迷い込んだ異世界の法則を答えよ5
橋を渡りきると高さ10mくらいはあるだろう半円アーチ状の門があり、中にどのくらいの人たちがいるのだろうか? 街中がまだ見えなくても明らかに賑やかな声や音が聞こえてくる。
「これが都市シェカント……」
元の世界の都心部も人は多かったが、みな我、関せずといった表情ですれ違って行く。それに比べたら賑やか具合が断然違う。そのギャップに驚いているとエアちゃんが覗き込んできた。
「そんなに都市が珍しい?」
「いや、都市が……ってより、随分賑やかだね?」
「いつもここはこんな感じだよ!」
「そうなんだ」
「入ったら分かるけど、本当に色んな人がいて、色んな仕事をしてる人がここに商売に来てるの。それで、他の街からも買いに来る人が多いんだよ」
「じゃあもともと住んでる人より、他所から来た人が多かったりするのかな?」
「そうだね! でもさっきも言ったけど元は王国だったから、所々王国っぽいところが残ってる……? らしい!」
エアちゃん自身が他の都市を見てるわけでもなく、その王国っぽさなどがいまいちピンときていないんだろうな。とわかる解説を聞きながらボク達は都市に入り街中を見ながら、中心部へ向かう。
シェカントの内部はほとんどの建物がお店になっていて、各地の名産品だろう物が並んでいたり、飲食店だったり、洋服屋だったり。はたまた露店というのだろうか、自分の世界でいうフリーマーケットのような状態で地面に布を敷いて直売りをしている人も所々にいる。街中を歩いてる人達も格好が様々で、多種多様という言葉がふさわしいと思えた。
入り口からずっと聞こえていた陽気な音がより大きくなってきて、もうすぐ中心部だと理解した。
「おぉ……」
都市シェカントの中心部。そこは大きな円形の広場になっていて、テント式の出店が並び人がごった返していた。元の世界のニュースでみた外国市場のような、それの規模がもっと大きいイメージ。
そして出店がないところでは人々が楽器らしき物で演奏したり、きらびやかな衣装で踊ったりと、ボクには新鮮な光景だった。
ただボクには海外渡航の経験がなかったからこういう光景は新鮮なだけかもしれない。けれど明らかに元いた世界と違う物が沢山あった。
見たことない食材、見たことない服装、見たことない楽器など、極めつけは現代科学ではまず不可能に近い魔法みたいな道具の実演販売。そして武器だろう物も普通に売っていて、普通に違和感なくこの世界にはそれらがあった。
「……インさん? おーいエインさん?」
「はっ」
気づくとエアちゃんがぴょんぴょん跳ねながら顔の前に手を振っていた。
「あ、戻ってきた」
「ご、ごめん。あまりの情報量の多さにフリーズしてしまって……」
「そんなに違うの?」
エアちゃんは不思議そうな顔をして聞いてくる。
「うん、まぁ、本当に、色々と……」
(すれ違う人たちも普通に剣を携えてるし、魔法道具の試打?をしてビームみたいなの出ちゃってるし……。)
とボクは未だに歩きながらキョロキョロして、カルチャーショックを受け入れられずにいた。
「ふぅーん。わたしは普通にいつもの光景にしかみえないけどなぁ」
色々質問してみたいけれど、一つ一つ聞いていたら日が暮れても足りないくらいだろう。ここはとりあえず一番目につくものに話題を変えた。
「この広場から見える、とても大きい建物があるけど。あれは一体なんなのかな?」
ボクが目線の上を指差し、エアちゃんがその方向を向く。
「あ! えっとね、あれがこの都市の王国だった証。シェカント城だよ」
「城……ってお城?」
「うん! あそこには王族? が住んでるんだって!」
「元って言ってたから、住んでた。じゃなくて?」
「あの子は住んでるって言ってたよ。けど、わたしも近くに行ったり、入ったことはないから……」
「そっか」
会話が途切れ、賑わう街中の音にも耳が慣れてきた頃。
ゴーン、ゴーン、ゴーン、ゴーン
「うわっ」
とても大きな鐘の音らしき音が響いた。街が震えてると錯覚するほどに聞こえた。
