第9話 作戦会議
「お兄ちゃんすげぇ! 声真似なんて出来んのかよ!」
「うまいだろう? オレの特技の一つだ」
「ねぇねぇ、もう一度やってもう一度やって!」
新居祝い? のパーティーで計人は特技である声真似を披露していた。
計人は聞いた声なら男性であろうと女性であろうと詳細に再現できる特技があるのだ。
某有名女優の声真似を披露すると太一とマロンは目を輝かせた。
「じゃ、作戦会議をするわよ」
そんな宴会が終わり、子供達が寝室に入った後だ。
藤花はペットボトルなどの散らかったテーブルにつき眉間に皺を寄せていた。
「そうだな、そろそろ始めよう」
「……作戦会議」
もとより子供達が寝静まったら行う予定であった。
計人やメイもテーブルにつく。
「まずは『ファントム』がどういった組織かについてよ」
藤花の能力『
その捜査力でもってネット上に広がる『ファントム』の情報を彼女は洗い出していた。
「まずは『ファントム』の構成員ね。トップは都市最強の心理能力『
しばらく総勢12人のファントムの能力説明が続いた。
「んで、彼らが何をしているかって言うと、周知の事実よね」
「能力都市、南第8区の住民から『自警費』として月1万Abyを追加徴収しているんだろ?」
「その通り。基本支給金は大体月10万Aby。うち一万Abyを無理矢理徴収している。何千人もいる南第八区の子供達からね」
「ひでぇな……」
「それがこの能力都市の真髄でしょ。で、その徴収方法だけど、平隊員が二人組で地道に南第八区を回って集金していくそうよ」
「平隊員って……。幹部じゃないなら弱いんだろ? 抵抗する奴いないのか?」
「最初はいたけど軒並み『粛正』されたわ。その映像は今もネット上に残っているわ」
ネット上の動画が一瞬藤花のスマホに写りこむ。
あまりにも酷い仕打ちであった。
「で、これも有名な話だけど、彼らの本拠地がどこにあるかは不明よ」
そういえば計人もそんな話を小耳に挟んだことがあった。
しかしこんなにも有名な組織の本拠地が不明とは一体どう言うことなのだろうか。
「所在地不明の本拠地は『幽霊団地』なんて呼ばれているわ」
「平隊員が集金に来るんだろ? 後を追えばいいじゃないか? なんで分からないの??」
「崔原は都市最強の心理能力者。集金に来た二人組を追っても、本拠地が近づくと崔原の広大な幻覚領域に入ってしまうの」
崔原の能力『幻覚迷路』は半径一キロに渡り幻覚空間を展開できるらしいと先の説明で聞いていた。
「しかも本拠地の前には『電子的な』感知網や落とし穴などの『物理的な』トラップが敷かれているそうよ。加えて崔原の幻覚による『心理的な』トラップもあり、誰も近寄れないってさ」
「オレの場合幻覚は何とかなる」
計人は先程崔原の『幻覚迷路』の能力範囲に入った際、その無効化に成功していた。
「『
「加えて藤花の『電子回廊』で『幽霊団地』前の電子感知網を無効化してしまえば一気に進入できるんじゃないか?」
「でも落とし穴、吊し天井などの『物理的な』トラップは防げないわ。それに電子感知網が停止したらあっちに私達が進入したことが丸わかりよ」
「……なら集金に来る二人組から『物理トラップ』の位置情報を聞き出すしかないな。てゆーかすでに試みている奴がいるんじゃないか?」
「確かに無理矢理は吐かせようとした人がいたらしいけど無理だったそうよ。隊員から組織情報を吐くことが『不可能』らしいわ」
「不可能? どういうこと?」
「幹部の『禁句ちゃん』の能力よ。序列42位の能力『NGワード』。指定した内容を口外に出来なくする能力。『ファントム』の構成員は皆、彼女の『NGワード』で『ファントム』の情報の外部流出を封じられている。当然、『幽霊団地』の場所も」
「なら敵の所有物だ。そんな複雑な罠が複数敷かれているんだろ? 一人くらいアンチョコ持ってる馬鹿がいてもおかしくない」
「一応、全暗記が外出用件らしいわよ」
……それでは誰も『幽霊団地』に近寄れない。
「そりゃ参ったな……」
都市最強クラスの犯罪組織の思いの外の堅牢さに計人は舌を巻いた。
「……でも前に一人『幽霊団地』に進入できた人がいるんでしょ?」
