この邂逅の意味を答えよ3

「シャロ様っ、なんの騒ぎですか!?」

 ボク達の上から女性の甲高く可愛らしい声が降り注いだ。(もとより寝転がっていた彼女を除き)ボク達は一斉に上を向く。

そこには二階の柵から身を半分乗り出し、心配そうな表情を浮かべたメイド服の女性がいた。

(本物のメイドさんなんて初めて見たな……)

なんて悠長なことを思っていた束の間、そのメイドさんはもう柵に足をかけていた。

「え?」

驚きの声を発するのが先か後か、メイドさんは華麗に飛び降り、空中で一回転し、気づいたときにはシュタっと地に足が着いた音がしていた。瞬間遅れでふわりとメイド服のロングスカートがひるがえった。

「………………。」

その場の部外者が全員、その姿に見入っていると、当の本人はドカドカと大股で距離を詰めて近寄ってくる。だが、壁際で竦んでいるボク、間に割り込んだ騎士達のどちらにも視線は移さず、ただ一直線に白ロリータを纏いソファーから崩れ落ちた状態のままでいる主人だろう少女の側に着く。

「もう、シャロ様。如何してその様なご格好に?」

「ん? あぁ、其処の飴玉を取ろうとしてね。ソファーからずり落ちたのだが……」

と、ロリータの彼女はソファーとソファーの間にあるテーブルを指差した。確かにそこには瓶いっぱいに詰められているカラフルな飴玉があった。

「ふぅ、飴玉ですね。もう心配しましたよ。」

と言いながらテーブルの上にある瓶を開け、一粒の飴玉を取り出した。そして主人の近くでしゃがみ込み、手に取ったソレを彼女の口元に近づける。

「はい、シャロ様」

「ふふ、マリィは流石だな」

と言って彼女は飴玉を頬張る。

「ほへれ? ほうへんわ、ふぁんはったふぁな?」

マリィと呼ばれたメイドさんに抱え起こされ、ソファーに座らされた彼女は、カランコロン飴玉を口中で鳴らしながら騎士達に問いかける。

「貴様ッ! ガキだからって俺達を舐めてるのかっ」

一歩前に出ている女性騎士の後ろにいた男性騎士が今にも剣を取ろうと構えだした。それを女性騎士が手で制す。

「やめないか。私達は彼女に依頼をしに来たのだから。」

「しかし、ヨル隊長──」

これ以上は喋るな。という睥睨を男性騎士に利かすヨルと呼ばれた女性騎士。

「し、失礼しました。」

それに怖気付いた男性騎士は自らの隊長及び、何も気にする素振りすら見せない彼女へ頭を下げた。

「悪いな、失礼を。」

ヨル、という騎士は改めて謝罪をし、向かい合っているソファーへ腰掛けた。

「それで、依頼というのは……」

と、二人はボクのことなど気にも留めず話し始めた。



(なんか、色々なことが瞬時に起こりすぎて何がなんだか……)

 ボクは壁際に佇んだまま、呆然としていた。

「あの〜……」

そんなボクに声をかけてきたのは、そこそこの高さのある二階から華麗に飛び降りるなんてことをやってのけるメイドさんだった。

「はっはい……。何でしょうか……?」

平凡すぎるボクは怯えながら答える。

「えっと、貴方は……? シャロ様になにか依頼をしに来たんでしょうか?」

「え?」

問われ、ここに来た目的を思い出す。

「はっそうだ。すみません。ボクは今日、エアちゃんの代わりに配達に来ていた者で……。外からも声を掛けたんですけど、お返事がなく、扉が開いていたので少しだけ中を覗いたらいつの間にか……」

「あら、エアさんの所の配達でしたか」

我ながらまるで不審者の言い訳のような台詞が出てしまっていたが、メイドさんは気にならなかったらしい。それにエアちゃんとも面識があるようで用件は早く済みそうだった。

「今玄関の方に配達物は置いてあるんですが、取ってきますね」

「はい。ではお金を用意してお待ちしておりますね」

ボクは話し合っている二人の邪魔にならないよう、広間を出て配達物を取りに行った。


 配達物を持ち、広間に戻るとメイドさんが入り口で待っていてくれた。品物の確認と受け渡しをし、ボクの任務はこれで終わり。ちらっと中央を覗き、この館の主であろうロリータの彼女はまだ話し合い中なため、メイドさんだけに挨拶をして帰ろうと思った。

「じゃあボクはこれで……」

「あ、お待ち下さい」

「?」

メイドさんに呼び止められる。

「先ほど、シャロ様から貴方様にも話を聞いてほしいと頼まれまして……」

「えっと、ボクは何も知りませんが?」

ワタクシも詳しいことはわかりませんが、とにかくシャロ様に連れてきてほしいと頼まれましたので」

「は? えっ」

と咄嗟に腕を捕まれ、そして話し合いの最中に放り出された。

「連れてきてくれてありがとうマリィ」

「いえいえ」

「???」

状況がわからないボクは、ただ呆然とするしかなかった。

「さて、その依頼受けたいのは山々だが、ワタシはあいにく忙しいのでね」

微笑を浮かべながら彼女はそう言った。

そして大げさな演技のように気づいた仕草をし、こう言った。

「そうだ、君が助手役として活躍するといい」

「は?」

ボクには彼女が何の話をしているのかも知らないし、わからなかった。が、ただただ彼女の物事に巻き込まれた。ということだけは理解した。

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