迷い込んだ異世界の法則を答えよ2
廊下から部屋に戻ってきたエアちゃんの後ろから見えた人がお母さんなのだろう。ボクは少しかしこまった。
「あ、あの、しばらく寝てしまっていたみたいで……。すみません。ベッドも借りてしまって」
「いえいえ、いいのよ。旅人さん、なのでしょう? お疲れだったんでしょう。こんなボロ屋だけど休めるだけ休んでいってね。」
「あ、いえボクは……」
「ちがうよーお母さん。エインさんは『ガクセイ』さん? なんだって」
ボクが正そうとしたところをエアちゃんが代わりに答える形となった。が、お母さんまでもボクのことを『旅人』と呼んでいたのが気になり、ボクはなにか妙な気がし始めていた。
「あら、じゃあ隣の都市へ行く道中だったのかしら? でもどこか怪我とかもなさそうでよかったわ」
「えっと、あの、つかぬことをお聞きしてもよろしいでしょうか……?」
「なにかしら?」
「ここはその、エアちゃんに『ファースタート村』と聞いたんですが、それって何県にあたるんですか?」
自分から来ておいて、おかしな質問をしているのはわかっていたが、どうしても何も思い出せないためこういう質問をするしか他なかった。
しかし、またその解答も自分の考えとは全く違うものが返ってきた。
「? えぇっと……」
困り果てたような表情をするお母さん。エアちゃんも不思議そうな顔をしている。
「その『ナニケン』? というのがあまりよくわからないんですが……。エアの言う通り、確かにここはファースタート村ですよ。農作物を得意とする村です。」
「えっと…………」
その発言にボクもわからないながら必死に言葉を選んだ。
「じゃ、じゃあここは日本じゃないって感じですかね……なんて、あはは……」
エアちゃんのお母さんは本当に申し訳無さそうな顔をして、
「ごめんなさい。『ニホン』? もよくわからないのだけれど……。エインさんはその都市から来たんですか?」
「来た、というか……?」
(よく、わからない? 普通外国でも日本って言えばまだわかるはず……。というか言語は通じてるのにこの噛み合わなさは何なんだ? ドッキリ企画……なんてこの様子だとそんな感じでもないだろうし。まるで……)
まるでどこかで聞いたような話。『異世界』に迷い込んでしまったみたいだった。
疑問が疑問を重ね、お互いに黙り込んでしまいどことなく微妙な空気が漂う中、エアちゃんがそれを察したのか否か何気ない一言をかける。
「お母さん、わたしお腹空いちゃった」
と、お腹空いたという言葉に対して体が反応したのか、ぐぎゅぅ〜とボクのお腹が鳴ってしまった。
「す、すみません……」
恥ずかしくなり謝罪をする。
「いいのよ、もう日が暮れてこんな時間だもの。お話は食べながらでも出来るしね。」
とエアちゃんのお母さんは言って、
「ご飯の支度してくるから、エアは手伝って。エインさんは、起きれるようでしたらリビングまで出てきてください。」
「はい……ありがとうございます」
ボクがお礼を言うと、二人は支度のため部屋から出ていった。
「はあぁぁ」
深いため息をひとつ。
「ワケが、わかんないな……」
ボクは急に不安になった。さっき確認したスマホをもう一度取り出して見てみる。
「え…………」
さっきは急いで見たから圏外の文字しか目に入らなかったが、よく見ると時計も文字化けを起こしていて、中を開いても色々バグってしまっているようだった。
「はは……本当に異世界に来ちゃったってことかな……」
笑うしかない状況だった。これが夢なら覚めてほしいと思ったが、ボクはさっき目覚めたばっかりだ。
(とにかく、この状況を把握しないといけないし。あの二人にもボクは違う世界から来た? らしいことを説明しないといけないな。)
ぐぅ〜っとまたお腹の音が空腹を知らせる。
「こんな時にもお腹は減るし、減っていたら頭も働かないもんな……」
座っていたベッドから立ち上がりボクは親子がご飯の支度をしている方へと向かった。
いい匂いが廊下を案内し、物音がしているそれらしき部屋を訪ねると、
「あ、エインさん。こっちこっちー」
座る席までエアちゃんが案内してくれた。
「ボクも何か手伝うよ」
「いいの! お客さんはおもてなしするんだから!」
とエアちゃんに止められた。
「ふふふ、外から来た人が珍しくて、エアは嬉しいのよ。」
