2nd questions Another Answer 勇者の成れ果てと迷子の妖精ともう一つの真相と
プロローグ
風は吹き荒れ、衣服の布は擦れ合い、バサバサバサと音を立てている。
夜も闇を増し、慣れていなければ足元すら見えはしない。そんな中で俺は背後に視線を感じ、振り返った。
そこには、二つの人影があった。
一人は身長もなく、子供だろうと判断がつく。もう一人も、その子供より背は高いが、華奢なラインで女だということがわかる。
背の低い方は、輪郭がやけにボヤけていて、たぶん着ている物だろう。こんな風の日に何段ものフリルが付いている服を、外で着ているなんて気が知れない。
もう一人の方は、服装こそ派手ではなかったが、佇まいからして、只者ではない雰囲気を放っていた。
「こんな夜更けに、しかも掃除屋の俺に。お前らが何の用だ?」
俺は聞いた。すると子供の方が話し始める。
「君と交渉がしたいんだよ。」
「は? 交渉って。ふっ、子供と交渉することなんか何もないだろう。夜遊びなら他所でやってな」
俺はそう突き放したつもりだったが、子供の方は聞かずにそのまま喋り続ける。
「君だろ? あの子を匿っているのは」
「…………なんのことだ?」
俺は一瞬だけ動揺したが、すぐに冷静になり答えた。
「掃除屋といえど、掟を破った者を匿うメリットなんて、ワタシには分からないが……」
「だから何の話だ」
「君さ、仕事は真面目にやらないと後で後悔するよ? 食材の横領なんかしちゃって。そんなリスクを犯してまであの子が大切な存在にでもなっちゃったのかな?」
「………………」
(こいつ、何者かは知らないが、何故か俺の全てを知っている。そしていちいち煽る言い方が気に食わない。殺ってしまおうか?)
そこまで俺は考えたが、もう一度冷静に考える。
(ダメだ。この子供が何者か知らない上で殺したところで、俺にはデメリットしかないんだろう。それを理解した上でこうして俺の元へ来てるに違いない。そうでなければ、こんな子供と女一人で掃除屋の俺に話しかけたりしないはずだ。)
「……何が目的だ?」
「だから交渉がしたいと言っているだろう?」
「……内容は?」
「妖精村に通告を出したいんだ。それを届けてくれないかな?」
「……俺は、」
「君は確かに、受渡人ではないだろう。けれど、ただの受渡人に知り合いなんかいなくてね。」
話を先回りされた上、知り合いなんかいなくて当然で、俺もお前のことなんか知らん。と突っ撥ねたかったが、理性で堪えた。
「……集荷に紛れ込ませるくらいならしてやる。それが読まれるかまではわからないがな。」
「助かるよ。」
「……それだけでいいのか?」
「構わないよ。」
「本当に、それだけで全て黙ってるんだろうな?」
俺は確認に確認を重ねる。本来そんなことだけで、俺のことを何処かへ告げ口しないには無理があった。対等じゃない。もっと高度な依頼をしてもおかしくはない。
「別に、ワタシは君達をどうしようとは思っていないさ。ただ面倒事を片付けに来ただけで。」
「面倒事?」
「こっちの話さ。ともかく安心しなよ。ワタシはある意味、君達に期待しているんだから」
くくく、と含み笑いながら話す様は、年齢相当とは言えないだろう。
それを不気味に思った俺は、これ以上こいつらに関わりたくないと思った。
「……了承した。だったら早くその通告を俺に渡せ。そしてもう帰ってくれ」
そう言うと、黙っていた女性の方が近づき、姿の見える位置まで来た。
その姿は可憐で、メイドのような格好をしていたが、雰囲気はまるでどこかの国の王女かと見間違うほどだった。
「こちらです」
そう通告が書かれた物を俺に渡すと、子供の方へ戻っていき二人は闇夜へ消えていった。
「……たく、面倒な仕事を引き受けちまった」
俺は独り言でそう呟くと、さっきの子供ではない、鈴の音がなるような高い可愛らしい声が聞こえた。
「めんどー?」
物影に隠れていたんだろう。ひょっこりと顔を出したその子はヒラヒラと俺のところまで飛んできた。
「ふっ、まぁいいさ。お前を守れるのなら」
俺は近づいてきたその子の頭を撫でてやる。
「うあー、髪が崩れるぅ」
嫌がりながらも、本気で避けようとはしない。
「妖精村、か……」
通告が書かれた物を握りしめ、俺は自分の過去と、この子と出会った経緯を振り返るのだった。
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