最初の事件の手掛りを見つけよ1
「突如消えた騎士の謎を解いてくれたまえ」
意気揚々とボクに難題を出したシャロさん。
「え、ボクは助手役じゃ……?」
ボクは困惑した。
「あぁ、そうだよ」
ソファーにもたれたままシャロさんはそう肯定すると、組んでいた脚を組み換え、手を顔の近くに寄せ、指を組み合わせる。
「ワタシはいわゆる『アチデテ』だからね」
「アチデテ……?」
「安楽椅子探偵(アームチェアディテクティブ)です!」
すかさずマリィさんが付け加える。
「そんな略し方するんですかっ!」
思わず突っ込んでしまう。
「まぁつまり、ワタシは屋敷から動かない。だからトワソン君が謎を解くしかないんだよ。」
「えぇ……」
本当に彼女は探偵やらの実績があるのかすら怪しくなってきた。けれど助手役を引き受けた手前、引き返すことも出来なさそうだった。
「事件の詳細は、さっきまでいた治安部隊が持ち込んだものだよ」
ボクの不安はお構いなしに、シャロさんは事件の詳細に入ろうとする。
「さっきの方々は治安部隊なんですか?」
仕方なくボクも流されるようにしかならないようだった。
「ん? あぁ、君は異世界人だったね。あの鎧で武装した輩は基本的には治安部隊とされている。都市シェカントは元々王国だったのは知っているかい?」
「えっと、エアちゃんに聞きました。」
「なるほど。まぁA子に教えたのはワタシなんだけどね」
「ちなみにA子というのは、エアちゃんのことですか?」
「そうだね。あの
シャロさんとエアちゃんはそんなに歳が離れている気がしない見かけをしていて、見た目からしたらボクより下だと思っていたがシャロさんは一体何歳なんだろうか。異世界だから何でもあり……なんて言われても流石にボクより歳上はないだろう。たぶん。
疑問が口から出そうだったが、女性(?)に歳を聞くのも野暮だと思い飲み込んだ。
「話が逸れたね。戻すと、シェカントは王国だった。故にその頃の名残りが残っているんだよ。」
「はい」
「その頃の名残り、と言うのが正しいのか今もまだ続いているのかは、ワタシでさえ全部は把握できないくらい厳重に機密とされていてね。その一つが治安部隊なんだ。」
「機密とされているのに、治安部隊は知られていていいんですか?」
「よく気づいたね。治安部隊とワタシは言ったが、一般市民らは彼らのことを都市に雇われているただの自警団と思っているんだよ。シェカントが王国だったことも古くから居る老人達は知っているだろうが多くの市民は知らないしね。」
「はぁ……」
なんだか複雑な話になってきたなと若干眉間にシワを寄せる。
「ふふ、最初からそんな小難しい話はしないさ。ただワタシが都市シェカントの機密の一部を知っているということがどういうことか分かってくれれば幸いだね。」
と、遠回し気味にシャロさんは都市からの信頼がちゃんとあることを証明する。
「まぁ、なんとなくはわかり、ました。」
「じゃあ本題だ。事件の詳細に入ろうか。」
いつの間に淹れてきたのか、マリィさんが隣で紅茶らしき飲み物を淹れスタンバイしていた。シャロさんはそれを当たり前のように受け取り、一口すする。そしてまた口を開く。
「さっきそこに座っていた女性は治安部隊4番隊隊長の『ヨル』。彼女が言うには2番隊隊長の『ジェロウ』が消息不明となっているらしい。」
シャロさんは目の前の空席となったソファーを指差し、続ける。
「それぞれ部隊ずつに休日があり、2番隊休日明けの本日、出勤してこなかったらしい。」
「…………それはただの無断欠勤では?」
本日、と聞いて何日間かの消息不明を想像していたボクはそう思った。
「あぁ、だから不審に思った他の2番隊が家にも押し掛けたらしい。だがそこにも居なかったと。」
「まだ1日も経ってませんよね? そんなに大事なんですか?」
「そりゃ一端の隊員が突然消えたりしても大事にはならないさ。けれど隊長、だからね。都市からの信頼問題しかり、責任問題しかり色々あるんだろう。」
「それで、人物捜索の依頼なんですか?」
「いや」
「?」
「捜索なんて他の隊も含め、治安部隊が総動員でやっているだろう。それでも見つからなかったからワタシの所へ来たんじゃないか。」
シャロさんはさも当然の如く豪語する。
「それじゃあボク達なんかが出来ることなんてないじゃないですか」
「あはは、君は本当に面白いね。」
「なんで笑うんですか」
「トワソン君、君は誰の助手役になったと思ってるのかな?」
人差し指を口元に当てて、首を少し傾げる目の前の少女は口角を上げ不敵な笑みを浮かべている。
「確かにワタシは剣も魔法も持たない。この世界では弱者そのものだ。そのワタシがここまでの地位を持てているのは何故だったかな?」
「それは…………」
さっきから嫌程聞かされてきた。彼女は
「ワタシは名探偵だからだよ。トワソン君」
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