最初の事件を解決せよ2
シャロさんは頷き、続ける。
「彼が姿を消した前日、君はジェロウと最後に会った人物にもなるんだ。……ワタシが言うのも憚れるが、ジェロウは君と出会ってから変わったらしい。ジェロウにとって、良い出会いだったんだろうな」
「……ボクがアズカさんに会ったお店でも、店主が言ってました。一ヶ月ほど前からジェロウさんは変わった、変わろうとしていた。と」
「確かに。彼は悪評絶えなかったが、ここ最近はあまり聞かなくなっていたな……」
ヨルさんも納得したように、頷いていた。
「………………」
「そんな彼は、弱視の君が安全に暮らせるよう、どうしたらいいか考えたんだろうね。それでふと思い出したのさ。」
「なにを……」
「今日、ワタシ達はその湖の滝を確認しに行ったんだがね。岩場の崖の間に『伝説の花』を見かけたのさ。」
「っ!」
「君も聞いたことはあるだろう? なんでも治癒できる伝説の花の噂くらい。ジェロウは、以前にあの辺りで見かけたのを思い出したのさ。」
「そんな、私のために……?」
アズカさんは動揺していたが、ボクはシャロさんが語る真実の中に違和感を覚えた。
(確か、あの花は伝説の花ではなく、モドキソウだったはず……)
「そうだね。だが、そこで不運にも足を滑らせて落ちてしまった。それがワタシの見解だよ」
「なるほど、それで落ちどころが悪いと言ったのか……」
ヨルさんは先に納得していた。
「あの付近はスライムの生息量が多い。そして落ちどころが悪く、スライムの性能上、吸収されてしまった。と考えれば、巨大スライムが突如出没した理由にも当てはまり、全て辻褄が合うだろう。だが……」
「あぁ。それだけでは本来、跡形もなく。なんてことはありえなく、難しい問題なんだ」
「え?」
今度はボクが疑問を持った。
シャロさんが今まで語った真実は、ボクは先に聞き、それで納得したと思っていたのだが。ヨルさんにとってはそうじゃないらしい。
「あのジェロウが、勤務外とはいえ、屋外で装備を外すことはありえない。我々は治安部隊だ。スライムごときに、この最上級の装備品等が溶かせるとも思えないが?」
(あ……そうか)
ボクは異世界事情を詳しくは知らないが、それでもシャロさんやエアちゃんに教えてもらった情報で知っている。
治安部隊は元々王国だったシェカントに仕える騎士達の名残り。その装備品が、弱いとされるスライムに吸収される程度の物では決してないはず。つまり、
「もちろん。それらの隙間から、ジェロウ本人は吸収できても、彼が身に着けていた装備品は全てその場に残った。だろうね」
シャロさんは、ボクが盲点だった疑問に驚くわけもなく、当たり前のように肯定した。
「……何かしらその場に残っていれば、討伐隊も気付いただろう。そうしたら消息不明の時間と照らし合わせ、巨大スライムの謎すらも、私達だけで解決できたはずだ。」
ヨルさんは、そのままこう続ける。
「しかしそれは出来なかった。その場は跡形もなく、二つの事件の関係性すら見抜けない。……シャーロット公は流石だな。事件解決と言うからには、その理由も全て解っているのだろう?」
お手上げだ。というようなジェスチャーをし、シャロさんに向けて敬意を表す。
「もちろんさ。と言いたいが、これにはトワソン君が一枚噛んでくれたよ」
「ボクが?」
自分でも何のことかはわかっていないが、少し嬉しくなった。
「まぁ、ワタシ一人でもおおよそ検討はついていたがな」
シャロさんは人を上げて落とすのが得意らしい。覚えておくことにする。
「さて。その場に何も残らないなんてありえない。だが、討伐隊が来た頃には既に跡形もなかった。その二つは矛盾しているが、そんなの簡単に解決できる。」
そうシャロさんは、得意げに言った。
「全く関係のない、第三者の関与さ。」
「第三者?」
「まぁ君達の、身から出た錆び……とまで言うのは酷か。だが、この都市の問題でもあるはずだ。」
と、一息置き、その正体を告げる。
「路地裏の子供達、だよ」
「ふ、なるほどな。」
ヨルさんは全て理解したようだった。が、アズカさんへの説明も含め、シャロさんは続けた。
「あの湖は、治安部隊の偵察圏内であると同時に、あの子供達の縄張りでもあるのだよ。」
「縄張り……」
「あの、路地裏の子供たちとは……?」
アズカさんが質問をする。
「そうか、君はシェカントの育ちじゃなかったね。知らないのも仕方ないか。路地裏に住んでいる、家なき親なき金なきの、子供達のことさ」
「そうですか……」
シャロさんも歳的にはあまり変わらないであろうはず、という点を誰も突かないが、ボクも黙っている。
「つまり、その場に彼が身に着けていた装備品は残っていた。それを、第三者の彼らは拾ったのさ。落ちていた物はもう誰の物でもないからね。」
「シャーロット公は、それにどうして気づいたんだい?」
「その他の異変を聞いたとき、トワソン君が気にしていたからね。街から彼らが居なくなった、と。」
「それで……」
それでボクが一枚噛んでると言ったのか。と納得する。
「正確には、居なくなったわけではなく、多少の収入を得て、路地裏で過ごす理由が無くなった。っていうのが正しいけれど」
「じゃあ、彼の、ジェロウさんの、遺品などは何も、無いんですね……」
アズカさんは悲しそうに呟く。
「いや。ワタシとしても、その真実の証拠は欲しかったからね。」
そう言うと、シャロさんはマリィさんから小さな箱を受け取り、アズカさんに渡す。
「?」
アズカさんは、その箱を開ける。そこにはシャロさんが買った赤いブローチが入っていた。
アズカさんは、それを手で触り感触を確かめる。
「これは……」
「治安部隊2番隊隊長の証でもある、紋章も入ったブローチさ。」
「なんで……これが……」
「路地裏の彼らは、自分達が生きるために、拾った物を加工して売るという生活をしていてね。その細かい技術は素晴らしく、加工する対象が上物であるほど、価値は増す。ま、治安部隊の装備品なんて、そのまま売るだけでも結構値が張るのだが……」
と言いつつ、ヨルさんの方へ向く。
「これを、彼女に渡してもいいかい?」
「好きにしなよ。シャーロット公が買った物だろう? それをどうするかなんて、私には口を出す権限すらないよ」
「だ、そうだ。」
「……ありがとう、ございます……」
アズカさんは、声を震わせてブローチを大切に握りしめていた。
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