗ねた様子だった。
「それは、そうですよ……」
ボクはそう言われることを予見していたし、怒るわけでもなかったが、マリィさんはいつもこれに順応してるのか。とボクの中で、シャロさんの尊敬値が下がり、マリィさんの尊敬値が爆上がりしていた。
仕方なくといった表情で、飲み干すと、シャロさんは続きを話し始める。
「確かこの間、おかしの村の話を君に聞かれた気がするが……」
「エアちゃんからボクが聞いた話ですね。覚えてます。それでたしかシャロさんは、そのおとぎ話は実際にあるとかどうとか……」
ボクは以前話をしたおかしの村について思い出す。
──
「え、じゃあ本当におかしの村が?」
「ある。といえば嘘にはならないが、全員にあるわけじゃない。」
「? それはどういう……? 信じる者は〜的な話なんですか?」
「まぁ、それに近らずとも、遠からず。といった感じだろうね」
「妙に曖昧ですね」
「A子にも言ってあっただろう? この村を見つけたとしても入ってはならないし、村の者も出てきてはならない。そういう掟があるんだ。むやみに首を突っ込むのは控えた方がいい」
「そういえば、シャロさんはあまり関わらない方がいいとも言ってませんでしたっけ? あと、関わりたくない。とも……」
「ああ、出来れば関わりたくはなかったよ」
シャロさんのその言いぐさに妙に引っ掛かりを覚える。それはつまり、
「つまり、関わってしまった。……ってことはやっぱり」
「そう。その言い伝え、おとぎ話であるおかしの村は、妖精村のことだよ」
はぁ、とシャロさんはため息を吐いた。
「君があの妖精に関わらなければ、彼らがワタシの屋敷に辿り着くこともなかったはずなんだけどな」
「? でもフィクィさん達は周辺の人達に聞き込んでいたらしいですし、時間の問題では?」
ボクは疑問に思った。
「いや、この屋敷に少し細工がしてあるのさ。そうだな、魔除けと言ったらいいのかな?」
「そうなんですか」
初めて聞く話だった。
「だから彼ら一人だけなら、屋敷は見つからず、迷い続けてくれたんだけどね。そしたら諦めるかもしれなかったのに」
「……あの様子じゃ諦めるのも難しそうでしたが」
「確かに。じゃあ勝手に滅びるのを待つのみだった。と訂正しよう」
「それもそれでどうなんですか……」
シャロさんの相変わらずな無神経さに引いてしまうボク。
「と、本題だ。おかしの村の話でも言ったが、あの村は特殊でね。『掟』がいくつもあるんだよ。」
「そういえば、先程の彼女にも言っていましたね。掟を破るな。とかなんとか……」
「そう。だって今回の事件は掟が破られたことで起こっているからね」
「?」
「まず先の彼女も言っていたが、女の子が村から出て行ってしまった。が、それだけでは彼らの事件にならない。いや事件にしない。が正しいかな」
「本来は、それだけで大事になりそうですが……」
「大事だったのは、女の子の家族だけだろう。村全体を巻き込む必要はない。」
「掟だから、ですか?」
「そう。【村の者は、村の外に出てはいけない】という掟がある。」
「……だから、女の子が出て行ってしまったのを例え目撃したとしても、その目撃者は追いかけなかったんですね。」
「他人の子供のために、自らが掟を破るなんて、よほどの馬鹿しかしないだろう。頭が確かならしないさ。」
いちいち言い方に棘があるシャロさん。
「でも、そしたら本当に、今まで掟を破った人はいなかったんですか? それでどうやって暮らして……」
シャロさんはニヤつくと、答えを述べる。
「まず、今まで掟を破った人はいなかったのか? については、ここ数十年は本当にいなかったんだろう。彼らはおとぎ話として語られるくらい、ひっそりと村で暮らしていたのさ。」
「妖精村って、そんなに栄えているんですか? 彼らだけで何十年も暮らせるような……」
ボクの疑問に、シャロさんは待っていたかのような口振りで続けて答える。
「それは違うんだよ。彼らだけでは到底暮らしていけない。」
「じゃあ、村からも出ずにどうやって……?」
「先の彼女も言っていた通り。妖精村は【一日に一回、門が開く】。そこで生きるのに必要な物資の受け渡しをしているのさ。」
「なるほど。それなら、暮らせることは納得ですが……」
「そう。そこで彼らは取引をしているだけ。外の世界を知らない彼らはワタシ達と価値基準は違うが、代わりになるような品物を渡している。」
「あ、妖精の鱗粉……」
「ふふ、正解だ。その飴玉を一つあげよう」
「あ、ありがとうございます」
正解するともらえる方式なのか。とボクは好意に甘え飴玉を一つもらう。
「村の生活の成り立ちはわかりましたが、そこになにか問題があるようにも思えませんし、やはり掟を破ると何か、悪いことが降りかかったりするんでしょうか?」
「いや。ただの村の掟にそんな天命じみた効果はないよ。」
「じゃあなんで……」
「そもそも、掟って何のためにあるか分かるかい?」
「え、うーん、何でしょう……。生活や暮らしを守るため? 自分達を守るため?」
「それらも外れではないんだが、まとめて言うなら彼らが生きるためだ。」
「生きるため……」
「そう。生きるために、掟はあるし、必要に応じれば増えることもある。そうして彼らは生き抜いてきたのさ。」
「なるほど……?」
どうも上手く話を咀嚼できないボクに、シャロさんは村の人達が知らない村の真実を、教えようとしていた。
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