第114話 議論

「申し訳ありません、ユリアン様。色々と無理を言ってしまい」


「いいや。正直な話、此方としては本当に有難い限りだよ。建造物の再建、負傷者の治療、消費した物資、全て合わせての復興だ。黒瘴大鬼ブラックオーガの素材ともなれば、十分な資金が得られるだろうからね。君としては、その辺りにも配慮してくれたんだろう?」


「私が所有するより遥かに正しい使い道だと思いますので。都市復興の一助となれば、此方としても嬉しい限りです」


「全く、君らしいね。せめてもの礼として、最大限有効に活用してみせるよ」


 ユリアンの言葉に静かに頭を下げる。

 

 大魔侵攻パレードが収束したばかりで、ロストとしては今が最も大変な時期だ。

 当然国からも援助はあるのだろうが、それにだって限界がある。

 都市の立て直しの為の資金は、多いに越した事は無いだろう。

 


 すると、俺とユリアンのやり取りを確認した後に、ライルが一同に告げる。


「さて。何はともあれ、これでラースの功績に関しての話は纏まったな。続けてにはなるが、本題に入っても良いだろうか?」


「はい。宜しくお願いします」


 ライルの問い掛けにユリアンが応える。

 俺とセドリックも頷きを返し、いよいよ本日集まった本来の目的が話し合われる。


 俺達の反応をしっかりと確かめ、一呼吸置いた後にライルが口を開く。


「この四人での話し合いの主題。まあ予想も付いているとは思うが、それは先日起こったばかりの大魔侵攻パレードについてだ」


 そう切り出したライルの言葉に、俺もユリアンもセドリックも驚いた様子は無い。

 ライルの言葉通り予想は出来ていた、というよりそれ以外に議題は無いだろう。


 とはいえ、俺が不可解に思っているのは、何故俺を含めた四人で話をするのだろう、という点だ。

 フェルディア家とローレス家、双方の当主であるライルとユリアン、そして嘗ては王国近衛騎士団にも所属していた実績・立場共に優れるセドリック。

 三人が居るのは理解出来るが、この面子に混じって俺が居るのは、相当に不適格な気がしてならない。


 すると、そんな俺の疑問を察したのか、或いは俺がそう思うだろうと予想していたのか、ライルが此方へと向かい告げる。


「ラース、自分がこの場に居るのが疑問だと思っているか?」


「はい。大魔侵攻パレードに関する話し合いというのは理解出来ますが、私などが同席して良いのかと……………」


「まあ、お前ならばそんな事を考えるだろうとは思っていたがな…………」


 俺の言葉にライルは呆れを帯びた声音で告げつつ、苦笑を浮かべる。

 

「確かに話の性質上、同席する人間は厳選すべきではあるが、お前ならば問題無い。思考力は高いし、口も堅いだろう。何より当の大魔侵攻パレードにて最前線で戦っていたからな。お前にも色々と意見が聞きたい」

 

「そういう事ならば、承知しました」


 確かにライルやユリアン、セドリックも当時は東側の戦場に居た。

 ならば、西側で戦っていた人間も同席した方が都合は良いだろう。


「ふむ。しかし、色々と話すべき事も多い。まずは、そうだな。…………ラース。抽象的な質問で悪いが、此度の大魔侵攻パレードにて、何か気付いた事はあるか?」


 一頻り思考した後に、ライルが此方を真っ直ぐと見据え問い掛けてくる。

 一から全てを説明するよりも、まずはどの程度考えが及んでいるか、確かめておこうという所か。

 その方が情報の共有も効率的だろう。


 しかし、気付いた事か。

 此処は一先ず、俺の見解をストレートに伝えて置いた方が早いか。


「不可解な点が多々感じられる戦場でした。その上で結論から申し上げるなら…………今回の大魔侵攻パレードは、自然発生したものとは考えられないかと」

 

「……………続けろ」


 俺の言葉にライルは驚いた様子は無く、言葉少なげに続きを促す。

 セドリックやユリアンにおいても同様であり、やはり全員が抱いている見解なのだろう。


「そもそもの違和感は、十年前に起こったばかりの大魔侵攻パレードが、再び同一の場所で起こったという事です」


 大魔侵攻パレードというのは、数十年に一度起こるかどうかという災害。

 それが同じ国の同じ地域、舞台となった都市まで同じというのは違和感が残る。


「ですが、これだけならば不運な偶然という可能性もあるでしょう。問題なのは、東側からの軍勢に戦力を回した後に確認された、西側からの襲撃です。位置も時機タイミングも流石に出来すぎています。作為的なものを感じる程に」


