迷い込んだ異世界の法則を答えよ4
まず玄関から出て見えるのは広大な土地だった。牧場ともいえるだろうか。気絶し、目を覚ましてからは一歩も外に出ていなかったからこんなに広々としていたことに気づかなかった。
「ここ、全部エアちゃんのお家の?」
「そうだよ! お隣さんまでは少し歩くの」
「へぇ……」
規模が大きすぎて言葉を失ってしまう。
「あ、それでね。最初にエインさんを見つけたのは……」
と言いながら、エアちゃんは少し先を駆け出した。
「ここ! ここでエインさん、寝てたの! それで──」
エアちゃんが離れたところから声を張り説明してくれている中、ふとボクの傍らに大きい影があることに気づく。
「うわっ」
びっくりしたボクはその場で反射的に横へ跳ねてしまう。
「こら! お客さんをびっくりさせちゃだめって前にも言ったでしょー」
エアちゃんは近くまで寄ってきてその魔物を叱っていた。少ししょげたような雰囲気を出すその魔物には見覚えがあった。
「この魔物って……」
「そう! エインさんが最初に食べられそうになってた魔物。『モーヒン』っていうの。30頭くらい家で飼ってるかな」
「そうなんだ……」
自分の世界でいうところの、牛と馬の中間みたいな姿をしているソレは外見の色こそ変な色合いだが、攻撃性はとってみれない。エアちゃんも慣れている様子で毛並みを撫でている。
「実際に人間を食べたっていう話、わたしは聞いたことないかな。たぶん匂いが違うものが落ちてたからって舐めちゃったんだと思う……。エインさん、許してあげてね」
エアちゃんはそう言ってモーヒンをわしわし撫でながら向こうへ行っておいでと促し、のっそり去り行くモーヒンに手を降っていた。
「隣の都市の方に行くのはね、こっち」
とボクには進行方向を改めて指差し、教えてくれた。
ボクとエアちゃんは家の敷地らしい範囲を抜け、また広々とした丘に出た。とても見晴らしが良く、ここからならやっと隣の都市を視認できる距離だった。
「この丘を下って、あの橋を渡ったら『シェカント』っていう都市につくの」
エアちゃんは指差して、今から行く先をなぞり教えてくれる。
「結構距離、まだあるんだね」
正確な時計は持っていないが、ここまでの敷地を抜けるまで30分くらいはずっと歩いていただろう。そこからさらに橋までは同じくらいの距離がありそうだった。
「うーん。わたしは配達でいつも歩いてるから……」
さらっと自分の体力の無さを指摘される。
「う、ごめんね」
「大丈夫! ここまでかなりゆっくりで結構かかっちゃったけど、初めてなんだし!」
フォローになっていない追い打ちをかけられ、ちょっと休憩……とも言い出しにくくなるボクだった。
「エインさん大丈夫?」
「うん……」
「とりあえず橋の手前まで行けそう?」
「うん」
年下の女の子にとても気遣われて、若干惨めな気持ちになったが。慣れていない、整備もそこまでされていない道を歩くのが初めてだったから仕方ないと自分に思い込ませた。
丘を下りながら、エアちゃんはシェカントという都市のことを教えてくれた。
「シェカントは、元々王国だったらしいんだけど、今はそんなに王政? じゃないんだって。その時のシステム? 名残り?は残ってるらしいんだけど。商業都市として色んな人が集まって来れる場所になったんだって」
時々、言葉の意味がうまく理解できていないのか、疑問符を付けながらも一生懸命説明してくれるエアちゃん。
「なるほど。エアちゃんは詳しいね。お母さんも言ってたけど、エアちゃんはお母さんに色々教えてもらったの?」
「ううん、お母さんじゃなくて、うーん、なんて言ったらいいんだろ……。この都市の少し外れたところにお屋敷があって、そこに住んでる子? に教えてもらったの!」
「そうなんだ?」
随分と曖昧な表現だな、と少し引っかかったが、歳もまだ小さいしそんなものかなと納得する。
「でね! その子? すごーく物知りで、いつも色んなお話聞かせてくれて! わたしは大好きなんだ!」
とても嬉しそうにその子の話をするエアちゃん。
「今度、エインさんも一緒に行こうね!」
「そうだね、エアちゃんがそこまで言う子はボクも気になるな」
「すっっっごい綺麗な子? なんだよ! まるでお人形さんみたいで憧れなの」
「へぇ、お人形さんみたいかぁ」
なんて話しながら歩いていると、水の流れる音が聞こえてきた。
