この邂逅の意味を答えよ1
そんなこんなでエアちゃんとシヴさんのお家に居候して、はや一ヶ月。この農作業にも慣れてきて、若干の楽しみを覚え始めた頃、朝ごはん中にて。
「そういえば、エインさんっていつからここにいるんだっけ?」
エアちゃんがふとボクに問いかけてきた。
「そう言えば、そうねぇ。お手伝いしてもらって私達はとても感謝しているのだけれども、エインくんだって元の生活が恋しいわよねぇ?」
シヴさんもエアちゃんの質問で思い出したように聞いてきた。
「そ、そうですね……」
(い、言えない。ボクも今朝、一ヶ月経ったのに気づいたばかりなんて……)
最初の頃こそ、泊めてもらってるから……や、元の世界に戻るためにも……なんて意気込んではいたが、全く情報も手に入らないまま、手伝いの作業を覚えることで精一杯になり、そのうちそれが毎日のルーティン化し、やれることも多くなってきてそこで楽しみを見出して、もはや元の世界に戻ることすら忘れてたなんて。
「じょ、情報もなにもわからないから難しい、ですよね。ははは」
ここは、情報がない為にしておく。
「エインさんの持ってた、その機械も、シェカントの技巧さん何人かには聞いたけど誰も分からなかったもんね」
「充電は調べているうちに誰かが満タンにしてましたけどね……」
「エレクトロ系の人の魔法すごかったね!」
「魔法でも解決できない機械ってよほど高度な物なんでしょうね〜」
「うーん、元いた世界ではみんな持ってたから、単に技術の違いな気も……」
ナチュラルに剣や魔法がある世界を受け入れつつあり、なかなかの順応性だと自分でも感心する。
「今日はエアちゃんが配達、お昼からでしたっけ?」
「そうね、エインくんには午前中は──」
今日の仕事の確認をし、朝ごはんを終えたのちにそれぞれ支度をするため部屋に戻る。
「一ヶ月、か……」
身支度をしながら、久しぶりに元の世界のことを考えてみた。時間はこっちの日にちで約一ヶ月だけど、向こうはどうなんだろう。ボクは行方不明扱いにでもなっているんだろうか。さすがにそろそろ情報収集もしなくちゃ……だよね。
「はぁ、とりあえず今日の仕事をしよう」
考えてもわからないことはわからないので、こうして逃げてきた感も否めない。けれどボクには力も知識も足りなかったから、ただ状況を待つしかなかったのだ。
そう、今日の午後、あの人と出逢うまでは。
「エインくん〜ちょっといい?」
「あ、はーい」
午前中の仕事が終わり、昼休憩をとって部屋に戻った頃、シヴさんからの呼び声でリビングに行った。
「シヴさん、どうしました?」
「ごめんなさいね。お昼休憩中だったのに。エアがね、なんか近くの湖で巨大なスライムが発見されて討伐中らしいから見てくる!って言って午後の配達を放って飛び出して行っちゃったのよ。」
「え! エアちゃん大丈夫なんですか?」
「そこはね、いつものことだから。大丈夫なんだけど……。別の仕事があって、私は午後の配達に向かえないのよ。」
「あ、じゃあボクが代わりに行きますよ。」
「本当? 助かるわぁ」
「あ、でも今日の配達先は少し遠いけど大丈夫?」
「はい。色々慣れてきましたし、ボクもそろそろ他のところでも情報収集しようかなとは思ってまして……」
「そう、じゃあお願いね。ありがとう」
「はい!」
「エアには帰ったらちゃんと怒っておくから!」
「あはは、でも好奇心旺盛でいいじゃないですか」
「それも、そうなんだけどねぇ」
ボクは、シヴさんが怒っている姿をとてもじゃないけど想像できなかった。エアちゃんのことは少し心配だが、シヴさんがいつものことって言うからには本当にいつものことなんだろう。その好奇心あってこそ、ボクを見つけてくれたというのも過言ではないだろう。
ボクは、代わりに受けた配達先を確認する。
「あれ、ここって確か……」
印がついているのは、都市の少し外れたところ。屋敷のようなマークがある。
「都市の少し外れたところにお屋敷があって〜」
エアちゃんが最初に言ってた話を思い出す。
(あれって確か、エアちゃんに色々教えてくれる子がいるって話だったっけ……)
怒涛の一ヶ月でもうこの世界に来た直後のことは忘れかけていたから、その話も忘れていたけれど。
(そういえばエアちゃん、会わせてくれるって言ってたような。結局忙しくてそれどころじゃなかったけど)
もしかしたら、その子の家かもしれない。エアちゃんは一緒じゃないけど前にどんな子か気になってはいたから、少し楽しみだな。と代わり受けた仕事ではあるが、このときのボクはとても楽観的だった。
都市シェカントの外れ。そこは森のように木々が生い茂っていた。
「うわぁ、ここをこれ持って抜けるのか」
足場は木の根が剥き出しになっていたり、多少ぬかるんだりしていて、配達の荷台を傾きすぎないように転がすのはなかなか難儀なものだった。
「エアちゃんはこんな道も配達してるのか……」
改めて感心する。
ガタンガタンと慎重に押し運び、木々を抜けるとそこだけくり抜かれたように整備された庭が。エアちゃん家には及ばないが中々の広さをしていて、花壇が並び、石造りの歩道や、噴水なのだろうか、水こそ湧いてはいないが立派なオブジェとして置かれている。
「わぁ……」
なにより、その庭の先。何人暮らせるんだろうと思わせる大きさのお屋敷があった。外見も廃墟とまでいかないが随分と古そうで、ツタが側面を覆っていて、簡単に想像するお化け屋敷とかそんなイメージだった。
「ここに、人が住んでるのか……?」
屋敷だけ見るとそう思ってしまったが、行き届いた庭の手入れといい、人が住んでいる印象もなくはない。だが、こんなところに住む人物像が描けなかったのは確かだ。
「お化け、とか出てこないよね……」
屋敷の扉を前にして、少し体感温度が下がった気がしたボクは意を決して扉を叩く。
コンコン
「あの、すみません。いつもの、配達に来たんですけど」
「……………………」
扉の先は少し待っても返事がない。
コンコンコン
「あの! 配達に! 来た者なんですけど!」
さっきより声を張り上げてみる。
「……………………」
けれど返事はなにも返ってこなかった。
「どうしよう……」
と、少し迷いつつも、扉を軽く押してみた。すると、
ギィィィ
古い木が鳴くような音を立てて扉は開いた。その隙間から中を覗き込んでみる。
「あ、あの〜」
中は暗く、覗き込んだだけでは何も見えなかった。
「配達に〜……」
しぶしぶボクは扉の中に入り、荷台も玄関までは、と入れ込んだ。入り口の邪魔にならないところに荷台を寄せ、ボクは中を探ることにした。
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