2nd questions おかしの村と妖精と連続餓死事件と

探偵の日々の過ごし方を答えよ1

 最初の事件は解決し幕を閉じた。そして無事、名探偵の助手役を果たしたボクだったが、何故かそれから一ヶ月ほど経った今日も、配達を済ませた後、この屋敷へ足を運んでいる。


 ──それは最初の事件を解決した翌日だった。

ボクはシャロさんに聞きたいことがあり、前日に疲労を理由に帰されてしまったため、出直した。というところだった。

「ワタシに聞きたいこと?」

シャロさんは、いつも通りソファーで寝っ転がりながら返事をする。

「以前、この屋敷には書物が沢山あるって言ってましたけど。その中にやっぱりボクの世界の物もあったりするんじゃないかなって、思っていて。そしたら元の世界へ戻る方法も、早くわかるんじゃないのかなって思うんですけど……」

「それで?」

「それで、もしよかったらその書物を見せてもらったりなんか……」

「………………」

シャロさんにしては珍しく黙り込んでしまった。

「ほら、事件も解決できましたし。助手役をタダでやるのも……」

ボクはここぞとばかりに念を押す。

「君の仕事の対価は、そんなものでいいのかい?」

「そんなもの?」

「元々、対価は払うつもりだったが、まぁそうだな。トワソン君がそれでいいなら、そうしよう」

「………………」

(なんか逆にうまいこと丸め込まれた気がしなくもないが……)

「ワタシも、君への報酬が思いつかなくてね。悩んでいたところだったのさ。いや本当にそれでいいなら、助かるな。……ただ問題が一つあってね」

「問題……?」


 ──その問題解決のために、ボクは結局、毎日のようにこの屋敷へ通わされることになった。そして屋敷に着くやいなや、箒やハタキを持ち、掃除をし続けているのだった。

問題とは何だったのか? それは……

「問題……?」

「そうだね……。いや書物を見せることは構わないんだが。ソレが今、何処にあるのかわからないのだよ」

「?」

「現場を見たほうが早いね。マリィ、連れてってやってくれ」

「かしこまりました。こちらですどうぞ。」

どこからともなく会話を聞いて現れたマリィさんに連れられ、ボクは屋敷の奥の方へと足を踏み入れる。

大広間以外の場所へ立ち入ることは初めてで、廊下の薄暗さが寒気を呼んでいるのかと思うほど冷たく、不気味さも奥に行くほどに増した。

「こちらが書庫になるのですが……」

マリィさんはある部屋の前で立ち止まる。その部屋の扉は両開きになっていて、大きな錠で扉が塞がれていた。

「……シャロ様? こちら、本当に開けてもよろしいのですか?」

と、マリィさんは無線機か魔法道具の何かか、シャロさんに繋がっているのだろう。連絡を取っていた。

「あぁ、それがトワソン君の望みだからね。仕方ないね」

「……かしこまりました。」

マリィさんは、渋々そう答えると、ボクにこう言った。

「あの、危ないですので、あの辺りまで下がっていただけますでしょうか?」

「危ない……?」

マリィさんが指差した先は廊下の曲がり角で。部屋の入口から遠く、何が危険なのかボクは急に怖くなってきた。

「では、いきます。」

と、マリィさんは一人で呟き、これまた大きな鍵でその錠を挿した。

ガチッと回した音がすると、ゴゴゴゴゴゴと雪崩のような地響きが聞こえ、マリィさんはボクの方へ全速力で走ってきた。

「な、何なんですかこれ!?」

ゴゴゴゴゴゴと響き続ける音にビビリながら、マリィさんに問う。

「来ますっ」

「えっちょっ何がっ……」

ドガーンッと扉が勢いよく開き、中から大量の本が流れて出してきた。

「わわわわわわ」

それは廊下を流れ、ボク達のいる曲がり角まで押し寄せ、壁に詰まる形で若干溢れながらも止まった。

「はははは、いやはやこれまでとは。」

後ろから笑い声が聞こえ、振り返ると、そこには自動運転の車椅子に乗って来たシャロさんがいた。

「な、これ、何なんですか……」

驚きすぎて、数歩下がりその場にへたり込むボク。

「何って、君が所望した書物だが?」

「いやいやいや、なんで本が、こんな何mも押し寄せてくるんですか! 本ですよ!?」

「それは、まぁ、色々あってね。」

「その色々、が気になりすぎますが?」 

「ともかく。ここを開けたからには、これらの整理をしなくてはならない。」

「え……?」

「流石に余所者の君に整理できるとは思わないから、ここはマリィに任せる。だが、そこで一つ問題が起きるのだよ。」

「つまり……?」

シャロさんは、ニカッと笑いこう言った。

「トワソン君。暫くの間、マリィの代わりをしてくれないか?」

「えぇっ?! でも書物は報酬の代わりって……」

「あぁ、書物を閲覧するのは自由だよ。ただそれが可能になるまで、マリィは他の部屋の掃除が出来なくなる。それの対価はまた別に必要なのさ。」

「そんな……」

確かに、筋は通っているのだが。ボクは気軽に書物を見たいと言ったことを後悔した。


 ──そんな事情があり、現在へ至る。

その間、マリィさんは廊下の半分くらいまでは片付けていたが、部屋にすら辿り着けていない。

ボクはシャロさんに文句言われながらも広間や他の部屋の掃除を為していた。

シャロさんはというと、あの事件の後、他に何か事件がが持ち込まれる事もなく。毎日ソファーでグダりながら、飴を頬張ったり、何をするわけもなく宙を見つめていたりと、人間らしい生活すら何一つしていなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る