「…………………」


「そもそもの話、幾ら大魔侵攻パレードが東から来ると警戒していたとはいえ、西からのあれだけの魔物に気付かなかったというのは不自然でしょう。つまり、何者かが何らかの方法で西側に魔物を配置し、都市を襲うよう仕向けた。そう考えた方がまだ自然かと」


 突き詰めて言えば、今回の件には黒幕がいる。

 不可解に感じた点は他にもあるが、一先ずはこんな所だろうか。


 一頻り俺の見解を聞き終えたライルは、大きく頷きをした後に口を開く。


「十分だ。私とセドリックで事前に情報を共有していたが、全く同じ結論に至った。目を付けた箇所も同様だ」


「ええ。今回の件には、裏で暗躍していた何者かが居ると考える他ないでしょう」


 ライルとセドリックは俺の考えに同調する姿勢を見せ、その後にユリアンに確認を取ると、同意見との事だった。


「加えて、後出しで悪いが此度の大魔侵攻パレードについては追加で情報がある。それを踏まえると、黒幕がいると考えてほぼ確定だろう」


「追加の情報、ですか。それは?」


 ライルの発言にユリアンが質問を返す。

 黒幕がいると確定するような情報というのは、俺にも想像が付かない。


「ああ。これは先日、王都より通信魔導具で連絡があったのだが。……………このロストで起こったのと時を同じくして、アートライト王国の他三つの主要都市において、同時多発的に大魔侵攻パレードが起こったらしい」


「………………!?」


 その事実に、俺もユリアンも目を見張る。

 セドリックは事前に聞き及んでいたのだろうが、それでも表情を険しく歪めている。


「ロスト以外の都市でも、大魔侵攻パレードが起こったというのですか…………!?」


「ああ、王宮からの通信だ。間違いは無い」


 そうだとすると、先程のライルの言葉にも頷ける。

 計四つの都市で起こった大魔侵攻パレードに関連性が無いとは思えない。

 ならば、一連の騒動には黒幕がいると考えて、最早相違無いのだろう。


 しかし、この情報を聞いて一つ確認したい事が出来た。


「…………父上。一つお聞きしたい事があるのですが、宜しいでしょうか?」


「ああ、何だ?」


「他国の状況に関してです。同一国内で四もの都市が襲われたのなら、他国でも何かしらの動きがあったのでは無いかと」


 アートライト王国だけでも四つの都市が襲撃されたのだから、他国でも大魔侵攻パレードが発生している可能性は考えられる。

 アートライト王国内での都市に関連性が無いのなら、尚更より広範囲で事態が起こっているのでは無いだろうか。


「ああ、その点についてはセドリックも疑問に思っていたな」


「ええ。他国の状況と照らし合わせれば、何か見えて来るものもあるのではないかと。……ですが、ラース様。どうやら我々の想定は意味を為さなかったようです」


 セドリックも同じ考えを抱いていたようだが、諦念を浮かべ首を横に振っている。

 それは、つまり。


「これも王宮からの通信にあった事だが。陛下もお前達と同じ疑念を抱かれたようで、早急に他国の情勢をお調べになったそうだ。だが、結果としては何も出ず。他国に関しては何の動きも無く、今回の騒動は完全にアートライト王国に限った話のようだ」


「………そうでしたか。お答え頂き、ありがとうございます」


 事例が増えれば何かしらの繋がりも見えるかと思ったのだが、そう都合良くはいかないか。

 まあ被害がこれ以上増大していないという事に関しては、寧ろ喜ばしい事だろう。


 

「とはいえ。この国に限った話だとしても、関連性が無く、物理的な距離も遥かに離れた地域で同時多発的に大魔侵攻パレードが起こった。こうなれば、最早裏で糸を引いていた人物がいると見て間違いは無いだろう」

 

「そう、ですね。此処までの情報を鑑みるに、黒幕が居ないとする方が不自然ですね」


「ええ。一連の事件には、何者かの意思が介在している。悪意に満ちた、巨大な存在の……」


 纏めるように告げるライルに、ユリアンとセドリックもそれぞれ重々しい口調で賛同する。

 未だ全貌は不透明ではあるが、黒幕の存在は確固たるものになったと言っていい。


 

 やはり一連の大魔侵攻パレードについては、分からない事が多過ぎる。

 けれど、悪意を持った巨大な何かが蠢いている事は確かであり、その存在は今も尚胎動している。

 そんな予感はきっと当たっているのだろう。

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