「大丈夫? エインさん」
耳を塞いだボクを心配するエアちゃん。
「あ、うん、それにしても大きい鐘の音だったね。」
「この鐘、この辺の地域一帯に聞こえるようになってて。だから音の出元のシェカントにいるとすごく大きく聞こえるんだよ」
「ここからなんだ? でも大きい鐘なんてどこにも……」
見渡す限りには鐘などどこにもなかった。
「わたしも見たことないかな……。あの子から聞いたのもまだ、この都市から鳴ってるってことだけなの。今度会ったら聞いてみるね!」
「本当に、その子は物知りなんだね。この都市の外れにいるんだっけ?」
「うん。わたしはそこのお屋敷にもたまに配達に行ってるの!」
「そうなんだ。そういえば、エアちゃんはシェカントには商売に来ているの?」
「そうだよ。家で飼ってるモーヒンから採れる体液とか、近くで採れる色々な薬草とかを加工して、ここで売るんだよ」
「エアちゃん、まだ小さいのに凄いね」
「うーん、でもわたしはまだお家のお仕事してるだけだし、もっと大変な子もいっぱいいるよ……」
エアちゃんの目線の先には、店と店の間の路地裏があって、そこには痩せて衣服も布切れのような物を羽織っているだけの子がいて、拾った石だろうか、それらを露店にすらならない規模で売っていた。
(どの世界にも貧富の差はあるんだな……)
「そっか、エアちゃんは優しいね」
「?」
「だって、すれ違ってる人達はたぶんあの子達のことを気にしてないと思う。か、気になっても何もできずに見なかったことにしてるんだと思う。」
「わたしも何もしてないよ?」
「でも、見なかったり無かったことにはしてないでしょ?」
「うん……」
「ボクだって何ができるわけじゃない。勇者なんかじゃないしね。元の世界にも沢山そういう問題はあるんだと思う。ボクが知らないことも沢山。何もできないから何も言えない。けど、自分が今どんな状況で、もっと大変な人がいることを忘れちゃいけないとは思うんだ。」
「って言っても、ボクもまだ学生だし本当に何もできないんだけどね。」
カッコイイことを言ったようで何一つできないボクは、苦笑いしながらエアちゃんに言った。エアちゃんは少しでも納得してくれただろうか。エアちゃんよりは歳上だから伝えられることもある。と少しは思って言っちゃったけど、とエアちゃんの方を見る。
エアちゃんはなぜか少し笑っていた。
「やっぱりボクが言うのおかしかったかな?」
「ううん。」
エアちゃんは軽く頭を振り否定する。
「『勇者はいない』ってあの子も言ってたの。それでね、『どの世界でもそれは同じこと』って言ってたの。本当なんだなって。」
「そっか」
「でもね、わたしは思うの!」
エアちゃんは顔を上げて少しだけ大きな声を出す。
「ほんの少しの言葉でも元気になったりできるでしょ? 今、エインさんが言ってくれたみたいに。それだけで、わたしには勇者に見えるんだ」
ニコッとエアちゃんはボクに微笑んだ。その笑顔にボクも元気が出る。
「エアちゃん……」
「あーーーーー!」
「えっど、どうしたの!?」
急に大声を出すエアちゃんに戸惑うボク。
「そういえばさっき鐘、鳴ったよね!?」
「え、あ、うん」
「そろそろ帰らなきゃお母さんに怒られちゃう!」
「えっ」
「だってエインさん歩くのめちゃくちゃ遅いから!」
「う……」
黙ってただけで本当はめちゃくちゃ遅いと思ってたらしい。さっきの元気が少し傷ついた。
「また来ようね!」
エアちゃんは帰路につきながらそう言ってくれた。
「うん」
異世界でも違うことだけじゃなく、同じことや同じ思いがあったり、その場所場所でちゃんと生きてるんだ。とボクは思った。
それと同時に、自分の居た世界への思いも馳せる。
(戻る方法、探さないとな……。親も友達も心配しているだろうし……)
迷い込んだ異世界の法則を解決するためにも、ボクは歩くしかなかった。
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