最初の事件の手掛りを見つけよ5

 昼時。飲食店や酒場への配達以外を終わらせ、ボクはシェカント中心部の広場で、シヴさんに作ってもらったお弁当を食べながら昼休憩をとっていた。

ここはいつだって賑やかで、不思議と気分が明るくなる気がする。

(そういえば……)

なんとなく、昨日の帰りに路地裏を見たときにいなかった子供たちを目線で探す。やっぱりというべきか、路地裏にいた子供たちは見当たらない。

(昨日たまたまいなかった。じゃなさそうだ。でもそんな急にいなくなるか……?)

一人二人いなくなったところでボクは気づかず、疑問にも思わないんだろうが、目を向ければどこの路地裏にでも複数人いたのをボクは知っている。しかし午前の配達中、他の路地裏にもそれらしき子供たちはいなかった。だから余計に違和感があった。

(どこに行ったのかな……)

心配したところで、元々自分に出来ることなんて何もなかったのだから、と思いつつ。なにか引っかかっていた。

 そんなことを考えながら、昼休憩を終えようとした時。目の前を治安部隊数人が通り過ぎる。帯刀している剣の付近には赤色の装飾が施されていた。

「あっ、あの!」

「あ?」

不意に声をかけたからか、少し不満そうな返事で一斉に振り向かれる。

「あー……すみません。えっと2番隊……の方々、ですよね?」

「そうだが、君は?」

「ボクは、その、今回の事件……ジェロウさんが消えたことについて調べていて……」

「!!」

ジェロウ、という名前を出した途端、その場にいる2番隊の顔色が変わった。

「あの……?」

「…………いや、4番隊ヨル隊長から話は聞いている。事件の事を聞きに来た奴がいたら親切に答えろと。」

まだざわめきは収まっていないが、どうやら質問には答えてくれるらしい。

「……ここでは人が多すぎる。場所を移動しても構わないか?」

「あ、はい。よろしくお願いします。」


 2番隊に連れられ、移動した先は、エアちゃんが地図に印してくれた場所の一つでもあった。騎士達数人に囲まれると話を始めるよう促された。

「えっと、とりあえず今はジェロウさんについて調べていて。4番隊のイリャチさんとカデッタさんには少しお話を聞いたのですが……。」

「あいつらはなんて言ってたんだ?」

「そのー……」

素直に言っていいのか悪いのか悩んでいると、騎士の一人が言った。

「想像はみんなついてるから言っていいよ。君も聞く話を重複したくはないだろう?」

ボクは納得し、イリャチさん達が言っていたジェロウさんの評判や噂などを話した。

「だいたいあってるな」

「そうだな」

と2番隊の騎士達は口を揃えて肯定していた。

「特に、こいつはよく殴られてたな。」

「お前こそ、潰されてたじゃねーか……」

「……とまぁ、俺達部下は散々だったよ。それでも剣の腕で抜けるやつがいなかったから、ずっと隊長を任されてたんだ」

ここまでは、噂が本当だった確証になる話で、ここからがイリャチさん達と少し違っていた話だった。


「……じゃあ今回の事件についてはどう思いますか?」

 ボクがそう問うと、それまでジェロウさんにされたことや悪口を思い出して言い合っていた彼らは一斉に黙った。その異様な空気感にボクは冷や汗を垂らす。

すると騎士の一人がようやく口を開いて静寂を破る。

「他の隊がどうだかは知らねえが。正直、2番隊は皆、納得してるんだよ。」

「納得……?」

一人が口を開くと他の騎士もそれに続いた。

「あぁ、誰がやったのかも知らないが、んだよ。」

「俺達の誰かがやったとして、俺達はそいつを裏切ることはない。だからな。」

「だから俺達は捜索なんて意味がないと思っているし、出てきたとしてもだろう。」

「まぁ、つまりだ。探偵だか助手だかなんだか知らないが、お前さんに言いたいことは一つだけだ。」

「真相を知りたきゃ、調べてくれても構わないが、してんだ。それだけは理解してくれ。」

「………………」

ボクはうまく言葉が出なく、黙り込んでしまった。

「聞きたいことはそれだけかな?」

と、さっきまでの表情とは変わり、笑顔でボクに尋ねる。ボクは無言で頷く。

「じゃあ、捜査? せいぜい頑張ってくれ」

そう言い残し、騎士達はその場から去っていった。


 これはそう、犯人が自供したようなものだった。2番隊の中では事件はもう終わっているのだ。残る謎は、未だ出てこないジェロウ本人の姿と、2番隊の中にいるであろう犯人。手段。それが解ればこの事件、もとい依頼はおしまいだ。

(シャロさんに報告しないと……あ、残りの配達)

ボクは報告に行く前にはすべての配達を終える予定だったため、聞き込みするべく残した飲食店や酒場の配達がまだ終わってないことに気づく。

(でも、事件はもう……。それに聞いても同じようなことしか出てこないよな……)

そう思いながら、ボクは残りの配達へと向かった。

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