「えぇ、一人いるわね。『心美ちゃん』と同様の『心を読む』能力者。怪盗メリーね」
怪盗メリー。一時期能力都市で名を馳せた怪盗だ。
「彼は集金に来ていた平隊員の脳内を読んで『幽霊団地』に張り巡らされたトラップを把握。一気に幽霊団地に忍びこみ、彼らが集めた金を奪い去ろうとした」
「ということは結局失敗したのか」
「えぇ。進入するも彼は『ケルベロス』を始めとする幹部能力者に捕らえられたわ」
その後も『ファントム』の生態についての説明は続いた。
「あと基本的に『崔原』を始めとする『一条』『女城』『石里』『心美』『禁句』の幹部六名は『幽霊団地』から出ないわよ。残りの6人の平隊員が買い出しから集金まで行うわ。二人組で買い出し・集金に来ているあたり、残り四人が幽霊団地の警護をしたり、休んだりしているようね。さっきメイの寮に来たみたいに幹部総出で出てくるなんてまれもまれよ」
先ほどメイの寮の前には十名近い能力者がいた。
きっと隊員総出でメイに圧をかけにきたのだろう。
「……じゃあ私が崔原君に目を付けられたあの日も、偶然だったのね」
自身の不運さをメイは呪っていた。
「作戦を思いついたぞ」
「え、ホントに!?」
「……早い」
しばらくして計人が「ファントム」の攻略方法を見いだすと、藤花は子供のように目を爛々と輝かせ、メイは目を丸くした。
「でもその内容を伝えることは出来ない。なぜなら敵に心を読める序列45位の『心美ちゃん』がいるからだ。藤花や雛櫛の脳内が読まれて作戦が露見するのは困る」
「ならアンタはどうなのよ?」
藤花が頬を膨らませた。
「いざとなったらオレはオレの脳内にある作戦を『隠蔽』するよ。そうすればいくら心美ちゃんといえどオレの脳内から情報を引き出すことは不可能だ。オレ自身作戦を『忘れてしまう』からな。で、だからこそ作戦を実行するために藤花、お前に頼みたいことがある」
「何よ、言ってみなさい」
「まず一つ。どうにか怪盗メリーと接触してほしい。少しでも幽霊団地のトラップ情報が知りたいんだ。それと二つ、『ファントム』の中で裏切りをしそうな奴を探して欲しい」
計人が懇願すると藤花は大きなため息をつき、言った。
「任せなさい」
こうして作戦は動き始めた。
(で、オレは……)
「じゃ、今日はこれで失礼するわ。計人、くれぐれもエッチなことしないでよ」
「……しねーよ」
ギロリッと睨んで去っていく藤花を尻目に計人は算段を考える。
(情報を流して、かつ、『ケルベロス』と手合わせしないとならんな……)
強力な能力連携を胸とする三人組との対決をするのだ。
(あ、あと彼らがどんな本買ってるかも調べんといかんか……)
動き出した計人に休む暇はない。
◆◆◆
「どうやら日比野計人と言うそうです。自身の選んだ対象の存在を周囲の人間に認知不能にする『心理系』能力者。能力名を『
場所は再び幽霊団地であった。
癖毛の女・女城が報告書を読み上げていた。
「やはり雛櫛と同じクラスの人間のようです。柊藤花と仲が良く、たびたび彼女のファンクラブの標的にされているとか。過去には序列71位の能力者を倒したことがあるようです。また昨日、序列197位を倒したとの情報もあり、相当の実力者であることが予想されます」
「『予想される』? それはどういうことだ。男の序列は実際に何位なんだ」
「……ッ」
その質問に頭を垂れる女城は押し黙った。なぜなら――
「……序列は『不明』です、崔原様」
「! ……なるほど。生徒にはそれぞれ学生証もかねるスマートフォンが付与される。その背面ディスプレイには必ず都市序列が併記される。それを『隠蔽』で隠しているというわけか」
「その通りです。崔原様……!」
「フン、『隠蔽』で自身の序列を隠す実力者ねぇ」
そういえば一年ほど前活動をやめた『黒の亡霊』も同種の能力者だった。
「またまた面白い能力者が現れたものだ……!」
崔原自身の『計画』が間違っていないことを再認識しクツクツと笑った。
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