最初の事件を解決せよ3
全ての真実、真相を聞き終わり、ヨルさんはアズカさんと何やら話し込んでいるようだった。
その様子を見ながらも、構いなしにシャロさんは挨拶としてヨルさんに声をかけていく。
「じゃあ、ワタシ達の役目は終わったし、帰らせてもらうよ。依頼のお代は後で請求するからね」
「ん、あぁ、少し待ってくれ。もう終わるから」
と、ヨルさんはアズカさんとの話を終わらせ、帰る準備をしていたボク達と合流する。
アズカさんは、そんなボク達を見送るため玄関まで来てくれた。
「あの、その、本当に、ありがとうございました……」
「……礼を言われるようなことはしていないよ。特に君には、いい情報は持ってこれなかったからね」
「それでも。誰にも気付かれずに、私ですら捨てられてしまったと思い込まずに、彼の気持ちを知れたことが嬉しいのです。」
「……そう。また何かあったらトワソン君にでも言ってくれたまえ。そしたらワタシが特別価格で解決してあげよう」
「お金はちゃんと取るんですね……」
「それがワタシの仕事だからね」
「ふふ、そうします。ありがとうございます。」
力なくだったが、アズカさんの微笑んだ顔を見れて、ボクも少しホッとした。
その家を後にし、お屋敷に変える方向へ足を進めるボク達。その道中にヨルさんもついてきていた。
「シャーロット公よ。一つ聞きたいことがあるんだが……」
「奇遇だね。ワタシも君に聞きたいことがあるよ」
「私が先でいいか? ……湖の滝の崖にあった花。あれは伝説の花ではないだろう?」
ヨルさんの聞きたいことは、ボクも気になっていたことだった。
「あれは、私も偵察で見かけたことがあるが、モドキソウだったと記憶している。」
「ふぅん。君が植物に詳しいだなんて知らなかったよ。」
「これでも治安部隊隊長の中では、知識で生きている方だからね。そのくらいは解るさ。……にしても、シャーロット公らしくないじゃないか」
「シャロさんらしくない……?」
ボクが口に出した疑問を、ヨルさんは拾った。
「そうか、トワソン君は助手といえど、つい先日会ったばかりだから、知らなくて当然か。」
と、納得し、笑いながら続けた。
「彼女、名探偵シャーロットは、非情な人形として有名だったんだよ。君も感じたことはないかい?」
「人形……ですか?」
確かに、初めてみた時は人形と勘違いしていたが……。
「例えさ。人の気持ちがわからない。真実が解ればそれでいい。心なんてないのか。まで言われていてね」
「……別にワタシは他人にどう思われていようが構わないが」
「勿論、私は何度か依頼させてもらって違うことは知っているよ。けど、まさか真実を告げないことがあるとは思わなかったな」
ハハハハ、と笑いながら話すヨルさんに対して、呆れているシャロさん。
「君が聞きたかったのはそんなことか。ワタシは気まぐれなだけさ」
「はは、そうだろうね。それで? 私に聞きたいことは?」
ヨルさんが聞き返す。
「ワタシは真実を明かしたが、君達、治安部隊はこれからどうするのか少しだけ興味があってね。大体の検討はついているが。それにしては、アレを回収しなかったなと思ってね」
「アレ……?」
ボクはなんのことだかさっぱりだったが、ヨルさんはそれで理解したらしい。
「なんだ、シャーロット公の質問も、私と変わらないじゃないか」
「君の場合は、規則だろうに」
「?」
不思議そうに会話を聞いていたボクに気付き、ヨルさんは説明をする。
「治安部隊の規則で、多分私達はこれからジェロウの遺品を全て回収する。幾ら賭けてでもね。」
「それはどうして……?」
「言っただろう? どれも最上級の素材で作られている物だって。それが悪用でもされたらたまったもんじゃない。そんな理由だよ」
「だから、ワタシは一応聞いたのさ。彼女に渡していいのか? と」
「なるほど……」
ボクは納得する。
「アレくらいなら、悪用されないし、彼女はアレを手放すことはしないんじゃないのかな?」
「君は甘いね、バレて罰則をもらうのは君じゃないか。」
「ふ、優しさをみせた名探偵に言われたくはないな」
この二人の仲は良いのだろうか? 一見良さそうに見えて、どうもお互いにトゲが見え隠れしているようにも思えた。
「そういえば、アズカさんとは何を話していらっしゃったのですか?」
ここでマリィさんが思っていたのだろう疑問をヨルさんに聞き出す。
「ん? あぁ、ジェロウ亡き今、いつまでもあの家じゃ暮らせないだろうと思ってね。元の家の修復作業を急がせるよう指示する提案をしたんだが……」
「断られたか」