「この音は……」
「もうすぐ橋に着くよ」
「あ、本当だ」
橋の手前まで来たボク達。目の前には大きな川があり、そこにとても立派な橋が架かっていて都市の入口へと続いている。橋自体もそこそこの長さがあるみたいで着地点がわずかに見えるか怪しいくらいだ。
「それにしても……」
橋にも驚いたが、もっと驚くべきは見上げても一番上まで見えないだろう都市シェカントの大きさだった。もともとは城壁だったのだろう、そびえ立つ壁の大きさには圧巻されてしまう。
ボクの世界で高い建物といえば高層ビルだが、あれはまだ横幅が把握できることが多い。だけどこの壁は横一面に広がり、その周囲は計り知れない。一日かかって周りを歩けるかも疑問に思うほどだ。
「エインさん?」
規模の大きさに驚き、ずっと上を見続け固まっていたボクを見かねてエアちゃんが話しかけてきた。
「はっ、ごめんごめん。こんな大きい壁見たことなくって……」
「そうなんだね! この橋を渡ったら中に入れるよ!」
「そっか。じゃあ行こっか……って言いたいところなんだけど、ちょっと休憩していい?」
歩き慣れない道をひたすら歩いたから、足の疲れにピークがきていた。
「わかった! お母さん、お弁当も作ってたし休憩しよ」
「ありがとう」
川のほとりに移動したボク達は、座れそうな場所を探しお弁当を広げる。天気も良く、まるでピクニックみたいだった。
「はぁー」
「どうしたの? エインさん。」
「いや、とても良い景色だし、とても気持ちがいい空気なんだけど……」
「……お家に帰りたくなっちゃった?」
「お出かけしに来たならいいんだけどね」
ボクのセンチメンタルにエアちゃんは少しシュンとした顔をした。
「あ、いやごめんね。楽しいのは本当だよ! エアちゃん色々教えてくれるし……」
「わたしもお家帰れなくなっちゃったらすごく悲しいから、エインさん無理しなくていいよ」
(なんていい子……)
エアちゃんのいい子度合いに逆に涙が出そうになる。
「エアちゃん天使……」
「?」
様々な感傷に浸りながら、お弁当を食べていると、聞き慣れない音が近づいてくることがわかった。
「ん?」
ぽよん、ぽよん
(なんだこの、気の抜けた音は……)
ぽよん、ぽよん
辺りを見渡すと何かが動いた気がする。が、はっきりとは見えない。キョロキョロしたボクにエアちゃんが気づいた。
「エインさん、どうしたの?」
「あ、いやなんか変な音? が聞こえるなぁって……」
ぽよん、ぽよよん
「あ、ほらまた──」
と言いかけ右下をみると、何やら不思議なモノと目があった。
ぽよん
ソレはその場で小さく跳ねて移動していて、移動した跡が湿っているようだった。
「うわっ」
「あ、それはスライムだよ〜」
何事もないようにのんびりお弁当を食べながらエアちゃんは答える。
「ス、スライム?」
(確かに、見たことがある異世界転生にはいた気がするけど……)
実際に至近距離で見ると、水まんじゅうのとても大きい感じでしかもそれが勝手に跳ねたり、瞳?らしいものがついていて、可愛いよりかは、気持ち悪かった。
「スライムは攻撃してこないから、安心して大丈夫だよ」
「そうなんだ……」
よくよく見るとその感触が気になってしまい、ふと触りたくなってしまった。
「さ、触っても大丈夫?」
「一瞬なら大丈夫だけど、あんまり長い時間はやめたほうがいいってあの子が言ってた」
「い、一瞬……」
唾を飲み込んで、ほんの少しだけ触ってみることに。
ぽちゃん、ぷにゅー
「うわ、指が沈み込んだ」
「スライムは、体内に物を取り込んで栄養摂取するんだって。でも弱いから自分より大きい物とか取り込めなくて、その辺に生えてる草とかが主な食事だって聞いた!」
「だから、長い時間体内に指とか入れてると、溶けちゃうかも……なんて」
「ひっ」
ボクは慌てて指を引っ込める。
「あははっ、冗談だよ! エインさん怖がりさんなんだから」
「冗談ならよかった……」
くすくす笑ってるエアちゃん。こっちは見たことのないモノが多すぎて気が気でない。
「じゃあ、エインさん食べ終わったら行こ?」
「……うん」
ぽよん、ぽよんという不思議な音を聞きながらお弁当を食べ終え、都市へ架かる橋にボク達は向かった。
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