9.えらい死に方されたみたいですねぇ

 火災から数日が経ち、私は桜木の邸宅を訪れた。結論から言えば、彼は自殺していた。死に様は分からない。

 私は呼び鈴を鳴らしても沙汰がないので、桜木邸の周りをウロウロしているところを、不審がった近隣住民に声掛けられた。そこで会話を交わす裡、彼の死を識った。どうも桜木は、私に仏像を預けてから間もない裡に、亡くなったらしかった。

「えらい死に方されたみたいですねぇ」

 私に声を掛けてきた男は言った。私はその""えらい死に方""の仔細を訊かなかった。今思えば、訊いておけばよかった。ただ往時の私は、不審者扱いされたことへのショックからパニックになり、一刻も早くその場を立ち去りたかった。

 私は絶望していた。

 呪いや仏像に対してではない。桜木の死により、私は大金を手に入れることができなくなった。手元には奇妙な見た目の、資産的価値の感じられない仏像だけが残った。そうした事態に私は沈鬱な気分になっていた。そして同時に、ハナから桜木は、私に仏像を押しつけて死ぬつもりだったのではという愚かしい考えも浮かんでいた。

 つまり桜木は仏像を恐れて、それからの逃避として自死を選んだのではないかと考えたのである。そして死ぬにしても、出来るだけ自分から仏像を遠ざけたかったのではないか……。

 だがやはり、私は呪物というものにも、件の仏像にも半信半疑だった。だから、仮に桜木の自死が私の考え通りだったとしても、それは思い込み過ぎた故のヒステリーとして私は感じてしまうのだった

 私はオカルト好きで、夙に述べたように、幽霊見たさに心霊スポット巡りをしたり、霊能者探訪をするような人間だったから、仏像に対する「ひょっとしたら」という気持ちは持っていたし、その気持ちは、仏像を預かった最初に比べれば増していた。併し一方で、というか身の裡の大部分では、私も現代人の端くれとして、理性的かつ合理的に物事を考えていた。故に仏像の呪いなぞという与太話に対しても、少しく冷めた視線を向けていたのである。

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