最初の事件の証明をせよ5

 店主は、シャロさんの出した1万シィフを手にとり、勘弁した様子でそのブローチを差し出し、こう言った。

「お嬢ちゃんと同じ年頃の女の子だったよ。……あとは自分達で探してくれ。俺はもうコレには関わらないから」

「あぁ、そうしてくれると助かるよ。ありがとうね」

シャロさんは、そう礼を告げるとブローチを受け取り、その場を後にする。

ボクは事の一部始終を近くで見ながら、何が起こったのかまでは理解できず、シャロさんとマリィさんについて行きながら質問した。

「あの、何をしたんですか?」

「ん? あぁ、これも一つの取引、だよ」

「ここは商業都市ですから。シャロ様はあの店主の方と取引を行った。ということです。」

「その取引の内容は、どういう……?」

「シャロ様、私がご説明してよろしいでしょうか?」

マリィさんは、シャロさんに確認をとった。

「構わないよ。ワタシが話すのも面倒くさいから、そうしてくれ」

「かしこまりました」

マリィさんはそう言うと、ボクの方を向いて説明してくれた。

「商業都市としてシェカント内では、取引が街中いたる所で行われています。それはもう、取引がこの街の全てと言っても差し支えないでしょう。」

「はい」

「そして、この街独自のルールがあるのです」

「独自のルール?」

ボクは聞いたことがなかったから、つい復唱し、訊ねた。

「法律とまではいかない。要は暗黙のルールってやつさ」

シャロさんが付け足す。

「この街では、【物に対する心持ちは誠実でなくてはならない】というルールがあって。つまり、先程の店主の方のように不正な取引を行っていて、それが発覚した場合、街から追放されるか、罰金を支払うという、罰を受けることになってしまうのです。」

「店主の不正な取引って……?」

「物に対する誠実性のなさ。つまり正当な対価を支払わずに受け取ったり、買い取ったりすることであって。彼の場合はコレを1万シィフで買い取ったことだね。」

「シャロ様は、その事実を取引に使われました。言うならば『不正を暴かれたくなければ、そのブローチと取引しろ』という感じです」

ニコッと笑顔で締めくくるマリィさんだったが、内容が不穏だ。そして時々、主人に対する偏見が伺われるが、それはいいんだろうか?


 シャロさんは気にする様子もなく、こう続けた。

「ただここで一つの問題が生まれるんだ。なんだかわかるかい?」

「シャロさんも1万シィフでソレを受け取っている。という事実……ですか?」

「正解だ。実に助手役らしくなってきたじゃないか」

くくくっと笑いながらシャロさんは何故か嬉しそうにしている。

「だから、ここに来たのさ。」

ボクは考えなしにシャロさん達に着いて来たため気付かなかったが、いつの間にか路地裏のさらに奥まった方へ来ていた。

ここは路地裏より空間が広まっていて、荒んではいるが、所謂空き地のような場所だった。

「シェカントにこんな場所があるなんて……」

「表の騒がしさからは、確かに考えられないだろうね」

そうボクに一言言い、ふぅ、と息を吐きブローチを上に掲げ大声を出した。

「コレを作った者は誰かな?」

「………………」

空き地には人影が見当たらない。だから返事も返ってこない。そうボクは思っていて、シャロさんの行動を不思議がっていた。が、すぐにそれは思い込みだと気付かされる。

「なんだ……?」

妙に視線を感じる。そしてそれはどんどん増えていく。ザッザッと足音も複数聞こえ始める。話し声も増えていき、一つ一つの内容はわからないが、ざわざわと波のように広がっていった。

 スッと一人の少女が目の前に出てきた。そして若干怯えた様子の小さな声でこう言った。

「わ、わたし……」

「そうか、いいかな? これは本来の価値からしたら1万シィフじゃ到底足りない。だから正規の価値をワタシが払おう。」

とシャロさんは優しく言うと、マリィさんは横から袋を差し出した。それはざっと20万シィフはあるだろう金貨の束だった。

「っ!?」

少女は驚き、目をまん丸に開かせていた。

「これでも、分けてしまえばそんなに保たないだろうが……」

とシャロさんは少しだけ、見たこともないような眉が下がった表情をする。それを受け取った、少女はぶんぶんと首を横に振り否定した。

「まぁ、これ以上のことはワタシもしないからな。せいぜい有効に使ってくれ」

少女は、深く頭を下げるとタッと暗闇へ駆けて行き、姿は見えなくなった。と同時に、複数感じた視線もいつのまにか無くなっていた。


 シャロさんは用件が終わり、はぁ、と息をついていた。

「……なんだったんですか? 彼女らは──」

「これで、ワタシはこのブローチに対して、正式な対価を払ったと言えるだろう?」

ボクの質問が言い終わる前に、シャロさんは話し始めた。

「確かに、その問題は解決されたとは思いますが……」

ボクはそのことより、彼女らが何者だったのか気になっていた。

「彼女らは、君のほうが知ってたんじゃないのかい? いや、気にかけてた。というべきか」

「! じゃあやっぱり……」

「そう。路地裏に住んでいる子供達さ。彼女らはなにも居なくなったわけではないのだよ。」

そしてこう続ける。

「ワタシは名探偵だからね。言っただろう? 真実を明かすための証明、証拠を買いに来たのだと。」

「コレが、証拠に……?」

「あぁ。あの露店で手に入らなかったから、少し遠回りしたが……」

と、顔を一瞬しかめたが、それはさておき。と声高々に言い放つのだった。

「最後の真実、本当にジェロウは死んだのか? 巨大スライムとして消えてしまったのなら証拠は?根拠は? それらが全て納得できるよう、ワタシが今から証明してみせてあげよう」

そう笑った顔は、怪しげではなく、自信に満ち溢れていた。

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