最初の事件の証明をせよ1
帰されたものの、割り切れないボクの思考はぐるぐると回り、こんがらがっていた。
シェカントの最後に行ったお店で置かせてもらっていた荷台を受け取り、街を抜け、家の付近に辿り着いても、それは変わらず、心ここにあらず。といった感じだったのだろう。
荷台を片付けた後、しばらく玄関前に佇み、扉を開けずにいると、いきなり扉が開いた。
「あだっ」
ボクは突然の事に避けることも出来ず、開いた扉の角と顔面が鈍く当たる音がして、反射的に声を発し患部を抑え、その場でうずくまった。
「わぁーーごめんなさいっ! エインさん、大丈夫!?」
家の中からは、扉を開けた当人であろうエアちゃんが、焦った様子でうずくまっているボクに近寄った。
「〜〜〜〜っっ」
ぶつけた直後の痛みで、エアちゃんに心配かけまいと振る舞いたかったが難しかった。
「はわわわわ、どうしよう、お母さぁーん」
エアちゃんは大声でシヴさんを呼びつける。
「ご、ごめん。だ、大丈夫……」
「ふぇ……ごめんなさい。わたし……」
若干エアちゃんも涙目になっているのだろう、声が震えていた。
「あらあら、あらあら〜」
呼ばれて家の中から顔を覗かせたシヴさんは、エアちゃんとボクの様子をみて、少しだけ困った風にしていたが、状況把握し、すぐさまエアちゃんに声をかけていた。
「エア? エアもうずくまってちゃ、何も解決しないわよ〜」
「うぅ」
ずび、と隣で鼻をすする音が聞こえた。
「あの薬、まだあったわよね? 探してきてくれる?」
「うん……」
エアちゃんは起き上がると、タッタッタッと早足で家の中へ戻っていった。
「エインくん、ごめんなさいね。大丈夫そう?」
「あ……はい。ボクもぼーっとしてたので、すみません……」
患部を抑えていた手を退かすと、多少の血が滲んでいた。それを見ていたシヴさんは、慌てた様子もなく落ち着いた口調で話しかけてくれる。
「あら、少しおでこが切れてしまったわね。立てそう? 立てそうなら、とりあえず傷口を洗ってきてね。他は怪我してない?」
そう聞かれ、一通り自分の身体を確認して答える。
「他は、大丈夫そうです。じゃあちょっと洗ってきます」
「タオルはいつものを使っていいからね。それで押さえてリビングへいらっしゃい」
「はい、ありがとうございます」
ボクは衝撃の反動が残る額を押さえながら、シヴさんと中へ入り、洗い場へと向かうのだった。
傷口を洗い、リビングへ行くと、エアちゃんがとても申し訳なさそうな顔をしていた。
「エインさん。ごめんなさい……。わたし、物音がしたから帰ってきたのかと思って、思いっきり扉開けちゃって……」
近寄ってきたエアちゃんは、服の裾をぎゅっと掴んで、下を向いたまま、涙をこらえているようにも思えた。
ボクは片手で傷口を押さえたまましゃがんで、エアちゃんに視線を合わせる。
「全然気にしなくていいよ、ボクが扉の前で考え事をして、ぼーっと突っ立ってたのが悪いんだし。」
そう言って笑ってみせるが、エアちゃんは暗い表情のままだった。
「エア、エインくんもそう言ってくれてるし、ずっとそんな顔じゃ逆に心配させちゃうでしょう?」
と言いながら、シヴさんはエアちゃんの頬を軽くつまんで、ムニムニ引っ張ったりこねたりしていた。
「むわゎゎゎゎ」
ムニムニされながら、顔をしかめ、言葉にならない何かを発してるエアちゃんを見ていると、それだけで傷の痛さは消えていくようだった。
「っと。エインくん、こっちに来てくれる?」
シヴさんがエアちゃんの頬から手を離すと、反動でポヨンと揺れた頬を、エアちゃんはやるせない顔をしながら両手で覆っていた。
「あ、はい。」
呼ばれたボクはそんなエアちゃんを横目に、シヴさんが移動した先について行った。
「おでこ、見せてくれる?」
「はい……。でも本当にこのくらい平気ですよ。」
それでもいいから、とシヴさんに急かされ押さえていたタオルを退かす。
「んー、でもやっぱりこのままじゃ、跡が残っちゃいそうねぇ」
シヴさんは、そう言いつつ手元に置いてあった小さな丸い箱を手に取る。
「これね、エアが貰ったものなんだけど。特別なある花の成分が入っていて、その花は病気や、生まれ持った障害でも何でも治してしまうらしいのよ。その花自体はとても貴重なもので、滅多に手に入らないものらしいんだけどね。」
ボクに説明をしながら、箱の蓋を開け、人差し指にクリーム状の中身を少量すくい取っていた。
「ちょっと滲みるかもしれないけど、本当に一瞬だからね」
とボクの額の傷にそれを塗ってくれた。
すると、ピリッと痛みがしたと思った瞬間、違和感を感じ、確かめるように手で触ると、傷口が消えてなくなっていた。
「あれっ!?」
「ふふふ、不思議でしょう。ほら」
シヴさんは笑いながら手鏡で傷を確認させてくれた。
そこにはあったはずの傷口が全く無く、跡すらも残っていなかった。
「えー! すごいですね! でもこんな貴重なもの、ボクなんかに使ってしまって……」
「ほんの少しだから全然気にしないで。エインくんに傷跡が残ってしまう方が、私もエアも嫌だもの。」
「……ありがとうございます。」
ニコニコしながらシヴさんは、切り替えるように手を叩いた。
「さて、傷も治ったことだし。夕食にしましょう?」
「はい。お騒がせしました。」
「エアも、大丈夫だから。準備手伝って。」
「うん」
まだ少しいつもの元気はなさそうだったけど、エアちゃんも気を取り直したようだった。
ボクも、事件のことをぐるぐると考えていたことをすっかり忘れて、明日全て明らかになるのだから。と、シャロさんを信じることにした。
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