最初の事件の手掛りを見つけよ4

 鳥らしきモノのさえずりが聞こえ、目覚める朝。天気はいいと言えるだろう。ボクはベッドから起き上がり寝起きの身体を伸ばしながら今日一日のスケジュールを頭の中で整理する。

(そうだ、今日は配達しながら事件の聞き込みもするのか……)

異世界に来て一ヶ月は経ったとはいえ、ここの人達とのカルチャーショックに未だ慣れないボクはちゃんと聞き込みできるか心配になってきた。

(あーだめだめだ。しっかりしなきゃ。元の世界に帰るためにも!)

ブンブンと顔を振って前を向く。

「よしっ」

ボクは自分で気合を入れて朝の支度を始めた。


「おはようございます」

 リビングに行くとシヴさんとエアちゃんはもう先に起きていた。

「おはよーございます! エインさんっ」

ぱたぱた近寄ってきて満面の笑みで挨拶をしてくれるエアちゃんが毎日の癒やしで仕方がない。

「おはよう、エアちゃん」

その様子を見ながらシヴさんも声をかけてくれる。

「エインくん、おはよう。昨日はよく眠れた? 新しいことをする前の日ってなかなか寝つけなかったりするから……」

「あ、一応ちゃんと寝れました! ご心配ありがとうございます。」

「あら、それなら良かったわぁ。シャーロットさんとの約束は夕刻だったわよね? はいこれ」

シヴさんがボクに箱型の物を手渡した。

「これは?」

「今日のお弁当。ちょっと多めにしちゃった。約束の時間まで聞き込み頑張ってね。ちゃんと休憩して食べるのよ〜」

シェカントにも食事できる所は幾らでもあるが、自分から取ろうとはしないボクの休憩時間を気にして手作りのお弁当を用意してくれたらしい。手作りなら残さないことも知ってるからだった。シヴさんには本当に敵わない。

「ありがとうございます!」

ここは遠慮などせずに親切をありがたくいただく。

「あ、そうだエインさん」

エアちゃんが何か思いついたようでボクの服の裾を軽く引っ張る。

「ん?」

「配達しながら聞き込みをするんだよね? あのね、騎士さん達がよく休憩してたり集まってたりする場所も地図に印をつけたから、よかったら使ってね」

「おぉ、ありがとうエアちゃん。すごく助かるよ!」

エアちゃん先輩はえへへと、誇らしく笑っていた。

二人からの心強いアイテム(?)をもらって、まるで冒険にでも出るかのような気持ちで出掛ける。

「じゃあ、行ってきます」

ボクは二人に見送られ、配達物も持ち、シェカントへと向かった。


 シェカント入口に着き、相変わらずそびえ立つ元城壁を見上げてしまう。この壮大さがボクの住んでいた都市とは別次元なのだと見る度に思い知らされる。

「君、そこの君」

「え?」

振り返ると、門番らしき屈強そうな騎士が二人。その一人に声をかけられたらしい。いつもシェカント内に入る時、声をかけられたことなんて無かったから、何かやってはいけないことをやってしまったのか?と不安になっていると、

「あーごめんよ? 驚かすつもりもなかったんだが……」

もう一人が、声をかけた方の肩に腕をかけ、気さくに敵意もないことを表しながらこう言った。

「こいつ、堅物で声も低いし怖かったろ? でも怖がらせるために声をかけたんじゃないんだ。」

「あ、はぁ……」

「堅物は余計だ。」

最初に声をかけた無愛想な騎士はもう一人に反論する。

「いやだからそういうところだろ」

反論された側は軽く流し、手をヒラヒラ振っていた。

「………………」

無愛想な騎士は黙り込んでしまう。

「あのー、それでボクに何か……?」

「あっそうそう、君が探偵助手の『トワソン君』? で間違いないのかな?」

「え、あ、はい。正確にはボクはエインって名前なんですけど……」

「おっと、それは失礼。そしてこちらも名乗っていなかったね。オレは治安部隊4番隊の隊員で『イリャチ』、んでそこのデカくて無愛想で堅物な奴が『カデッタ』だ。宜しくな」

