ss 大切同士の初交流〜後編〜
※本編の章毎を繋ぐ閑話です。
本編との関連もありますが、あくまでssなので気軽にお読み下さい。
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「では、アンナさん。宜しければ、私に対してはもっと気軽に接して頂けないでしょうか?」
アリアの言葉を受けたアンナは、流石に理解が追いついていなかった。
「………申し訳ありません。それは一体、どのような意図なのでしょうか?」
「言葉通りの意味です。流石に公の場では問題があると思いますが、私と二人の時にはもっと砕けた態度で接して欲しいのです。出来れば、ラース様への接し方のように」
「……………!」
そんな要望をしている自分に、アリア自身少なからず驚きを感じている。
けれど、少し前から考えていた事だった。
恐らく誰よりもラースと近い場所に居るアンナとは、腹を割って話がしてみたかった。
(やはりラース様の事となると、私は何処かおかしくなってしまいますね。同年代の方に対して、このようなお願いをするのは初めてです)
友人と呼べる存在すら碌に居ないアリアは、そもそも同年代との交友に欠ける。
それでもアンナとだけは、お互いに素に近い態度で接してみたかった。
それは恐らく、自身とアンナの間に共鳴する何かを感じ取っているから。
そして令人とアンナ、二人の関係に強い羨望を抱いているからだろう。
「砕けた接し方、ですか……………」
アリアの言葉を受け、アンナは考える。
以前に令人が感じたように、そもそもがアンナは公私をしっかりと区別するタイプだ。
その基準で考えれば、幾ら伯爵家所属とはいえ、一介の
けれど。
(アリア・ローレス様。…………レイトさんの大切な人。命を掛けてでも守りたかった存在、か)
令人がアリアを心から大切に思っている事は、アンナも理解している。
形式的にも婚約者であり色々な意味で強過ぎる恋敵な訳だが、不思議とアリアに対して暗い感情は湧いてこない。
寧ろ逆、きっと自分もアリアと同様、ありのままの自分で話をしてみたいと感じている。
だから。
「恐れ多くはありますが。…………では、これから宜しくお願いしますね、アリア様」
「はい、ありがとうございます。アンナさん」
まともに話す事など、今回が初めて。
それでも何か妙な縁で繋がっていると、お互いが感じ取っていた。
きっとその中心に、一人の少年が居る事も。
「実を言うと、以前からアンナさんとはお話をしてみたいと思っていたのです」
「そうだったんですね。何故でしょうか?」
唐突なお願いをした理由を告げるアリアに、アンナは当然の様に疑問を返す。
それを受けてアリアは、少し口籠もりながら自身の胸中を打ち明ける。
「…………その、………アンナさんは、ラース様とは親密な関係にあるようでしたので。ラース様も、アンナさんの事は非常に信頼されているように感じますし。………そういった事を踏まえて、貴方とはお話をしてみたいと思っていまして」
「………………成程。そう、でしたか」
そう語るアリアの様子から、アンナは即座に理解する。
(ああ、これ絶対落ちてますね…………)
頬を赤らめもじもじとするアリアの姿から、今回の件を機に、完全に令人に惚れている事を察するアンナ。
この辺りはやはり女の勘と言うべきか、それとも自らも身に覚えがあり過ぎるべきか。
(普段はクールなのに好きな人の事になるとちゃんと女の子って、…………ズル過ぎますね)
ついつい、そんな思考の足りない感想を抱いてしまうアンナ。
(…………もう、レイトさんは本当にもうっ)
八つ当たりと分かっていながらも、令人に恨み言を溢したくなる。
とはいえ、今はアリアとの会話の真っ最中。
そんな場合では無いと、アンナは思考を切り替える。
「……私もアリア様とはお話をしてみたいと思っていたので、こういった機会は嬉しいです」
「そうなのですか?」
「はい。ちゃんと話すのは今日が初めてですけど、ラース様との関係もあって、幼い頃から顔は合わせていましたからね」
「確かに、その通りですね」
ラースと同様、専属
とはいえ、会話はあっても事務的なもので、しっかりと話すのは正真正銘今日が初めてだ。
「正直な話、幼い頃にはあまり良い思い出はありませんが……………」
「……………そう、ですね」
自嘲するように告げるアリアに、アンナも苦笑を返す事しか出来ない。
水無瀬令人の人格が宿る前のラースとは、本当に良い記憶など無いからだ。
最もアリアとしては、母レーアの死という要因も強く影響してはいるが。
「ですが、此処最近は楽しい思い出ばかりです。やはりラース様が変わられたからでしょうね」
「…………そうですね。ラース様は、………変わられましたから」
水無瀬令人を知るアンナとしては、アリアへの返答に少し詰まってしまう。
全ては令人の行動の賜物だが、それを知っているのは世界で唯一、アンナ一人だけ。
以前は秘密を知るのが自分だけだと喜びもしたが、流石に今は違う。
アリアは好きな人の、本当の名前すら知らないのだ。
令人とアリア、どちらも悲しく思える。
けれど、今此処でアンナがアリアに教える事は出来ない。
令人との約束を破る訳にはいかないし、それで全てを知ったとして、きっとアリアは喜びなどしない。
本人の口から直接伝えられる事こそ、大切なのだろう。
「本当にこの方は、とても変わられましたね。今回の
