最初の事件の手掛りを見つけよ2
「ワタシは名探偵だからだよ。トワソン君」
「…………っ」
その圧倒的な自信に気圧されるボク。
「……シャロさんが名探偵なのは、わかりました。じゃあもう既に事件解決の糸口が見えていたりするんですか?」
「いや」
彼女は即座にそれを否定する。
「え?」
あっさり否定したため、少し期待していたボクは腑抜けた声を出してしまう。
「その名探偵には助手役がついたんだ。これからはその助手君の働きによるだろうね。」
「えっ、ボクだって剣も魔法も持ってませんよ? だからボク達に出来ることなんて……」
「あるさ。
不思議なほど自信に溢れた発言は、なぜかボクも含まれていたらしい。
「そんなこと言われても……」
「まぁこの程度のことを解決出来ないのなら、元の世界に戻る方法なんて一生わからないかもしれないね」
「う、……それは困ります」
「じゃあとりあえず、事件の詳細をまとめようか。マリィ」
「はいシャロ様!」
ガラガラガラと、またどこから取り出したのか大きなボードを用意してきたマリィさん。そこには事件の詳細らしき事が書かれていた。
「ではこちらを」
マリィさんは短めの棒状の物をシャロさんに手渡す。シャロさんはそれを受け取り、左手で握る。そして右手で握った左手を一回パンッと叩く。すると持っていた短い棒が一瞬で長く伸び、更には淡い光を放っていた。
一連の動きを見ていたボクにシャロさんは、
「ワタシ自身、魔法は使えないが、この世界では少量の魔力が込められた道具は幾つもあるからな。これもその一つだが……そんなに珍しいか?」
「まぁ、元の世界も技術としては色々あるとは思うんですけど。魔法的な物はやっぱり何回見ても驚きますね」
「そうか。ワタシからしたらそのポケットに入っている物が気になるが……」
「え?」
「いや、それはまた後でいい。それじゃあ事件概要まとめだ。」
そう言うと時系列順にそれぞれの行動が書かれているところを棒でなぞる。
「昨日、消えたジェロウという隊長も含め、治安部隊2番隊は休日だった。」
「はい」
「そして本日。出勤時間になってもジェロウの姿が見えないため、他の2番隊隊員が家に押しかけたが不在。その後、夕刻の現在までに治安部隊全7部隊が都市及び付近を捜索しているが未だ行方知れず。」
「はい」
「じゃあ、これまでに何か怪しむべき点はあるかな? トワソン君」
「えっ」
ボクは急に質問を振られ戸惑いながらも、頭を悩ませる。
「んー……と、そもそも失踪するとして。そのジェロウさんに何かメリットがあるんでしょうか……?」
「というと?」
「シャロさんは、一端の隊員が突然消えても問題はないけど、隊長レベルになると大事になると言ってましたよね? 隊長って自覚があるならそもそも失踪しようとはならないんじゃ……」
「じゃあ君は、彼が勝手に消えたのではなく、これは第三者が関与する事件だと?」
「そ、そこまで確信としてはないですが……」
「ははは、そんなに謙遜しなくても。トワソン君の言う通りさ。彼の失踪するメリットはワタシ達の知る限りの情報では無い。が正しい。デメリットの方が明らかに多いからな。」
「はい……」
「だからと言ってこの失踪がメリットになる場合もあり得るだろう。一つ目はそこだね。君には彼の身辺調査を頼もうか」
「身辺調査、ですか」
「あぁ。彼がどういう人物か知らないことには、この失踪が自主的であるのか、第三者が関与しているのかわからないからね。」
「どういう風に調査すればいいんですか?」
ボクは助手役に選ばれたとはいえ、調査も何もしたことがない。
「治安部隊への調査協力は取っているからね。そもそも彼らが持ち込んできた事件だ。治安部隊に片っ端から聞き込みすればいいんじゃないか?」
思っていたより他人事のような返事をされたため、一応で聞いてみる。
「シャロさんは調査……されるんですよね?」
「いや。したことないね。名探偵だし」
「えー……」
「だから言っただろう。ワタシはアチデテだって。」
「いやでも情報収集はどうやって……」
「それなら、今までは私が必要な分を聞き込みに回っていましたよ」
横で話を聞いていたマリィさんが割って入る。
「やっぱり……」
「それだと、マリィの仕事が多すぎるからね。誰だって料理や掃除の質が落ちるのは嫌だろう? だから助手役がちょうど欲しかったのさ」
悪びれる様子もなく、ただ当たり前のようにそう言う姿はまるで勝手なる王族のようだった。
「私はそれでも質を落とさずに出来たのですが……」
「別にワタシはマリィを扱き使いたいわけじゃないからね。だから無理はしなくていいって話さ。」
(だからボクが半ば強引に巻き込まれたのか……)
何か少しこの人達の事がわかってきた気がする。
「とりあえず、まず一つ目にトワソン君がすることは、消えた2番隊隊長ジェロウの身辺調査。明日の夕刻にでもその結果を聞かせてくれ」
「明日!? 早くないですか?」
「迅速な事件の解決のためだよ。なるべく早いほうがいいだろう?」
「ボクの仕事は……」
「聞き込みはシェカント内で出来るし、配達の仕事なら何かと都合がいいだろう。A子にもよろしく言っておいてくれ。A子ならすぐ納得も了承もしてくれるはずさ」
確かに、エアちゃんとシヴさんなら簡単に了承してくれそうなのはボクでも分かる。
「……わかりました」
「そしたら二つ目にやる事も自ずと見えてくるはずさ。……もうそろそろ夕食の時間だからね。マリィも準備があるし、君も帰らなくては行けないんじゃないのかい?」
はっと周りを見渡すと元々夕方で薄暗かったこの屋敷が、今じゃすっかり照明だけの明るさで仄暗さを保っていた。
「色々起きすぎて配達に来ていただけなのを忘れてました……」
「ふふっ、じゃあ明日からよろしく頼むよ。助手役のトワソン君」
「はい……」
マリィさんに玄関まで見送られ、荷台を押しながら帰路につく。
「はぁ、にしても探偵の助手になるなんて……」
ボクは今日あの屋敷で起こったことの一部始終を思い出しながら一人呟く。
「結局引き受けちゃったし、でも元の世界に戻るにはシャロさんが何か知ってるかもしれないみたいだったし………」
呟きながら、夜になった都市の街並みを眺める。シェカントは夜でも賑やかなのは変わりがない。むしろ夜の方が灯り等が際立って華やかに見える。
「あれ……?」
ふと以前エアちゃんが気にしていた、路地裏に目を向けた。
「前ならここに何人も子供が居たのに……」
その路地裏には、今は誰も居ないようだった。
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