迷い込んだ異世界の法則を答えよ3
とりあえず、ボクが倒れて寝かされていた部屋をそのまま貸してくれることになり、エアちゃんは張り切りすぎてご飯を食べたあとはすぐ眠ってしまった。
「ごめんなさいね。片付け、手伝ってもらってしまって」
「いえいえ! これからご迷惑をかけるのはこちらなんですから……、あっお母さんこのお皿はここでいいですか?」
「そこでいいわ、ありがとう。あと、私の名前言ってなかったわね。『シヴ』っていうのよ」
「シヴさん……!」
「ふふ、いつまでもエアのお母さんじゃ呼びにくいでしょう」
「ありがとうございます。本当に、見ず知らずのボクに親切にしてくださって……」
ボクはまた少し涙が出そうになっていた。
「いいのよ、ここしばらくはエアと二人で暮らしていたから……。賑やかな方があの子も喜ぶわぁ」
「二人だけ、なんですか?」
少しの疑問が口から先に出てしまい、ハッと口元を抑えた。
「あ、失礼だったらごめんなさい……」
「あら、全然。お父さんは仕事で家を空けているだけだから気にしなくて大丈夫よ」
本当に物腰も柔らかく、聖母のような人だった。
「良かったです。」
カタン、カタンとお皿を重ねてゆく音がよく響く。
「お家も、本当に素敵ですね!」
「そう? どこもこんな感じよ」
「へぇ、そうなんですね……」
「そうだ、エインくん。あ、エインくんって呼んでもいいかしら?」
「全然、気にせずどうとでも呼んでください」
「ありがとう。それで、明日なんだけど、エアと一緒にこの村を見て来たらどうかしら?」
「えっあ、仕事のお手伝いなどは……」
「今はそんな忙しい時期でもないし、明日の作業は私一人でも出来るもの。それより、全く違う世界から来たのでしょう? 色々この世界の事、村の事知っておいたほうがきっと為になるわ。」
「それは、そうですね。じゃあお言葉に甘えて……」
「うんうん。エアもこの村から隣の都市までは一人で行けるし。あの子、好奇心旺盛だから見た目よりずっと物知りなのよ。」
「そうなんですね! じゃあ安心だ」
この世界の事を知るのは結構不安だった。見たことのない動物? や、物事を見るたびに怖くなってしまうんではないかと思ったから。
でもシヴさんやエアちゃん達はこの世界で生きているんだよな。と思うと少しは恐怖心も和らいでくる。
「エインくんのおかげで早く片付いたわ。ありがとう」
「いえいえ」
「私は今からエアを部屋に連れて行って寝る支度をするわ。エインくんも今日はお休みになって。」
「はい。ありがとうございます」
「明日はエアのこと、よろしくね。」
「こちらこそ、よろしくされるのはボクの方なので……」
「ふふふじゃあおやすみなさい」
挨拶を交わし、ボクは部屋へと戻った。
翌朝。
「おはよーっ! ございますっ!」
元気な挨拶と共に勢いよく部屋のドアが開いて、その音に驚き、飛び起きる。
「びっくりした。おはようエアちゃん」
衝撃で起こされた感じになってしまったが。昨晩はボクも慣れない環境に疲れたのか、色々考える間もなくすぐ寝ていて。それでも今、エアちゃんに起こされることで、ここは自分の暮らしていた家では無いことに気付かされた。
「エインさんまだおねむですか?」
エアちゃんがボクの顔を覗き込んでくる。
「ううん、起きるよ」
「お母さんから聞いたの! 今日はわたしがエインさんに村を案内するって!」
すごい楽しみにしている顔でエアちゃんはわくわくを抑えきれずにいた。
「うん。よろしくね」
寝起きとのテンションの差があるが、どうにか繕ってエアちゃんには先に準備してもらうことにした。
楽しみより不安の方が大きいボクは、ベッドから立ち上がり貸してもらった服に着替える。この世界では元の学生服だと見慣れないため目立ってしまうとのことで、シヴさんが家にあったお父さんの服を貸してくれた。サイズが若干合わなく、裾がダボついてしまうが仕方がない。
ふと、一晩経ったが、自分が不在の家はどうしているんだろうか? と心配がよぎる。けど元の世界に戻る方法もなにもわからないのだから、今はこの状況に順応していくしかない。と考えるのはやめておいた。
リビングにいくと、エアちゃんはすでに準備万端で溢れ出る楽しみオーラにボクは頬が緩んだ。
「エインくん、おはようございます」
「あ、シヴさん。おはようございます」
「これ、今日のお弁当。エアに持たせると動きすぎて崩れちゃう可能性があるから、エインくんが持っててくれる?」
「お弁当! もちろんです。ありがとうございます!」
「私はこのあと仕事をするけど、日が暮れる前には帰ってきてね。」
「はい。分かりました」
「エアも、あんまりはしゃぎ過ぎないで、ちゃんと案内してね」
「うん! だいじょーぶ!」
「ふふ、じゃあ二人ともよろしくね。いってらっしゃい」
「いってきまーす!」「行ってきます」
そしてボクはこの異世界の地へ、初めてちゃんと足を踏み入れた。
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