最初の事件の手掛りを見つけよ3

「ただいまです〜。すみません、遅くなりました……」

 玄関の扉を開けて、夕食を待っているだろうシヴさんとエアちゃんに謝罪をいれる。すると、トトトトトトと何かが急接近してくる音がした。

「おかえりなさい! エインさんっ!」

それはエアちゃんが走って近寄ってくる音だった。エアちゃんの表情はキラキラしていて、普段よりテンションが上がっているようにも見えた。

「あのね、あのね!」

と、エアちゃんが早く話を聞いて欲しそうに小さく飛びながらボクを待っていた。その後ろからまた声がかかる。

「こらー、エインくん疲れてるんだから、エアはちょっと待ってて。」

シヴさんが優しくエアちゃんを宥める。

「はは、すみません。遅くなっちゃって」

「いいのよ〜、慣れない所まで配達させちゃったし。迷わなかった?」

「あー、場所は大丈夫でした! ありがとうございます」

「とりあえず、エインくんが着替えたらご飯にしましょう。エアもそれまで待っててね」

「うーわかった……」

若干のしょぼくれ感を出したエアちゃんにボクは

「すぐ着替えて行くから」

と付け加える。

「うん!」

エアちゃんは嬉しそうにリビングへ戻って行った。シヴさんも食事の用意をしに行って、ボクは着替えるため部屋に帰る。


(そういえば、ボクも色々報告したり、仕事の調整とかしなくちゃだよな……)

 ボクは着替えながら、報告すべきことを頭の中でまとめる。自分でもその場の勢いに流されていたから、具体的にまとめが上手く出来たかは不明だったが、とりあえずシヴさんやエアちゃんには迷惑がかからないようにしたい気持ちが強かった。

リビングへ行くと、既にテーブルには食事が並べてありあとは皆座るだけとなっていたようだった。

「あ、エインさん来たよ〜」

「じゃあ、いただきましょうか」

「すみません、待たせてしまって」

「あら、いいのよ〜。エインくんも今日は何かお話ありそうだし」

「!」

シヴさんは帰ってきたボクの様子を見て何かを察していたようで敵わない。全員が座ったところで夕食をいただく。

「「「いただきます」」」

シヴさんの料理は相変わらずの美味しさで、今日色々あって疲れたボクはやっと落ち着けた。

「もうお話してもいい?」

エアちゃんが、シヴさんへ確認をとる。

「いいわよ〜、けど、あまりテンション上げすぎないようにね」

「うん!」

そう返事をしたエアちゃんはボクの方を向く。

「あのね、あのね、今日ね! こーんなに、おっきなスライムがいたの!」

エアちゃんは小さな身体で表せないとばかりに両手を目一杯広げ、大きさを伝えようとする。

「そういえばエアちゃん、見に行ったってシヴさん言ってましたね」

「そうよ〜。仕事も放りだして〜」

少し困った顔をするシヴさん。

「ごめんなさい……。だって、本当にこんなこと起きたの初めてだったんだもん」

「そんなに珍しい事なんだ?」

「うん! スライムは基本的にこんくらいの大きさしかいなくて。討伐してた人達も、普通は子供でも対処できるくらいの強さしかないのに! って大変そうだったの!」

こんくらいとスライムの大きさを両手を使って空で描くエアちゃんは、討伐の人が大変そうだったと言う割にはとても目がキラキラ光っていた。

「それで、そのスライムは討伐できたのかな?」

「うん! 最終的に強そうな騎士の人? が出てきて、とりゃー! って剣を振り下ろして、そしたら、パァンッて弾けちゃった!」

「そうなんだ……」

興奮ぎみにエアちゃんは語るが、想像したら若干恐怖的映像が思い浮かんで身震いした。

「帰ってきてからね。ずっとこの調子で言っているのよ〜」

シヴさんは既に何回か聞かされたのだろう。なんとも思っていないようだった。

(そういえば騎士の人で思い出したけど、屋敷での事を報告しないと……)

そう思っていると、

「そういえば! エインさんが代わりに配達に行ってくれたんですよね? どうでした!?」

食い気味にエアちゃんに質問された。

「あ、今ボクも報告しようかなって思ってて……」

「今日の配達先、シャロさんとマリィさんのお屋敷だった気がしたんだけど……」

「そうだね。そっか、エアちゃんは知り合いだったよね。よろしく伝えてってシャロさん言ってたよ。」

「わぁーい! またシャロさんのお話聞きたいなぁ。あっそうだ今日の大きいスライムの話もしたいなっ、シャロさんなら何か知ってそうだし!」

このエアちゃんの楽しそうな顔を見る限り、シャロさんは随分慕われているんだなと確信する。

「あー、で、その。シャロ……シャーロットさんから何ですけど……。ちょっと頼まれごとをされまして……」

「えっなになに!?」

またも食い気味にエアちゃんは目を見開かせている。

「こらエア、お話は最後まで聞かなきゃだめでしょ?」

「はーい……」

少し叱られてしゅんとエアちゃんの表情が変わり、感情豊かで可愛らしいと思った。

「その、カクカクシカジカで……」


 ボクは配達に行ったら事件の依頼と被ったこと。元の世界に戻れる糸口が見つかるかもしれないこと。その後いきなり探偵の助手役にされたこと。明日からそっちの調査もしなくてはいけないこと。を順番に話した。

一応事件の詳細は伏せて(エアちゃんが興味を持ってしまうため)、あくまで配達の仕事をメインに出来ないかという相談にした。

「それで、急で勝手なのですが、シェカント内の配達メインでやらせてもらえないでしょうか……?」

「いいわよ〜」

シヴさんは即答だった。

「えっ、あっありがとうございます!」

元々否定はしない人だから、相談に苦労はしないだろうな。と検討はつけていたがあっさり許可をもらえると驚いてしまうものである。

「ふふ。エインくんが来て随分と楽になったけど。元々はエアと二人でやっていたことだし、エインくんは元の世界に戻らなくちゃいけないもの。」

「シヴさん……」

「エインくんにも、親御さんや友人さんもいるだろうし、急に居なくなって心配や大事になっているかもしれない。だから早く戻れる方法が見つかるなら、それを優先して欲しいなって私は思っているわ。」

「ありがとう、ございます」

「わたしも! わたしも、エインさんと居るのは楽しいし、お話聞いてくれる人がいっぱいいるのは楽しいけど、エインさんは元の世界に戻らなくちゃ!」

「エアちゃん……」

じんじんと二人の優しさが心に染みる。

「シャロさんは、物知りだし絶対なにか知ってるよ! 知らなくても何かあればすぐ解っちゃうの! それはわたしも知ってるから」

「そうだね。」

「あ、でも、探偵の助手役? ってなんだか楽しそう」

「そうだね……?」

内心不安しかないボクとは反対にエアちゃんは好奇心旺盛で羨ましい限りだった。

「わたしもお手伝い出来ることあったら何でもするからね!」

キラキラした目で見てくるエアちゃんの興味の半分は探偵の助手の方にあるのではないかと若干疑わしいが、他に協力してくれる人がいるのはとてもありがたい。

「本当に、ありがとうございます。エアちゃん、シヴさん。色々いきなりでボクも困惑してたんですけど、勇気出ました! 頑張りたいと思います!」

「えぇ、仕事の方はいつでも都合良くやってもらって構わないから。」

「わたしももっとお手伝い頑張る!」

こうして賑やかに夕食は終わり、ボクは片付けを手伝い部屋に戻り、次の日を待った。

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