4.引き受ける

 ここで話が冒頭に繋がる。

 この仏像は強力な呪物であるが、君くらい霊感の欠如した人間であれば影響を受けずに済むかもしれない。仮に何かが起きたとしても、狂的に霊現象を追い求めて来た君からすれば、むしろ願ったり叶ったりではないか。

 桜木は言った。そして同時に、バイト代としてかなりの大金を呈示したのである。 

 結句、私は引き受けることにした。

 引き受けるにあたって、私に逡巡が無かったわけではない。まず、これは話として怪しすぎる。おかしな仏像を預かるだけで大金が貰えるなぞ、小学生でも胡乱に感じるだろう。犯罪の匂いがしないでもなかった。たとえば仏像の中に薬物でも隠しているのかもしれない。もしくは仏像を返却する段になって、傷がついただのと因縁をつけて金銭を要求してくるかもしれない。

 夙に述べたが、私は職業霊能力者を相手にして痛い目を見たことがあった。だから同じく職業霊能力者である桜木を警戒していた。またこれも先述したように、私は桜木に対して好い印象を持っていなかった。その印象は会話を重ねても変わることがなく、むしろ私により一層の悪印象を抱かせた。

 話術のひとつに、あべこべの評価を間断無く浴びせて相手を混乱させるというものがある。何かしらの目的があって、最終的に相手をコントロールしたいと考える人間が、稀にこのような話術を使う。桜木は明らかにこのテクニックを用いていた。桜木は私を貶したかと思うと、次には持ち上げた。下げて褒めての繰り返し。彼は余程、私にこの案件を引き受けさせたかったようだ。

 とまあ、以上のようなことを考えて、私は多少の遅疑をした。併しながら、桜木から示されたバイト代は相当に魅力的なものだった。それに、往時の私は生活のストレスから自棄気味になっていた。クソみたいな人生、破滅するならそれも好しと、半ば開き直るようにして、私はこの一件を引き受けた。

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