増える謎の共通項を答えよ1

 シャロさんとの約束の時間までに、配達を全て終わらすべく向かう目的地は、シェカントの飲食店や酒場が立ち並ぶ区域。効率的にも点在している住宅などを先にしたのは正解だったとも思える。

(もう犯人の目星は出たようなものだけど、一応聞き込みもした方がいいかな……)

と、気を取り直して聞き込みも再開する。が、やはりというべきか、数軒とも今までと同様な評判。中にはジェロウという名前を出しただけで怪訝な顔をする店もあった。

(ここで配達は最後だけど……)

目の前のお店はすでにオープンしていて、中には数人客もいた。ボクは中に入り、お店の人を探す。

「ごめんください。配達に来た者なんですけど……」

入口付近に立ち、キョロキョロと周りを見渡す。

「あのー?」

返事がなく、客がこちらを横目で見る程度でお店側の人が見当たらない。

すると奥の扉から客ではなさそうな話し声が聞こえだし、扉が開く。

「──そんなこと聞かれても困るんですよ。私達も何も知りませんし。もう帰ってください。」

「待ってください。彼は、彼はそんな人じゃありません!」

何やら言い争っている様子で、お店の主人らしき人と、追い返されそうになっている女の人が出てきた。

「お願いします! 何でもいいんです、手掛りがあれば……」

女の人は深く赤いフードを被っていて、表情は見えないが切羽詰まっているような声で主人に縋りつく。

そんな彼女を店主はそのまま出入り口まで誘導しようとしていた。

「はぁ、だから何も知りませんって……。あ」

ボクはそのまま出入り口に立ってその様子を眺めていたため、店主と目があってしまった。

「配達に来てくれたんですね! ありがとうございます。今、お代をお持ちしますね。……ほら、私は仕事なのでもう帰ってください。いいですね」

店主はわざとらしい歓迎をし、女の人を放置してボクの対応をし始める。

「あ、あの、いいんですか?」

ボクは店主に確認をとった。

「お恥ずかしいところを。気にしないでください」

とにこやかに答える店主を見て、女の人は黙って静かにお店を出ていった。


「何があったんですか?」

 目の前でそういう場面に出くわしてしまったため、少しばかり気になってしまった。

「いえいえ、大したことないんですけどね。」

なんて笑いながらボクとの取引を済ます店主。

「なんか、恋人? が突然消えたとかで。その行方を知らないかって、ここら一帯を訊き回ってるらしいんですよ」

「そうなんですね……あ、ついでと言ってはあれなのですが、ボクも聞きたいことがあって……」

「なんですか?」

「ジェロウさんって、知ってますよね? このお店にも来てたと思うんですけど……」

そうボクが訊ねると、にこやかにしていた店主の表情が変わった。

「あんたもかい、ったく、あの奴が1日消えたくらいでそんな心配か?」

「え、あ、ボクはその、知り合いとかじゃなくて……」

急な態度の変化に戸惑うボク。

「知り合いじゃなかったらなんだってんだよ。さっきの嬢ちゃんといい……」

「やっぱり、あの女の人が探してたのって?」

店主が「あんたも」と言った時点で気にかかっていたが、次の言葉で確信に変わる。

「あぁ、ジェロウのことを探してるんだってさ。あんな大人しそうな嬢ちゃんが、あんな奴のどこを好きになったのか……」

「……ボクは探偵の、いわゆる助手という形で今回のジェロウさん失踪を調べてるんですけど。もう少しだけお話聞いてもいいですか?」

真剣な眼差しを店主へ向ける。

「……まぁそういうことなら。仕事もあるし少しだけだぞ?」

と、ボクはさっきまで女の人と言い争っていた奥の部屋まで案内された。


 店主は置いてある椅子に座り、タバコらしき物を手に取り吸い始める。

「はぁ、で? 何が聞きたいんだ?」

「ジェロウさん、についてなんですが。」

「……他のところでも聞いただろ? 酷い奴だったよ。」

「まぁ、その、色々その辺りは聞きました……。」

「他に言えることなんて──」

店主は何か思いついたかのように一瞬止まり、そういえば、と話を続けた。

「あいつ、ここ一ヶ月くらいは確かに大人しかったな。」

「大人しかった?」

初めて聞く話に聞き返さずにはいられなかった。

「あぁ、なんか人が変わったみたいで……。いや、変わろうとしてたっていうのが正しいのか。酒もやめて夜遊びや派手な喧嘩とかも最近は見かけなかったな」

「そうなんですね……」

「それで、昨日あいつが消えたって噂が立ち始めて、今日あの嬢ちゃんが聞きに来たってとこだ。」

「あの女の人は、何か言ってませんでしたか?」

「いや、本当に何も知らないみたいだから、逆にあいつの悪いところとか言っちまってな。そしたらそんな人じゃないだの、言い始めてな……。」

「そうだったんですね。」

「『あれ』じゃあ、まだ遠くには行ってないんじゃないか? 今ならまだ追いつけるだろうよ」

「……『あれ』?」

「さっき気づかなかったのか。まぁ近くでみたらわかるよ。さ、私は仕事に戻るから。配達ご苦労さん。」

「あ、はい。お話もありがとうございました!」

ボクはお辞儀をし、店を出た。


 空になった荷台はあとで取りに来るからと、店主に許可を取りお店の脇に置いてもらえた。

ボクは赤いフードを被った女の人に話を聞くため、軽く走って探していると、他人より歩みが遅く、たまに花壇等にぶつかりそうになっているその女の人を見つけた。

「あのー……」

女の人に追いつき、声をかける。

「ひゃっ」

突然声をかけたからだろうか、小さく驚いた声がした。

「あ、ごめんなさい。その、ボクは怪しい者じゃなくて……」

彼女がボクに目線を上げる。

「………………」

「えっと……」

数秒、見つめ合うような形になって不意にボクは目を逸らしてしまった。直後違和感を感じた。

(あれ……?)

「あの、失礼だったら申し訳ないんですが。もしかして、目が少し不自由だったりしますか?」

「あ、はい……」

と女の人は小さな声でフードを深く被りなおす。こんな小声で喋る人が、さっきのお店で言い争っていた人と同一人物なのが信じられないくらいだった。

「あの、ボクもジェロウさんを探していて。よかったらお話、聞けませんか?」

探偵助手やら、2番隊隊員の話は一旦伏せておいて、声をかける。

「……あ、はい。お願いします……」

そう答えをもらうと、二人で近くの座れそうなベンチに行き、話を聞くことにした。

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