お母さんはその様子を見ながらキッチンに立っている。エプロンをして料理をする、その姿はどこの世界でもあまり変わらないようだった。
机に並び始められた料理はどれも美味しそうで、見た目も特に歪だったりなんかはしない。
エアちゃんは一生懸命キッチンとテーブルの往復をしていて、確かに楽しそうに思える。
全ての料理が出された頃にはテーブル上は隙間なく埋め尽くされていた。
「わぁ……」
あまりの豪華さに感動の声が漏れる。
「お母さんも張りきったでしょー」
「まぁねぇ。お客さんなんて珍しいから……」
「なんか、申し訳ないです」
「いいのよー好きでやってるんだもの。それより作りすぎちゃって時間かかってごめんなさいね。」
「わたし、お腹ペコペコ〜」
「はいはい。お腹は空いていたほうが美味しく食べれるのよ。いただきましょう」
ボクはとても感謝しながら、二人と共に食事を始める。
「「「いただきます」」」
とりあえず一番手前に用意された白いシチューのようなスープをスプーンで掬っていただいてみる。
「わ……美味しい! とても美味しいです!」
お腹がとても空いていたのもあるが、エアちゃんのお母さんは料理が上手だったらしい。スプーンが止まらなくなってしまう。
「それはねー、うちで飼ってるあの子達の乳なんだよ!」
エアちゃんが得意げに解説をする。
「あの子達?」
「ほら、エインさんをわたしが最初に見つけたとき! エインさん、食べられそうになってたんだよー」
「あ……あの獣……」
(それも夢じゃなかったんだ……)
と恐怖感を少し思い出す。
「あの魔物は家畜用にうちで飼い慣らしているんです。」
「魔物なんですか?」
「エインさん何も知らないのー?」
エアちゃんがまた少し不思議そうに訪ねてくる。
「あー説明すると長くなっちゃうし、信じてもらえるかもわからないんですけど……」
意を決して事情を話してみることにする。
「ボク、この世界じゃない他の世界から来ちゃったみたいなんです……」
「え!?」
「あら」
二人はとても驚いた顔をしていた。
が、特にエアちゃんはすぐに表情をキラキラさせたものに変えて興奮した様子で聞いてきた。
「それって! それって! 異世界から来たってこと!?」
ボクとエアちゃんが向かい合っていたために、エアちゃんはテーブルを乗り出すように詰め寄る。
「こらエア。お行儀悪い」
それをお母さんが少し怒る。
「ごめんなさい」
すぐにしゅんと席に座りなおすエアちゃん。
「ごめんなさいね、うちの子、好奇心旺盛ですぐ興奮しちゃうから」
「いえいえ、嘘みたいな話ですし。実際ボクもまだ全然信じてないんですけど……」
「でもでも! わたし、エインさんが持っているその機械見たことなかったよ!」
「機械……?」
「これですね。」
ポケットからスマホを取り出して、お母さんにも見せる。
「一応こっちの世界ではこれが通信機能というか、電話……遠くにいる人と話したりやり取りできたりするんですけど。ちょっと今壊れちゃった? みたいで……」
「あら、大変。でも私もこんな機械は見たことないわ」
「でしょでしょ! すごいなぁ〜動いてるところみてみたい!」
「動いてくれたらいいんですけどね」
ボクは苦笑いしながら、状況を伝える。
「その、エアちゃんがボクを見つけてくれるまでの記憶が全然思い出せなくて……。どうしてそこに倒れてたのかも、どうやってこっちに来たのかも、わからなくて……」
「それは困ったわね。うちでよければ寝泊まりするのは構わないけれど……」
「本当ですか? それは、とても、助かります。」
もしかすると涙ぐんでいたかもしれない声で感謝を伝えた。
「じゃあ、わたしが明日から色々教えてあげる!」
「ありがとう。エアちゃん」
「不安でしょう。私達でよければ、出来る範囲でサポートしますよ。」
「うぅ、本当にありがとうございます……」
もしかしなくても涙ぐんで頭を下げる。
「ボクも、お仕事とか、居させてもらう限りはお手伝いさせてください……! お願いします……」
「えぇ、男の子が居てくれると私も助かるわ。ほら、お料理冷めちゃう前に美味しく食べましょう?」
「ありがとうございます……うぅ、ちょっとしょっぱい……」
「あはは、エインさん泣いてるからだよー」
お母さんの優しさに甘え、エアちゃんに煽られながら、ボクの異世界生活が始まった。
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