「はい……」

「で、オレたちがなんでトワソン君に話しかけたかって言うと──」

「……ヨル隊長の指示だ。本日より第2番隊隊長ジェロウの捜索に加わると聞いてな」

「あ、いやボクは捜索というか……シャーロットさんに聞き込みを頼まれたというか……」

捜索とは少し違った目的のため、修正しようとしたが、目の前のカデッタさんの威圧感に目が泳いでしまう。

「だからお前が喋ると尋問みたいになっちゃって話が進まねえんだよ。悪いねトワソン君。」

「あ、いえ……」

「………………」

カデッタさんはまた黙り込んでしまった。 

「まぁ、それでだ。ジェロウ隊長が今どこにいるのか、昨日も夜遅くまで捜索に出てたが全く見当がつかなくてな。だから捜索でも聞き込みでもなんでも、誰の手を借りてでもオレたちは見つけなきゃいけないんでね」

はぁ、とため息をつき、めんどくさそうに言うイリャチさんは、口で言ってるよりこちらを信用している感じもなさそうだった。

「が、頑張ります……」

とボクは根拠も自信も無かったが、そう言わないと立場がなかった。


「とりあえず、何かあればオレたちやヨル隊長の名前を出せばどの隊でも話を聞いてくれると思うよ」

「わかりました。お声がけしてくださってありがとうございます。」

「……なにか、他にあるか?」

 ボクが聞くよりも先にカデッタさんが聞いてくれた。

「あ、そうですね。まず、ジェロウさんってどんな方だったんですか?」

二人はボクの質問に少し驚きの表情をして顔を見合わせた。その後、イリャチさんのほうが何かに気づいて話し始める。

「そうか君、まだ若えもんな……」

そう呟き、続ける。

「2番隊隊長ジェロウってのは、シェカントでは有名な酒豪なんだよ。夜やってる飲食店や酒場に行けば何処にでも出没するような感じだったな」

「あぁ、だから2番隊の奴らはよく潰されてたな」

「そうそう、オレほんと2番隊じゃなくて良かったわ」

「なるほど。そんな感じなんですね……」

「まぁ、剣の腕は確かだったから、強さで言えば隊長達の中では上の方だったんじゃないか?」

「へぇ……」

ボクは二人の話をメモに取る。

「噂で、その強さがあるから数々の不祥事は無かったことにされてる。とかも聞いたことがあるな」

「数々の不祥事?」

「あー、オレも聞いたことがあるな。不祥事というかむしろ武勇伝みたいな感じになってなかったか?」

「……女を何十人も連れ回したとか。酔った勢いで部下を何人も殴り殺したとかって武勇伝なのか?」

「ひぇ……」

二人の話を聞いていると、確かにそんな派手な動きをしている人を知らないなんて。と怪しまれるのも無理はなかった。

「っと、こんな感じでよかったのか?」

「あ、はい。ありがとうございます。」

「……ジェロウ隊長のことを聞くなら、2番隊の奴らに直接聞くのが早いだろう。」

そうカデッタさんに指摘される。

「そうですよね……。次は2番隊の方々を探してみようかと」

「あー、それならこれを目印に探せばいいよ」

と、イリャチさんは自分の剣を帯刀している付近を指差す。そこには緑色をした装飾が施されている。

「部隊ごとで色が違うんだ。2番隊は赤色だったかな」

「なるほど。有益な情報ありがとうございます!」

「オレたちも捜索はまだするだろうし、本当は外部に迷惑かけるのもどうかと思うが……、早く解決してくれないと仕事がまた増えるからな。どうか宜しく頼むよ」

「……宜しく」

「はい。じゃあボクは配達もあるのでこれで。」

イリャチさんと、カデッタさんに別れを告げ、ようやくシェカントの中へ入ったボク。

(飲食店や酒場にジェロウさんがよく行っていたなら、配達先でも何か聞けるかもな……)

と思いながら、他への配達を先に済ませたのだった。

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