増える謎の共通項を答えよ2
二人でベンチに腰掛けると、先に言葉を発したのは女の人の方だった。
「あの、その、あなたはジェロウさんのお知り合いの方なんですか……?」
このか細い声が普段の声なんだろう。声を荒らげていたお店でのことが彼女にとっては特別大事なことだったのがわかる。
「ボクは、知り合いではないんですけど……」
「じゃあなんでジェロウさんを探しているのですか?」
「それは、その……頼まれたと言いますか」
「頼まれ……? どなたにですか?」
「彼が所属している──」
「?」
言いかけ、ボクは探すことに対して不思議そうに質問をしてくる彼女にどこか引っかかり聞いてみることにした。
「あの、えっと……」
「あ、私は『アズカ』と申します。」
呼び名で困っていたのを察してもらい、自己紹介を受ける。
「アズカ、さん。アズカさんはジェロウさんを探しているんですよね? 他に探してる人がいるのが、そんなに不思議なんですか?」
「あっ……えっと、その……さっきのお店で、彼の噂などを聞いて、それがもし本当の彼なら、探している人なんて他にいないんじゃないかと思ってしまって……」
「なるほど……。ボクは直接ジェロウさんに会ったことはないのでなんとも言えないんですが……」
「いいんです。私が、たとえ騙されていたとしても。彼のことを私だけでも信じなきゃって勝手にそう思ってるだけですから。」
「………………」
アズカさんのその嘘偽りのない強い意志を聞いていたら、なにかボクは少し勘違いをしているんじゃないかと思い、アズカさんにジェロウさんのことを改めて聞きたいと思った。
「アズカさんにとって、ジェロウさんはどんな人だったんですか?」
「…………っ」
一瞬驚いたように顔を上げて、またフードを深く被り直してしまったアズカさんだったが、ポツポツと小さい声で話し始めてくれた。
「……一ヶ月くらい前ですかね。初めは、私の家の近くに魔物が出るって噂があって。その偵察に隊の人達と来ていたらしくて。ある日、本当に魔物が家の近くで暴れて。私、弱視だからすぐ逃げることもできなくて。家の中の隠れられるような所で一人で隠れていたんですけど。なんとなく、物音がしなくなったのは分かったんですが、なかなか動け出せなくて。困っていたところ、その、ジェロウさんが私のこと見つけてくださって。」
どこか遠くを見つめその時のことを鮮明に思い出すように語るアズカさん。
「その目の前に差し出された手は、とても大きく、そして傷だらけで。つい震える両手で握ってしまって。誰かに守られたことなんて初めてでしたから。私……単純なんです。その震えてる手にジェロウさんは気づいて、私が立てるようになるまで、そのままジッと待っていてくださったんです。」
「……そうだったんですね」
「それで、魔物が暴れた時に家の一部が壊れてしまって。その修復が終わるまでって、私にお家も貸してくれて……」
(? 治安部隊が調べた時、ジェロウさんの家には誰もいなかったんじゃ……?)
「だから、その、恋人なんてものじゃないんですよ。私はただの居候というか、なんていうか。ジェロウさんは仕事が終わったら、毎日立ち寄ってくださってたんですけど。それも私がこの街だと人が多くて、なかなか買い物に行くのも大変だからって、代わりに食材や食事を届けに来てくれていただけなので。それで……」
「毎日来ていたから、来なくなって不審に思ったという感じですか?」
「……はい。ジェロウさんになにかあったんじゃないかって。お仕事も危険な仕事ですし……」
「あの、失礼だったらすみません。ジェロウさんが、アズカさんの元へ来なくなったのはいつぐらいですか?」
「え、あ……そうですね、三日前でしょうか。最後に会った日に、『明日は休日だから、せっかくなんでどこかに出かけましょうか?』と誘われたので……。」
「最後が三日前……だとすると、その誘いは実現しなかったんですか?」
「えぇ……そこから丸一日経っても連絡も何もなかったので。ですから今日思い切って街の外に出て、聞いてみたのですが……」
(そうなると、最後にジェロウさんを目撃したのは三日前の勤務後、アズカさんになるのか……?)
「本当に、毎日来てくださっていて。遅くなった日もちゃんとその前に連絡をくださったり、とても几帳面な方なんだとばかり思っていたので……。」
「……だから、街の人達の話を聞いて、違うって、言っていたんですね」
ボクの言葉に、頷くアズカさん。
「けれど、私が会っていたのはここ一ヶ月だけの話で。本来の彼のことなんて、私がなにも知らなかっただけなのかもしれません。皆さんが言うように、やっぱり私が、騙されていただけなんですよ」
と、ボクに無理に作った笑顔をするアズカさん。
「今もどこかで、女の人と遊んでたり、もしかしたら街を出て行ってしまわれたのかもしれないですし……」
そう言いながらも、ボクには、アズカさんがまだどこかでジェロウさんのことを信じているような気がした。
ボクは正直に2番隊の人達の話をするかを迷っていた。でもまだ誰が犯人か、ましてや本当に誰かに殺されてしまったのかも定かではない状況で、話すのは余計にアズカさんに悪い気がして、何も言えないでいた。
アズカさんは、話を聞いてくれる人が見つかって安心したのか、一息つくとボクにこう言った。
「……お話、聞いてくださってありがとうございました。」
「いえ、全然。……そのボク、何も言えなくてすみません……」
「いいんですよ。街の人達の話を聞いていたら、それが当然です。」
「でも……」
「じゃあ、なにかわかったら教えてくれますか?」
「えっ……」
「あなたも、ジェロウさんを探しているんでしょう?」
「あ、すみません。名乗ってもいなくて。ボクは、エインって言います。……実は今、探偵の助手としてジェロウさんの行方を探していて」
遅くなった自己紹介にアズカさんは笑った。
「ふふ、そうだったんですね。それなら、納得です。」
そして今日一番の晴れやかな表情を見せる。
「探偵さんの助手さん。どうか、彼、ジェロウさんのことを見つけてください。私、それまで信じて待ってますから。」
と、今暮らしている住所を教えてもらい、また何かわかったことがあったら連絡をする約束をした。
アズカさんと別れ、時間を気にすると、約束の夕刻を若干だが過ぎていて焦るボク。
名探偵役のシャロさんの元へ走って向かうのだった。
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