探偵の日々の過ごし方を答えよ2

 パサッパサッ、パサッパサッ、部屋の至る所をハタキで叩いてるボクは、何故こういう時に魔法の道具を使わないのだろうと、考え始めたが、考えると負けな気がして無心になってやるしかなかった。

「………………」

「…………あ」

お互い無言で部屋にいたが、ボクはつい最近聞いたエアちゃんの話を思い出す。

「そういえば、エアちゃんがここに来る時、毎回なにか吹き込んでますよね?」

「なんとも人聞きの悪い言い方だね。この世界を、知識を、現実を、真実を、教えてあげてるのさ。あの子も楽しそうに聞いているよ」

すっかりこの屋敷への配達はボクが担当になってしまったが、時折エアちゃんも自分の仕事が少ないときは一緒に来たりするのだった。

最近は、ボクが別の部屋を掃除している間、シャロさんと話をして、その聞いた話をそのまま夕食時に話したりしている。

「……まあ確かに。エアちゃんは知らないことが大好きですよね。」

「好奇心は多いに越したことはないからね。だからと言って、まだあの子は子供だからね。真実を話すにしても、違うものに包み隠す時もあるさ。」

「へぇ、そうなんですね。じゃあやっぱり『おかしの村』の話とかも、元々は違う話なんですか?」

ボクは質問しながら、昨日エアちゃんに聞いた話を思い出す。


 ──二人でシヴさんの焼いたお菓子を食べながら、思いついたかのようにエアちゃんが訊ねてくる。

「エインさん、エインさん。『おかしの村』って知ってる?」

「いや、聞いたことないなぁ。それもシャロさんから教わったの?」

「うーん、半分はそうだけど……、半分は違う気がする……?」

「気がする?」

「エアがもう少し小さかった頃、そういうおとぎ話があったのよ。エアはあんまり覚えていないのかも知れないけど……」

そうシヴさんが付け加える。

「へぇ、おとぎ話。ですか」

「そう。言い伝え。とも言われてたけど、実際に見た人がいたかどうかまでは、私には分からなかったから。」

「どんなお話なんですか?」

「むかし、むかし、ある村に迷い込んだ人がいて……」

(冒頭はこっちの世界も変わらないんだな……)

とボクは思いながら、エアちゃんが話し始めるのを聞いていた。

「そこはなんとも不思議な場所で。全てがまるでお菓子で出来ているようでした。家も、木も、川も、一口齧ると全部甘くて、その人はこの村で一生暮らすことを誓ったのです。」

「…………おしまい?」

「うん。おしまい。」

「なにか事件が起きたりするんじゃないんだ。例えば、そこには悪い魔女がいて……とか。」

「うーん。特にそういう事件は聞いたことないかも?」

「……でも、この世界なら本当に在りそうですよね。お菓子で出来た村とか」

「それがね、本当にあるんだって! この前あの子が言ってたの!」

エアちゃんはキラキラ見開かせた目で見つめてくる。

「そうなんだ? でも何処に……」

「森の奥深くに、一つ村があって。そこがおかしの村なんだって。けど……」

「けど?」

「その村を見つけても、絶対に入っちゃいけないんだって。入ったらおしまいだって。それに村の人達も、絶対に外に出ちゃいけないんだって。そういうルールがあるんだってあの子言ってた。」

エアちゃんはとても残念そうに、言った。

「お菓子で出来た家とか本当にあるなら、見てみたかったなぁ。」

「そうねぇ、そんなお菓子が沢山あるなら、お菓子に困らないものねぇ。って、エア、食べすぎないの」

話しながらも、お菓子を口に運ぶ手が止まらなかったエアちゃんに、シヴさんは注意を入れた。

「ふぇ、だって甘いもの美味しいんだもん」

「エインくんの分もちゃんと残してね。それに、食べ終わったらちゃんと歯を磨くのよ」

「はーい」

こんな光景はどの世界でも共通していることを実感して、ボクは毎度微笑ましい気持ちになっていた。


 ──と、思い出しながら、ふっと笑みが溢れているのをシャロさんに見られたかと思い、急いで表情を戻すボク。

それにわざわざ突っ込むのも面倒くさいと言わんばかりな表情で、シャロさんは言うのだった。

「あー、その話は概ね本当だよ。」

「え、じゃあ本当におかしの村が?」

「ある。といえば嘘にはならないが、全員にあるわけじゃない。」

「? それはどういう……? 信じる者は〜的な話なんですか?」

「まぁ、それに近らずとも、遠からず。といった感じだろうね」

「妙に曖昧ですね」

「A子にも言ってあっただろう? この村を見つけたとしても入ってはならないし、村の者も出てきてはならない。そういう掟があるんだ。むやみに首を突っ込むのは控えた方がいい」

「そういうものなんですか。」

「そうだね。ワタシは極力関わりたくないね。」

「シャロさんにもそういうものがあるんですね。」

ボクはシャロさんの意外な一面を見た気がすると、なんだか嬉しくなった。

「……意外でもないだろう。ワタシは出来るものなら何も動きたくはないよ。アチデテだから、ね」

心を読んだかのように否定するシャロさんだったが、やはりこの問題に関しては、普段の面倒くさがりと訳が違うと、なんとなくボクはそう思った。

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