「まぁ、そんなところだね。元の家を売り払ってでもあの家に留まりたいらしい。その手続きをできないか、逆に聞かれてしまったよ。」
「君のことだから、素直に聞き入れたのだろう?」
「もちろん。市民の意見を聞き入れる。それも私達の仕事のうちだからね」
「ふぅーん」
さほど興味なさそうに返事をするシャロさん。
そしてボク達はヨルさんとも分かれ、三人になった途端にシャロさんは、
「疲れたから寝る。」
と宣言し、そのまま車椅子で眠ってしまった。
マリィさんに、ボクも直接帰っていいと言われたが、少し話したいことがあったため、一緒に屋敷へ向かうことにした。
「……シャロさんは、いつから真相が解っていたのでしょうか?」
ポツリ、とマリィさんに聞こえるくらいの音量でボクは訊ねる。
「私の憶測ではありますが……」
マリィさんは、うーん。と少し考え、そしてこう答えた。
「たぶん、トワソンさんが初めて屋敷にいらした直後、そして治安部隊の方々が訪ねて来た際には大方解っていらしたのではないでしょうか?」
「え、そんな時から?」
ボクにとっては衝撃的な答えだったが、マリィさんはこう続ける。
「まず、トワソンさんがいらした際、エアさんの代わりだと解り、エアさんに何かあったのだと推測します。けれど慌てた様子もないため、マイナスなことではないのだと判断できます。あのエアさんの好奇心ですから、その好奇心が向く方向を予測し、そこでさらに事件の依頼です。騎士が突然跡形もなく消えた。その可能性を絞ればある程度の筋書きができるのではないでしょうか?」
「な、なるほど……」
と、感心するボク。
「私はシャロ様ではないので、なんとも言えませんし。今のは、全ての事象が解ってからの私の憶測ですので……」
「でも、シャロさんなら、あり得る……」
「はいっ! 我らが名探偵シャーロット様ですから」
満面の笑みで、マリィさんは己が主を誇るのだった。
屋敷についた頃には、もう日はすっかり暮れていて、怪しげな雰囲気は凄みを増す。
「シャロ様。着きましたよ」
「ん〜〜〜〜」
シャロさんは、部屋の中で起こされ、車椅子からとぼとぼ降りると、三歩のみ歩き、ソファーへダイブした。
寝転がりながら、片目を開けボクを確認すると、
「あれ、君は帰らなかったのかい?」
と質問される。
「シャロさんに聞きたいことがあったんですけど……」
「……ワタシは見ての通り疲れているんだ。明日以降にしてくれないか?」
「……そうですよね。出直します。」
ボクは、シャロさんの様子を見て、仕方なくなり。明日、出直そうと玄関へ向かおうとしたが、
「そういえば。」
と、声をかけられ立ち止まった。
「トワソン君、ずっと気になっていたんだが、そのポケットの中身は何なのかな?」
「え?」
ポケットと言われ、ボクは両手をそれぞれのポケットに突っ込んだ。
「あ、」
入っていたのはボクのスマホで。電源すら既に点かないから、持っていても意味はないのだが、お守りみたいな感じで持ち歩いていたことをすっかり忘れていた。
「これが気になるんですか?」
と、シャロさんにスマホを見せる。
「これは、君の世界の物だね?」
「はい。そうですけど……」
「………………」
ジーッとスマホを見て、なにやら考えるシャロさん。そして口を開き、こう言った。
「それをしばらく貸してもらえないかな?」
「え、うーん……」
ボクは、いきなりのことで悩んだが、
「どうせ電源すら入らないですし、ボクが持っていても、今は使えないのでいいですよ。」
と了承した。
「あ、でも分解したり、壊したりはしないでくださいね」
と付け加えると、
「ワタシがそんな野蛮なことをするように見えるのかい?」
と睨まれたのだった。
その後、シャロさんは再び寝るから。と、応答不能になり、ボクはエアちゃんやシヴさんが待つ家へ帰るしかなくなった。
帰り道、思い返すと、この数日で目まぐるしく状況が変わって、忙しかったな。と我ながら感心する。
(いきなり探偵の助手になれ。なんて言われて、どうなることかと思ったけど……)
一つ事件の解決が終わり、なんとかなったのだとホッとし、満足する自分もいた。
(マリィさんが、言っていた通りに事件が解っていたのならシャロさんは本物だ。それなら……)
元の世界へ帰れる方法すら、すぐに見つけてくれるかもしれない。と、淡い期待をし、エアちゃんには話せる範囲のお土産話をしようと、ボクは帰り道を急ぐのだった。
第一章
【1st questions 異世界と邂逅と最初の事件と】
終
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます