14.競馬での大敗と凶行

 夙に述べたが、その時分、私は無職だった。働きたくなかった。

 何とかして、ギャンブルだけで糊口を済ませたかった。しかし、大敗に次ぐ大敗、野垂死にはせぬまでも、私の経済状況は加速度的に悪化していた。

 その日、私はある馬に己が命運を賭けた。競馬である。

 その馬は実力は申し分ないが、なぜか人気せず、その分オッズが大変美味しかった。私はその馬の単勝、つまり1着に5万円を投じた。単勝オッズは7.0。勝てば大金が手に入る。私の生活にツキが巡り、私は幸せになれる。私は、近くの場外馬券で馬券を購め、テレビの競馬中継でレースの行方を見守った。

 転帰、私が選んだ馬はクビ差で2着に敗れた。ホンの数センチ、それが足りなかったがために、私は5万円を、そして得られたかもしれない大金の夢を失った。

 レースが終わった直後、私は現実を受け入れられず、テレビ画面を見つめ立ち竦んでいた。それから、絶望と怒りが沸々と生じた。

 がぁぁぁぁ、私は怒声を上げた。先ず、私は騎手を心の底から呪った。レース展開を思い返してみれば、騎手の失敗が幾つも思い当たった。私は憎しみと共に騎手の顔を思い浮かべ、「死んじまえ」と絶叫した。それからネット上の至る所で、騎手の悪口を思いつく限りに書き連ねた。怒りは収まらなかった。何かに八つ当たりをしたかった。

 そこで八つ当たりの対象に仏像が選ばれたのは、競馬で大金を失ったことによる悩乱がひとつ。それから何ら心霊現象を起こさない仏像への、それこそ八つ当たり的な感情が理由となった。

 私は書棚に置いてあった仏像を机に横臥させた。そして、以前の職場から無断で頂戴した工具セットを取り出した。

 そこから鋸を引き出し。刃を仏像の腹に据えた。

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