【随想】塩をかける

昼に干した洗濯物のことを思い出し、

零時過ぎに硝子戸をあけた。


洗濯物をとりこんで、

硝子戸をしめようとした時。

ちょうど部屋の光がとどかない際に、

一匹の影がみえた。--なめくじだ。


黒々とした胴体に

角を小刻みにふるわしている。


僕は、とあることがあって以来、

なめくじを仇のように憎んでいたので、

台所へと駆け寄り、

袋から塩をひっつかむと

(すぼらなので袋のままつかっている)

奴のところへ駆けもどり、

パラパラと塩をまぶした。


暗くてよくみえなかったが、

塩がかかるたびに

からだをうねうねとさせているようだった。


それでも塩をかけつづけているうちに

普段は温厚そのものの自分が

奴に対してにだけ、

これほどまでに残酷になれること。

そのことが恐ろしくなってきた。

しかし、

拳いっぱいに握ってきた塩を戻すわけにもいかない。

えいやと最後はてのひらをひらいて、

奴を生き埋めにした。


翌朝、僕は寝床をぬけると、

硝子戸をひらいた。

塩の山はそのままになっていた。

棒きれでおそるおそる山を崩すと、

細長い落ち葉がいちまい現れた。


僕はなめくじと見まがい、

枯葉に塩をふりかけていたのだ。

なんだかひどく安心した。

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