最初の事件の証明をせよ4

 シャロさんは怪しげな微笑みを浮かべたまま、ボクらに真相を突きつける。

「ご想像の通り。彼の死体はスライムの養分となり、そして普段では決して得られないような量の栄養をとったスライムは、巨大化してしまった。ジェロウが消えたとされる日から、巨大スライムが現れるまで一日以上あるから、巨大化するには充分な時間だよ。」

そして、起こったことを続けて説明した。

「既にそれは皆が知ってる事件で、巨大スライムは治安部隊の手によって討伐されてしまったから、跡形もないわけだけども。」

「……だから死体も何も出てこなくて、消えてしまった。ということになるんですね……。」

マリィさんが、確認するように呟いた。

「………………」

ボク達はシャロさんが語るその真相、真実に納得こそできた。が、その事実をアズカさんや治安部隊の人達に伝える。ということを考えると、それはあまりにも非情な話で、証拠すら残っていないということになる。

ボクは疑問に思った。はたしてそれで納得をしてもらえるのだろうか? ボクにはそれがわからなかった。

「……けど、その巨大スライムは既に討伐されていて。実際消えてしまっているのなら、その真実の証明をするには難しいんじゃないでしょうか? 他の人達に、納得してもらえないんじゃないでしょうか? 特にアズカさんには……。ずっとジェロウさんが生きていることを、信じ続けて待っていますし」

「ふふふ、そうだね」

疑問点を挙げても、シャロさんの笑顔は変わらない。変わらないどころか、とても楽しんでいるようにも見える。

「じゃあ、ここでもう一つの真実を告げようか。それがこの問題の証明になるだろうね。」

と言い出すと、シャロさんは歩きだし、何故か来た道を戻り始めている。

「シャロ様、どこに?」

マリィさんはついて行きながら、行先を聞いた。ボクも追いかける。

「証明が必要なんだろう? それを買いに。さ」

「「?」」

ボクとマリィさんは訳が分からずにお互い顔を見合わせた。

 三人で来た道を歩き、戻りながら、シャロさんは足場が悪い泥濘みから抜け出すと止まり、一人だけ車椅子に乗りマリィさんに押してもらっていた。

(外出する度にこれなんだろうか……? マリィさんも大変だ……)

ボクはそんな名探偵の我儘に付き合えているマリィさんを心から尊敬した。


 シャロさんに連れられ(というか指示され)、ボク達は都市シェカントに来ていた。

「ここで何をするつもりなんですか?」

「言っただろう? 証明、証拠を買いに来たのさ」

「買いに、って……」

未だに目的の詳細を話そうとしないシャロさんは、露店が立ち並ぶエリアに誘導する。

そこは広場や大通りに比べると、随分こぢんまりとしていて人の数もまばらだった。

「本当にシェカントは人が多いし、騒がしいな。この辺りまで行かないと落ち着けないとは……」

車椅子に乗りながらも、はぁ、と少し息をつくシャロさん。声には出せないし、出さないが、

(それは、普段の外出のしなささと、運動不足では……?)

とボクは心の中でツッコミを入れたのだった。

 シャロさんはエリアの端から露店を眺め、一つの区画を指差す。

「あの辺りかな。」

行き先を指定し、マリィさんにそこへ行くよう指示をする。そのお店は、俗にいうアクセサリーショップで、手のひらに収まるようなブローチや、髪飾り等がいくつか並んでいた。

「いらっしゃい、お嬢ちゃん。何をお探しかな?」

そう店主に声をかけられているが、シャロさんはガン無視で品物を眺めている。

「あの、シャロさんの買い物ならボクはついて行かなくても良かったんじゃ……?」

と、ボクは小声でシャロさんに耳打ちをした。

「………………」

(ボクのことも無視!?)

さすがにマリィさんの方を向いて助けを求めたが、マリィさんは仕方ない、いつものことです。とばかりに苦笑いをするだけだった。

「店主よ、聞いてもいいかい?」

 唐突に口を開いたかと思ったら、質問をしているシャロさん。何やらその表情は怪訝そうだった。

「何かな? お嬢ちゃん?」

店主は、シャロさんのその態度にも不満を出さずに、終始にこやかな表情をしていた。

が、次の言葉でその笑顔は固まる。

「まだここに出していない品物があるね? ワタシはそれが欲しいのだけれども」

「……なんのことだい?」

固まった笑顔のまま、聞き返す店主。そんなことはお構いなしに、シャロさんは続ける。

「しかしそれ、幾らで買ったのかな〜。ワタシだったら買い取りに20万シィフほどは最低でも出すが……」

(20万シィフ!?)

この世界のお金の単価は、呼び方さえ違えど元いた世界と同じだった。つまり、20万シィフは20万円。その品物を見ていないが、それがアクセサリーなら相当高価な物だった。

「な、何を言ってるのかわからないな。ここにある品物は高くても3000シィフほどしかないだろう?」

「そうだね。だから店主が、先日1万シィフほどで買い取った品物を、買い取りたいと言っているんだワタシは。」

「なっ……」

「まぁ、この辺りの相場じゃ当然出せない品物だろうが、まだ手元にあるのならワタシが21万シィフで買い取ろう。」

「!?」

店主が1万で買ったものが、21万。その取引がもし成立するのなら、店主は喜んで品物を差し出すだろう。浮かれた顔で店主は言った。

「本当か!? なら……」

と、鍵を取り出し、金庫らしき箱からソレを取り出した。


 ソレは、とても綺麗な赤色をしたリボンや装飾を、またさらに細かい技術で加工し作り上げられたブローチだった。

「やはり、あるんじゃないか。」

「早く、取引をっ」

店主は急かすようにシャロさんを煽った。

「あぁ。するよ。」

とマリィさんに指示し、店主に出した金額は1万シィフだった。

「は?」

店主はその金額に驚きを隠せない。

「約束が違うじゃないか。21万シィフだと……!」

つい大声を荒らげてしまった店主は、ハッとなり、周りからの目線を気にしだす。ここはシェカントの中でも人がまばらで、大声を出し注目されるのは当然だった。

「そうだよ。ワタシはこの品物に対して20万は払うと言った。だが店主はソレを1万で買い取ったのだろう? だからその『不正な取引』を無かったことにしてあげよう。と提案してるんだ」

シャロさんは周りから注目され始めた途端に、わざと大きな声でアピールする。

「不正……?」

「不正だって」

「20万を1万だなんて……」

周りから声が聞こえだし振り返ると、ボク達の後ろ側には、大声に反応した人達がヒソヒソと、店主を非難する言葉を連ねていた。

「ぐっ……やめろ、俺は不正なんてしていない!」

「ほう? じゃあ20万の品物を1万で買っていないと?」

「〜〜〜〜っ、あぁ! 俺は買っていない! この1万シィフが証明だっ」

と、シャロさんが先程出した1万シィフを掲げ、宣言した。すると、

「なんだ、不正ではないのか」

「なら問題はないな」

と、非難していた人達はそれぞれに散っていった。

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