探偵の日々の過ごし方を答えよ3
今日はもう帰っていいとシャロさんに言われ、帰宅準備をする。マリィさんも、夕食準備のためか、広間に戻ってきていた。
ボクは二人に挨拶をして、屋敷を後にし、帰路につく。
(探偵って事件がないと、本当にすることがないのか……。いや、あの人のあの性格だから何もしないのか。そもそもあの人は何者なんだろうか?)
シャロさんの謎が深まる中、すっかり自分がこの生活に馴染んでいることを危惧する。
(シャロさんが何者かは置いといて、元の世界へ戻れる方法を、他にも探したほうがいいのかな。例えば、ボク以外に別の世界から来た人がいる。なんて情報とか……)
とかなんとか考えている内に、家に着くのだった。
家に入ると、エアちゃんは毎回迎えに出てくれて、もう年の離れた妹のようだった。
シヴさんの料理も、材料こそ知らない魔物だったりするときもあるが、慣れてしまえば、できあがりの見た目もほぼほぼ変わらないし、何より料理自体が美味しい。シヴさんの腕が良いのだろう。
だが別に、元の暮らしが悪かったわけでもない。至って普通の家庭で、至って普通の学生だったから。毎日学校へ行き、テストがあり、部活こそしていなかったが、友人と放課後遊んだり、普通に学生生活を謳歌していた方と言える。
既にこっちの世界では二ヶ月ほど経っているから、その感覚は思い出に近いものになってしまっているけれども。悪くはなかった。と、ちゃんと記憶している。
ただ、ここでの生活や暮らしが第二の家、となっていることは否定できない。
今こうして夕食を食べながら、エアちゃんの、本日の面白かった出来事を聞いて、新しい世界を知ることは本当に刺激的で。毎日、異世界における新鮮さを求めてしまっている自分もいるのだから。
「今日ね、面白い噂を聞いたの! 今度あの子にも聞いてみようと思ってて」
「面白い噂?」
ボクは聞き返す。こう言った時の、エアちゃんの話に外れはないからだ。
「うん。『妖精』さんの話!」
「妖精……? この世界は妖精もいるの?」
「エインさんは、なにか知っているの? 妖精さんについて!」
キラキラした目の重圧が、ボクの方へ向けられる。
「いや。ボクの世界では伝説とか、それこそおとぎ話とか。そういう感じではあったとは思うけど。実際に存在はしていなかったと思うよ。」
「そうなんだ。でも、ここにはいるよ? 妖精さん」
「え?」
「種族、人種として、いるみたい。だけど、誰も見たことはないのよね、確か。」
シヴさんがエアちゃんに確認する。
「うん!」
「でも、誰も見たことがなかったら、それはまたおとぎ話とか、そういうのじゃ……」
「それがね! 見た人がいるんだって!」
エアちゃんはいつもより声のトーンが上がり、その凄さを表していた。
「それが、面白い噂……?」
「そう! 今日配達してたら、妖精さんを見た人が何人もいるってなって、みんなその話をしていたの!」
「へぇ……、妖精ってどんな姿なんだろう? やっぱり蝶々みたいな感じで、小さいのかな?」
「ちょうちょ?」
(あ、しまった。)
ボクはふいに元の世界の単語を出してしまい、訂正するため、ペンと紙を取り出した。
「えっとね、こんな感じの生き物がいて……」
と、まず蝶々を簡易的に描いてみる。
「うーん、『パタヒラ』みたいな感じかなぁ?」
エアちゃんが想像した生き物が、こっちでいう蝶々らしい。ボクもその辺りをフヨフヨ浮いているのを見たことがあった。
「そうだね。ボクの世界では、妖精って言ったら、このくらいの大きさの、羽根が生えている小人ってイメージなんだけど……」
むー。と、エアちゃんは考え込んだ。そして、
「うんとね、妖精さんを見た人たちは、特に小さかったとは言ってなかったよ。たぶん見た目の、羽根が生えているっていうのは同じだと思うんだけど。身長とか大きさは、わたしたちと同じくらいなんだと思う。」
ボクはその姿を想像する。実際にそんな姿を目にしたら、それは確かに噂にもなるだろう。羽根が生えた人なんて、多種多様なシェカントですら見たことはなかったし。
「あとね、その羽根はとても綺麗なんだって。透明なんだけど、見る人によって色が違ったり、言い表せないような何色にも変わるんだって。」
「へぇ。エアちゃん詳しいね」
「前に、少しだけあの子に聞いたんだけど。でもこれ以上のことは教えてくれなかったの」
少し悲しそうな顔をしてエアちゃんは言った。
「これ以上のこと?」
「うん。住んでいるところとか、なんで誰も見たことがないのか、とか。でも、今日見た人がいるって聞いて、あの子にもう一回聞いてみようと思って!」
「エアちゃんは挫けないね。」
ボクだったら、シャロさんのあの言い方で、これ以上聞くなと言われたら素直に従ってしまう。シャロさんがエアちゃんを気に入ってる部分はここにあるのだろう。
「でも、不思議ね。今まで私も生きてきた中で、見た人なんて聞いたことなかったから。」
「でしょ! それが一人とかじゃなくて、何人もいるんだよ! すごい話だよ!」
「確かに。一人なら信憑性がなくても、複数人目撃者がいるなら、また話は別ですからね……」
「ふふふ、すっかり探偵の助手さんって感じね。」
シヴさんに、そう言われてボクは恥ずかしくなってきた。
「いや、あの、これは……」
ボクが言い淀んでいると、
「いいなぁ、わたしも助手さんやりたい! 助手さんの助手さんになる!」
エアちゃんは、シャロさんに任命されたボクが羨ましいのだろうか、羨望の眼差しで言ってくる。
「エアちゃんが、助手さんをやってくれるなら、本当に心強いなぁ」
ボクがそう言うと、エアちゃんは嬉しそうに笑っていた。
「さぁ、噂話もいいけど、そろそろ食べ終えましょうね」
シヴさんがそう促し、楽しい夕食の時間は過ぎていった。
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