「はい、それはもう。自分を追い込む事に躊躇が無いというか。傍から見ていると怖い程ですから」
「確かに。
令人にしてみれば、それが最も合理的と判断した結果ではあるが、他者からすれば理解が追い付かないものでもある。
というより、思考する事と実践する事は、それだけの乖離があって然るべきだ。
「無茶ばかりする人ですからね。でも、考えなしの無茶ではないっていう所がズルいんです。中々文句も付けられませんから」
「確かに。事実として結果も残されていますから、余計にですね」
「はい。その無茶に振り回される身としては、それでも文句を言いたいですけどね」
「それも分かります」
お互いにクスッと笑みを溢しながら、令人への苦言を溢すアンナとアリア。
その様子からは当然、どちらも本気で嫌だとは思っていない事が伝わってくる。
伯爵家所属の
身分に違いはあれど、二人は自分達でも驚く程に打ち解けあっていた。
長年の友人かのような話しやすさを感じており、今後も良い付き合いを続けられそうだと、お互いが共感している。
「困った方ですね、本当に」
「ふふ、はい。取り敢えずは、暫くゆっくりしていて欲しいです。御自身の為にも、私達の心の平穏の為にも」
「では、ラース様が回復し切るまでは、私達で
「ふふ。是非そうしましょう」
その後も、主に令人に関する話題で盛り上がり、話に花を咲かせる二人。
終始雰囲気は穏やかで、二人の仲はより親密なものへとなっていった。
そのまま談笑を続ける事、十数分。
「…………と、いけませんね。
まだまだ話をしたいアンナではあったが、アリアとて疲れが残っているだろうと、話を切り上げ休むよう勧める。
「いえ、私はもう十分回復しましたから。寧ろアンナさんこそ、フェルドからの移動でお疲れでしょう。客室を用意しますので休んで下さい。それにラース様の事は、ロストの人間である私がするのが筋でしょうから」
「いえいえ。男爵令嬢であるアリア様に、これ以上些末事をさせる訳にはいきませんから。
お互いがお互いを気遣ったからこそではあるが、どちらも決して譲らない。
加えて、令人の世話をするのがどちらかというのも、譲れない点なのかもしれない。
すると、ふとアリアが告げる。
「…………それに、ラース様は私との約束を守る為に傷付いてしまった訳ですので。やはり私が御世話するのが道理かと」
「……………」
薄く頬を染めながら、何処か嬉しそうにそんな言葉を溢すアリア。
それは勿論、事実ではある。
だが、アリアは何の気なしに告げた言葉であったが、アンナにとっては聞き捨てならない。
無自覚だろうと悪意など無かろうと、マウントにしか聞こえない。
思わず、こめかみをピクッとさせるアンナ。
「いえ。ラース様は私とも約束をして、ロストへと向かわれましたから。私の所為という可能性もありますし、此処は私にお任せ下さい」
「……………」
笑顔ではあるが対抗するようなアンナの言葉に、今度はアリアが反応する。
こうなると、最早どちらが仕掛けた勝負かは関係無かった。
「ロストで起こった
「そうは言っても、アリア様にそのような負担を押し付ける訳には参りませんから」
「私は負担などとは思っていませんよ。これは最低限の礼儀です」
「なら、私の場合は義務です。私はラース様の専属
「それを言うなら、私は婚約者です。婚約者の責任として、介抱くらいはすべきです」
先程までの穏やかな雰囲気から一転。
室内の空気は氷点下と化していた。
相反して、二人の間にはバチバチと火花が散る光景が幻視出来る。
とはいえ、徒に他者へ感情を露にしない二人にとっては、それだけ気を許している証拠なのかもしれないが。
「私が…………」
「いえ、私が………」
すると、そこで。
「………………んん」
「「ッッ」」
室内のもう一人の人物、寝ている令人の声に反応する二人。
叫び合っていた訳でも無いが、二人の声で意識が起きかけたのだろう。
そして。
「…………アン、ナ………アリア、さん」
「「!?」」
自分達の名前を告げる令人に、大きな反応を見せるアンナとアリア。
令人は未だ眠っており、無意識のまま二人の名を呼んだのは確かだ。
「……………私達の事を、言ってましたね」
「………はい。そのように聞こえはしました」
「……………夢の中に、私達が出ていたりするんでしょうか?」
「どう、でしょうか。可能性は高いかもしれませんが。………ですが、そうだとすると」
もし、そうだとするならば。
「「〜〜〜〜〜ッッ//」」
想い人の夢に自分達が出ているとなれば、嬉しく思うのは必然。
それだけ身近な存在だという証明でもある。
それに夢にまで見るという事は、基本的にその対象を好意的に思っている証と言える。
実体験に基づく、二人の解釈ではあるが。
兎にも角にも、これによって雰囲気はまたしても大きく変わった。
「………先程まで何か言い合いをしていたような気がしますが、………やめましょうか」
「そうですね。これ以上すると、ラース様を起こしてしまうかもしれませんし」
「そもそもの話、一人に絞る必要は無かったですね。ラース様の御世話は、二人で一緒にやりましょうか」
「賛成です。では、役割分担を決めましょう」
斯くして、乙女の戦いは平和的に解決した。
とはいえ、始まりから終わりまで、起きていようと眠っていようと。
結局は、令人に振り回される二人であった。
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