増える謎の共通項を答えよ4

 ボクの疑問や混乱は増えていく一方、目の前では、すでに淹れられていた飲み物を啜っており、とても優雅なワンシーンにも映った。

「それで、トワソン君が集めてきた情報はそれだけなのかい?」

退屈そうに、手に取った飲み物の水面を眺めながら問うシャロさん。

「いえ。飲食店などに聞き込みした際、ジェロウさんと関係のありそうな女性がいて。その方のお話を聞いて遅くなったと言いますか。」

「ほう」

「アズカさんって方なんですけど。ボクがその飲食店に訪れる前からその近辺でジェロウさんを探していたんです。」

「探していた。ってことは、ワタシ達と同じ目的なのかな」

「……はい。それで──」

ボクは、アズカさんの様子。お店の主人に教えられたこと。アズカさんとジェロウさんの関係。それまでの経緯を全てシャロさんに話した。

「へぇ……あのジェロウが大人しく、ねぇ……」

シャロさんはそう呟くと、口角が上がり、怪しげに笑っていた。

「ジェロウは、そのアズカの為に変わろうとしていたんだな。その矢先の事件ってわけだね。」

「そうなりますね……。ジェロウさんが殺されていないのなら、どこに行ったんでしょうか? アズカさんの為にも早く見つけてあげたいですし。」

「あー……そうか」

シャロさんは一人で勝手に納得し、真実をボクに告げる。

「ジェロウはもう既に亡くなっているよ」

「え…………」


 殺人はない。と言われ、ボクはジェロウさんが生きているのではないかと勝手に希望を抱いていた。それ故にシャロさんが放った言葉は信じられず、冷たい雷が背中に落ちたようだった。

「え、でも、その、殺人じゃないって言いましたよね?」

「あぁ、そうだよ?」

「じゃあ、なんで、解るんですか?」

ボクに聞かれ、シャロさんは少し悩んだ様子を見せる。

「……最終的には順を追って説明するけどね。今はまだ、かな。それよりトワソン君にはまだ聞きたいことがあるんだけど、いいかい?」

ボクが混乱していることなど構いなしに、前のめり気味になって質問をしてきた。

「……なんですか?」

「他に、何か気づいたことは無かったかな? ジェロウの事件とは直接関係がなくてもいい」

「……?」

事件の聞き込みをしてきたボクは、事件と関係のないことなんて……と思い当たらず、しばらく黙り込んでしまう。

それを見兼ねたからなのか、シャロさんはこう聞き直した。

「そうだね、例えば、街……シェカントの様子はいつも通りだったかい?」

「そうですね……いつも通り、とても賑やかで。街の人達も事件のことを気にしているような素振りもなく……」

「事件に関しては、一部の……つまり治安部隊や、異変を感じたアズカという者のみ知っているだけだからね。知らないことは気にならないさ。」

「………………」

名探偵のシャロさんが、わざわざピンポイントで質問してくるということは、ボクにはなにか思い当たることがないといけないらしい。

それを汲み取ってはいても、そんな異変があったかなんて……

「あ、そういえば……」

と、ボクは一つの異変を思い出した。

「事件に関係は、ないと思うんですけど」

「なんだっていいのさ」

シャロさんは待ちわびていたように肯定する。

「以前、エアちゃんとシェカントに初めて訪れた時。路地裏に子供達がいたんです。そのことをエアちゃんは気にしていて。けど、昨日。この屋敷からの帰り道、路地裏を気にしても誰もいなくて。今日の配達や聞き込みの際にも、シェカント内を歩きましたが、誰もいなかったのは少し不思議に思いましたね。」

「なるほど。やはりそうか。」

ボクの疑問を聞き、ボクにはわからない何かで、満足した表情を浮かばせた彼女は、前のめりだった体勢から上を向くように背もたれへ重心を変えた。

「やはり……?」

「ん〜〜、しょうがないなぁ。明日はワタシも出歩くか……」

先程までの緊張感や真面目な雰囲気はどこへ行ったのやら、シャロさんはソファーにもたれかかったままうなだれている。

「むぅ〜、マリィー、夕食の準備ぃ〜」

「かしこまりました。準備して来ますね。」

ずっと傍らで静かにボク達の会話を聞いていたマリィさんは、主人の気まぐれにも順応的だった。


「え、ちょっとシャロさん?」

「んー? なんだいトワソン君」

 ボクは、出会って二日目の彼女に対する順応性など持ち合わせているはずもなく、話が勝手に終了された気がして、それに対する説明を期待した。

「えっと……つまり?」

「えー、めんどくさいなぁ……」

「面倒くさいって言いましたかっ!?」

「めんどくさいよ、君ぃ。もうほとんど確認したじゃないか〜」

本当に気怠そうに話すシャロさん。それに反して何もわからないボクは納得はいかない。

「ボクは全然解ってませんけど……」

「じゃあ、最後に一つ。」

「はい」

「君は、なんでこの屋敷に来たんだい?」

「え?」

また、唐突な質問にクエスチョンマークが頭に増えるばかりだった。

「昨日、君はなんでこの屋敷に来たのか。それを答えれば、今日は終わりでいいよ。」

「それは……」

もちろん、エアちゃんの代わりに配達に来たのだと、返事もしない間に、シャロさんは続けた。

「“あの”A子の代わりだと、君は言ったね。A子はそう簡単に仕事をサボるような子ではないよ。それには、よほどの訳があったはずだ。」

「よほど……。確かに、見たこともない大きさのスライムが出たとかで、その討伐の様子をみて、とても興奮してましたけど。」

「ふふふ、さすがA子は優秀だなぁ。好奇心が素晴らしいね。」

「え、でも、それも何に関係して……?」

「では、明日だが」

「話聞いてます?」

華麗にボクの話をスルーして、自分の話したいことだけを続けるシャロさん。

「朝……は起きるのがだるいしな。昼間に現場で集合としようか。」

「へ? 現場?」

「現場検証だよ。解決期限も早めにと、言われているしな。明日には全て終わらせようじゃないか。」

「あの、現場って……?」

「A子が見に行ったという、巨大スライムの出没現場だよ。場所はA子に聞けばわかるだろう?」

「? それと失踪事件の何が関係して……」

「シャロ様〜、あと少しでご夕食の準備が終わりそうですー」

ボクが質問しようとした合間に、遠くからマリィさんの呼ぶ声がした。

「じゃ、そういうわけで、ワタシとマリィは今から食事なのでね。君も早く帰りなよ。A子も待っているだろう?」

「う、それは、そうですけど……」

確かに。聞き込みが少しずれ込んだ分、帰り時間も少し遅くなってしまう。エアちゃんとシヴさんの二人を待たせるには心が痛む。

「……明日には、終わらせるんですよね?」

「あぁ、約束しよう」

「じゃあ、今日は失礼します! また明日!」

「ほいほい」

半ば追い出す雰囲気で、シャロさんは片手をひらひらさせた。ボクはそれを横目に玄関へと、そして帰路へと帰って行ったのだった。

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