第11話 幽霊団地
幽霊団地。
ファントムのアジトである。
「思ったよりも早く辿り着けたな」
騒動があった日の放課後、計人は『幽霊団地』の前にいた。
「ここが噂の誰も辿り着けないアジトねぇ……」
計人が対面しているのは来訪者を待ちかまえるような中庭をもつ団地であった。
中庭では噴水が枯れ雑草が荒れ放題に伸びている。
誰も所在が分からない『幽霊団地』。
そこに作戦開始翌日に既に辿り着けているのには訳がある。
計人はここまでのことを回想した。
◆◆◆
「計人、平隊員が今日どこに来るのか分かったわよ」
下校時、藤花は下駄箱で言った。
『ファントム』の六人の幹部は『幽霊団地』から殆ど外出せず、残り六人の平隊員が二人組で買い出しや徴収を行う。
その平隊員の徴収スケジュールを藤花は入手したのだ。それで早速計人は藤花の情報をもとに、平隊員の後を追ったというわけだ。
『自身が選んだ物を周囲の人間に感知不能にする』という計人の能力『
『隠蔽』は合計して計人と同じ体積くらいまでならいくつでも『隠蔽』出来る。
計人以外の『人間』を隠蔽する対象に出来ないことと、発動時、計人が触れていなければならないことくらいしか発動条件がない、非常に応用の効く、有効な能力なのだ。
それにより計人は気付かれずに彼らの後を追ったのだ。
平隊員たちは徴収を終えるとどんどん人通りの少ない通りに入っていった。
すると、いつしか道の先から黒い影が漂ってきた。
「ん?」
いつの間にか、空も血をぶちまけたかのように真っ赤に染まっている。ぶちまけたように、じゃない。実際に空から血がどろりと垂れてきている。
「……ッ!」
漂ってくる殺気や迫力に計人は思わず唾を飲み込んだ。
『
その影響範囲に入ったのだ。
途端にゾウが地響きを鳴らし行進して来る。ドスンドスンと何もせず通り過ぎたかと思うと道路が途絶え目の前に何百メートルもの高さのある壁が立ちふさがっていた。
いや、道路が直角に折れ天空へと向かっているのだ。大樹の枝のように側路が広がっていく。
振り返ると、道がない。計人の背後五メートルで道路が途絶え、大気が広がっていた。
噂通りの圧巻の幻覚能力に計人は敵意を忘れ感心してしまった。
崔原はこのような幻覚空間を自身の周囲一キロに渡り展開できるらしい。
これが『幻覚迷路』の真髄。これにより誰も『幽霊団地』に辿り着けないのだ。
しかし計人は違う。
計人は一呼吸おいて自分自身に『隠蔽』をかけた。
『隠蔽』の対象を崔原の『幻覚』に設定し、自分自身をだますのだ。
それにより計人は崔原幻覚を『認知できなく』なる。
「ふぅ」
発動すると、すっかり幻覚は消え去り、再び何の変哲もないコンクリート舗装された平坦な道が続く。空もたちまち青く染まる。
「で、あいつがよぉ」
「ハハハ、そりゃ面白い」
買い出しの二人組が平然と道路を歩いていた。
「で、ここが噂の『幽霊団地』ってわけか」
そのような経緯を経て計人は幽霊団地にやってきたのだ。
計人は目の前でその威容を振りかざす廃団地を仰ぎ見た。
『幽霊団地』の周囲には『幻覚』と『電子捜査網』に加え単純な体重などで発動する『物理トラップ』の3種のトラップが敷かれているらしい。
かつて、幻覚を彷徨い偶然にも『幽霊団地』まで辿り着けた者がいて、その者たちが団地に足を踏み入れた瞬間、『ケルベロス』の三人組が襲いかかってきて命辛々逃げてきた、という話があるのだ。
彼等はきっと監視網にひっかかったのだ。
つまり、噂は、本当。
「広い……」
そのトラップがわんさかある広場が広大で計人は溜息をついた。
団地の入口まで100メートル以上ある。
これでは『息を止めて』一気に中庭を突っ切ることは出来ないだろう。
息を止めていれば赤外線はじめ機械と連動した捜査網もかい潜れるが、息を止めて移動するにはあまりに距離がある。それにいずれにしても吊るし天井や落とし穴のような単純なトラップは回避できない。
となると……
やはり、トラップ位置情報の入手が必要……
計人は歯ぎしりした。
幻覚迷路が展開してたあたり、今も彼は幽霊団地の中にいるのだ。
しかし辿り着けない。
まどろっこしい状況に忸怩たる思いがするが、辿り着けないなら仕方ない。
ふうっと、一つため息をつくと、計人は再び隠蔽で幻覚を無効化し、
早速一歩、足を敷地に『踏み入れた』。
……。
言ってることとやってることの矛盾を感じるかもしれないが、これで問題ない。
計人の目的は何も幽霊団地の位置確認だけではない、ケルベロスの三人組と戦うことなのだ。
かつて敷地に足を踏み入れた瞬間ケルベロスの三人組が現れたと聞く。
来るなら来い。
そう思い一歩足を踏み入れると
「曲者だぜええええええええ!!!」
幽霊団地の壁を突き破り早速一人の男が現れた。
戦闘開始。
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