12.プロフェットへ

 仏像の引き取りを拒否することもできた。

 ただ、遺言という性質上、それを断れば私の人格が疑われるのではないか、義理人情を欠いた輩として軽蔑されるのではないかという肥大した自意識が、私にそれをさせなかった。

 私はプロフェットへ向かった。Aの言った通り、店内では有志によって整理が行われており、私がAの名を出すと、何の差障りも無く入ることができた。

 仏像を引き取り、目ぼしい本を幾つか見繕って――さすがにそのまま帰るのは気が引けたので、片付けも大変でしょうから、よろしければこれで飲み物でも買ってくださいと言って、有志たちに幾らか渡しておいた――さあ引き上げようとしたところ、有志の1人に話し掛けられた。

 50過ぎくらいの、ごま塩頭をした小柄な男、疲れたような顔をしていた。どこの地方の人だろうか、独特の訛りで喋った。

「余計な世話ってかもしれんけども、そだか仏像は気味悪いですがい。はや、捨てさった方が良かんげと思いますが」

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