3.才能が無いのも一種の才能

 私は桜木の自宅に招かれた。立派な邸宅だった。

「君、まったく才能が無いっていうのも一種の才能なんだよ」

 桜木は言った。

「君は降霊術を試したり、何か所も心霊スポットを巡ったそうだね。とくに君はU峠に3回も行って、裡1回はそこで泊ったそうだね。あそこは本当に危険な場所だ。あそこで悪ふざけをして、最終的に命を落とした者を僕は識っている。それなのに君は何も起きていないと言う。多かれ少なかれ、誰にでも霊感は備わっているんだ。幽霊が見えずとも瘴気にあてられれば、何となく嫌な感じを受けたり体調を崩したりするものなんだ。でも君は無傷で、むしろ自分が無傷であることを残念がる始末だ。

 君には残念なこったろうけどね。僕が思うに、それは受信アンテナが完全にイカれてるんだな。霊的な感受性が欠落してるんだよ。これじゃあ幽霊側が頑張ってアピールしても意味がない。恐らく、君は一生霊体験を出来ないだろう。根本的に君の体質が変わらない限り、それは無理だよ。

 でもね、何事も使いようなんだよ。馬鹿と鋏は使いようって言うだろ。いや、君が馬鹿だってんじゃない。霊的な感受性が欠落しているということは、つまり君は霊からの悪影響を受けないんだ。それは立派な才能のひとつだよ。

 よくジョークで言うだろ、阿保は京都人の天敵だって。厭味や皮肉を理解できないから。度外れの阿保ってのはいるもんでね。要は鈍感なんだ。霊現象は繊細なものだからね。鈍い奴にはそういった機微が通用しないの。呪われるにも、ある種の鋭さが必要なんだよ。

 君のことを悪く言うんじゃない。物の喩えだよ、あくまで。僕は君のことを買ってるんだぜ。残念ながら霊媒師としての才能はないが、助手としては申し分がない。何なら君のことを雇いたいくらいだよ」

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