妖精村の真実と勇者の関わりを証明せよ1
長くなるかも知れない。そうボクに宣言し、シャロさんはまず、妖精村と関係するらしい勇者の話を始めた。
「勇者は魔物討伐が仕事とは言ったが、もちろん全てが成功に終わるわけがない。危険な魔物ほど討伐した際の報酬は高いが、それなりにリスクもある。さて、ここで問題だが、仕事に失敗した勇者はどうなる?」
「え、それは……」
ボクはいきなりの問題形式と答えに、戸惑い迷っていると
「はい不正解。飴玉を取ってくれ」
シャロさんはボクに罰ゲームのようにそう指示した。
「ボクまだ何も言ってませんが……」
苦言を呈しながらも、立ち上がり、飴玉をシャロさんに渡す。
「答えは、死ぬか、勇者を辞めるかだ。」
前者の想像は出来ていたが、勇者を辞める。というのはどういうことなのだろう?
ボクが質問しようとする前にシャロさんは答える。
「勇者なんて自称みたいなものだし、辞めようと思えば辞められると、そう考えつくかもしれない。でも実際そう簡単ではないらしい」
「なんでですか?」
「彼らは、それ以外に生きていく術を持っていないからさ」
「?」
「確かに剣や魔法が使えて、魔物討伐には役立つだろう。応用も効く可能性がある。けれど、治安部隊のような正式な仕事と違い、彼らはフリーだ。そのほとんどが戦闘等の教育を受けたわけではなく、『才能』つまり独学で権威を保っているんだろう。」
「それの何が問題なんですか?」
シャロさんは段々と得意の怪しげな笑みを浮かべ始めながら言った。
「そんな彼らにとって魔物討伐をし続けるというのは、生き甲斐であって、使命であって、快感なのさ。」
「……だから、他の仕事ができないんですか?」
ボクはまだ納得がいってなかった。
「そりゃそうだろう。魔物討伐なんて聞こえはいいが、要は殺しの専門だ。魔物を殺し、切り刻み、その一部を換金し、生活費を得る。そんな生活をしていた者が、いざ普通の仕事をしてみなよ。全てに対しやり甲斐なんてなく、殺戮衝動すら抑えられるのかも疑問だね。」
「………………」
確かに。そう言われるとそうなのかもしれない。それなら、簡単に辞められない。というのも納得がいった。
「……じゃあ勇者は辞められないんですか?」
「いや、危険と自分の身が釣り合わなくなって辞める者もいるさ。もちろん、死ぬまで討伐に行く奴らもいるがね」
くくく、と笑い話でもないのに笑って話す彼女は、なぜだか楽しそうだった。
「勇者を辞めた人達は、普通の仕事が出来ない中、どうやって生きていくんですか?」
「いい質問だね、トワソン君。そこだよ。そこに妖精村との繋がりもある。」
「?」
いい質問と褒められても特に嬉しくはなかったが、妖精村との繋がりなんて、まだボクには一切わからなかった。
「勇者を辞めた彼らには、一つだけ出来る仕事があるんだ。」
「それはなんですか?」
「通称『掃除屋』と呼ばれる仕事さ」
「掃除屋……?」
ボクは一瞬、自分が最近屋敷で行っている行動を思い出すが、
「もちろん、君みたいにハウスキーパーとして、家などの掃除をするわけじゃないよ?」
と遮られ、想像を遮断する。
「いつからボクはハウスキーパーになったんですか。探偵助手は? マリィさんもいるのに……」
「探偵助手として、自覚があるならよろしい」
「あ…………」
ボクはシャロさんの話術に、はめられたようだった。
「掃除屋、というのは勇者の成れ果てを指す呼び名さ」
「成れ果てだなんて、まるで嫌悪されているかのような……」
「仕事内容も、特に人から好まれる仕事ではないからね。」
「その仕事内容って?」
「もちろん掃除さ。ただし、人間だった者の、ね。」
「え……」
薄暗い屋敷でのこんな話題は、いつもの数倍気味悪く感じられた。
ボクは乾いた喉で無いような唾を呑み込み、慎重に聞く。
「人間だった者っていうのは……」
「例えば、魔物に敗れ、死んだ人間はどうなると思う?」
「魔物に食べられる……とか?」
「まぁそれも無くはないが、奴らは綺麗に片付けられないだろう。食い散らかして終わりさ」
「………………」
「そんなんじゃ至る所で腐った死体だらけになり、腐臭漂う世界になってしまうだろう」
「そうですね……」
シャロさんの言い分は正しいが、彼女のテンションが何故か高い分、ボクは反比例するように下がっていた。
「そこで、掃除屋が掃除するのさ。世界が腐った人間で溢れないようにね。彼らは元勇者だ。勇者の片付けは勇者がする。上手いこと出来ていると思わないかい?」
そう語るシャロさんの表情は生き生きしていて、エアちゃんの好奇心に満ち溢れた目を連想させる程だった。
「……勇者と、その成れ果ての掃除屋は、理解できました。でもそこに何故、妖精村が関係するんですか? まだいまいち掴めないんですが……」
「そうだね、では次に妖精村の話をしよう。だがその前に……」
「?」
「マリィは君のために、一生懸命書物を片付けているんだ。だから今マリィはここにいない。」
「はい。とても感謝していますが、それがなにか……?」
「君は、察しが悪いねぇ」
シャロさんは怪訝そうな顔で睨んでくるが、ボクは何も思い当たれない。
「はぁ、喉が乾いたよ。何か淹れてきてくれたまえ」
シャロさんは諦めて、素直に要求をする。
「最初からそう言ってくださいよ……」
と、ボクは呆れながら、キッチンがある方へ向かった。
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