ss メイドはお好き?

※本編の更新が遅れてしまい、誠に申し訳ありません。

 此処数ヶ月の予定が付かない事と単純に作成が難航している事から、本編の更新はもう暫く御時間を頂くと思います。

 そこで閑話は前話までの予定でしたが、もう少し投稿しようと思います。

  宜しければ、御一読下さい。


〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 とある日の夕刻。

 いつも通りにセドリックとの鍛錬を終え、そのまま離れへと戻る。

 そしてアンナと夕食を取り、入浴も済ませたさらに後。

  

 最早毎日の恒例となっている、居室でのアンナとの歓談を楽しんでいた時の事。

 

「…………俺の元居た世界についての話?」


「はい。軽く聞きはしましたけど、レイトさんの居た世界は此方とは随分違いがあるみたいですから。改めて聞いてみたいなと思いまして」


 対面に座るアンナが、ふと俺が居た世界、つまりは地球について聞きたいと言い出した事がきっかけだった。

 

 まあアンナの気持ちはよく分かる。

 彼女の言う通り基本的な情報は伝えはしたが、全くの別世界についての話だ。

 教えた事なんて氷山の一角、なんて表現では足りない位僅かな事のみ。

 気にするな、という方が難しいだろう。


「別の世界の話なんて、確かに気になるよね」


「はい。とはいえ、レイトさんに前世の事を思い出させてしまうので、あまりお聞きしない方が良いのかなとも思ってはいるんですが……」


「あはは。そういう事は気にしなくても良いよ、本当に。寧ろアンナになら、俺が居た世界の事を知って貰いたいと思うから」


「レイトさん…………ありがとうございます」


 僅かに罪悪感を湛えながら気を遣ってくれるアンナに、意識して軽い調子で言葉を返す。

 実際前世の事を思い出して、感傷的な気分になるといった訳でも無い。

 俺が本心から言っていると伝わったのか、アンナも安堵した様子で、嬉しそうに笑みを刻んでいた。


「そうだね。これは前にも言ったとは思うけど、魔法が無いっていうのがやっぱり一番大きいかな」


「確かに、そう聞いた時には私も驚きました。魔物が居ないとの事なので、自衛に関しては問題無いと思いますけど。魔法や魔導具が無くて普段の生活は大丈夫なんですか?」


「地球では科学技術というものが発展していて、基本的にはそれが人々の暮らしを支えているんだ。身近にあり過ぎて、具体的にどういうものかっていうのは、いまいち説明出来ないんだけど…………」


 この世界での暮らしでは魔法は勿論、主に魔導具が人々の生活基盤となっている。

 魔法が使えなくとも魔力さえあれば誰でも使える物、それが魔導具だからだ。

 

 対して、地球には発展した科学技術がある。

 とはいえ一々説明していたらキリが無いし、当たり前のものとして利用していたので、それがどんなものかと聞かれると、俺も説明出来る自信は無い。

 まあ噛み砕いて説明するのなら。


「電気を点けたり火を起こしたりっていう所では、魔導具と大して違いは無いかな。魔力が無い事を、色々なものの力で代用してるって感じだね」


「うーん、やっぱり難しそうですね。何となくは理解出来ますけど…………」


「この世界には全く存在しないものだからね。輪郭を掴むのが精一杯なのは仕方無いよ」


 うんうんと唸るアンナに苦笑する。

 此処から更に電波やらインターネットやらと説明しては、アンナの頭は爆発ショートしそうだ。

 その姿を想像すると何処か可愛らしくて、少し見てみたい気もするが。


 しかし、何かアンナでも分かりやすい違いは無いだろうかと思案する。

 すると。


(…………………っ、そうだ)


 ふと対面に座るアンナを見て、一つ思い付いた事がある。

 取り立てて重要な事柄でも無いが、分かりやすい話では無いだろうか。


「ふと思ったんだけど、侍女メイドっていう存在は前の世界では相当珍しかったね」


「……………そうなんですか?」


「ああ。勿論侍女メイドという職業自体は確立されていたし、馴染みのあるものだったと思う。けど、少なくとも俺の暮らしていた時代や国にはそうそう居ないんじゃないかな。実際俺も見た事は無かったし」


 何の気なしに思った事ではあるが、侍女メイドという存在は、地球ではかなり珍しいのでは無いだろうか。

 勿論海外では存外一般的なのかもしれないし、日本でだって富裕層ならば侍女メイドを雇っている事もあるのかもしれない。

 他にも家政婦やハウスキーパーと呼ばれる事もあるかもしれないが、所謂侍女メイドという職業は珍しい部類に入るだろう。


「そうなんですね。この世界では貴族や豪商の邸宅で侍女メイドを雇うのなんて一般的ですし、ちょっと意外ですね。…………あれ、でも殆ど居ないのに馴染みのある存在だったんですか?」


「ああ、アンナやこの世界の侍女メイドの方達みたいに実際に職業として働くというより、俺の居た世界では偶像的な意味合いが強かったんだ」


 漫画やアニメのキャラクターとして見かけたし、メイド喫茶なんてものもあった。

 実際にどれくらいの人気なのかはよく分からないが、どちらかと言えばアイドル的な存在だったのだろう。


 とはいえ、いまいち印象を掴めないのか、難しげな表情でアンナが問い掛ける。


「…………うーん、それってどんな感じなんでしょうか?」


「現実ではあまり見ないけど、創作の世界なんかでは割と一般的な存在だったんだ。…………分かりやすく言うと、侍女メイドっていうのは可愛らしい女の子として描かれる事が多いから、そういう意味で人気があったって感じかな。特に男性には」


「…………成程」


 やや偏った認識ではあるかも知れないが、そういう側面も間違いなくあっただろう。

 この世界にも小説はあるので、アンナもイメージしやすいのか腑に落ちた様子だった。

 


「…………………」



 すると、何処か考え込む素振りを見せていたアンナが、ふと口を開く。


「………………じゃあ」


「……………?」


「じゃあ、レイトさんも侍女メイドはお好きなんですか?」


「……………え」


 探るように告げられたアンナからの質問に、思わず硬直する。

 先程の話の流れで聞いたのだとは思うが、何処となく答え辛い。



「………勿論嫌いでは無いよ。どちらかと言えば好意的に思ってはいる、かな」


「むぅ、はっきりしませんね。好きか嫌いかで答えて下さい」


「……………………好き、だよ」



 俺は一体何を言っているのだろう。

 正しく侍女メイドが正面に居ながら、率直に好きだと告げるのは気恥ずかしさが半端じゃない。

 何故当の存在本人に、自らの趣味嗜好を暴かれなくてはならないのだろうか。



 すると。


「…………んふふ。そうですか。レイトさんは侍女メイドがお好きなんですね。そうなんですね!」


 満面の笑みを浮かべながら告げるアンナに対して、当の俺は苦笑する事しか出来ない。


 

 まあ勿論、間違いでは無い。

 とはいえ、別に地球に居た頃から特別侍女メイドが好きだったという訳では無い。




 この世界に来てから何処かの誰かさんの所為で、侍女メイドが好みにされてしまっただけだと。

 これ以上、そんな事は口が裂けても言える筈が無いのだった。



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