第100話 降り堕ちる脅威

 俺以外の全員で魔物を開けた場所に誘導し、固まった所を大規模魔法で一掃する。

 その作戦の初撃は綺麗に決まり、二撃目に続こうと全員が行動していた。


 俺も先程と同様、魔力を練り上げる。 

 発動の感覚は先の一撃で掴めた。

 次はもっと消費魔力を抑えられるかもしれないし、威力も上げられるかもしれない。


 そうして3回、4回と繰り返せば、かなりのペースで魔物を間引いていけるだろう。


「ラース様、準備が整いました!」

 

「ブチかましてやって下さい!!」


「……………ッッ」


 コーディとレクターの合図に合わせて、密集した魔物達へと二撃目を放つ。

 魔法自体は先程と同様に発動出来たが、やはり魔力の消費は激しい。

 元々俺の魔力量ありきで考えた方法とはいえ、やはりこの才能には感謝しなければいけないな。


 無数の土槍が地面から突き出し、魔物達を串刺しにする。

 先程の光景を繰り返すように、魔物の骸から瘴気が溢れ出る。


「よしッ!」


「今の一撃でまた40体は仕留めたぞ!」

 

「この調子で、ガンガン行こうぜ!!」


 作戦が上手く機能している事に、騎士・冒険者達が歓喜の声を漏らす。

 

 今、風向きは完全に此方にある。

 この勢いを途絶えさせたくは無い。

 このまま一気に行こう。


「次に移ります。皆さん、お願いしますッ」


「「「ああ!!」」」


「「「了解です!!」」」


 冒険者、騎士達、それぞれの呼応を聞きながら、再び魔法の行使に移る。

 そうして俺達は、また次の一撃のために行動を開始するのだった。







 それから、数十分。

 初撃、二撃目と同じ要領で繰り返し、これで都合五度の大規模攻撃を終えた。


 魔法を撃つための開けたスペースには、魔物の死体が重なり合うように散乱している。

 地面は血の湖と化しており、その上には俺が変形させた土の棘が乱立している。


 地形を滅茶苦茶にしてしまっている事も含めて、しっかりと後始末をしなくてはと、思わずそんな場違いな思考をしてしまう。

 と、それはともかく。


「よーーし!良いぞ、良いぞ!!」

 

「魔物も大分片付いたな!」


「この調子ならいけるぞ!!」


 人々の歓声を聞きながら、俺も状況を確認する。

 これまでの大規模魔法を用いた作戦が機能し、元居た魔物の半分以上は数を減らす事が出来た。

 経過は、まさに順調と言っていい。



 けれど、やはり相応に代償も大きかった。



「はあッ、……はあッ、………ッッ」


 地に膝をつき、荒い息を吐く。

 頬から汗が滴り落ちる。

 流れ出る汗を止めようと手の甲で拭うが、そんな行為に意味は無かった。


「ラース様、凄い汗ですよ!?」


「本当に大丈夫ですかッ?」


 コーディとレクターが憂患の声を掛けてくれる。

 そんな二人に、息を吐きつつも返答する。


「はあッ、………大丈夫です。魔力を、失っているだけですから」


 通算五度となる大規模魔法。

 覚悟はしていたが、今までに無い程に魔力を失っている。


 とはいえ、恐らく魔力量の問題では無い。

 問題なのは、俺の魔力制御の技術だ。


 ただでさえ難度の高く、使い慣れていない大規模魔法。

 消費魔力が大きいにも関わらず、発現する事象に見合わない魔力を、無駄に消費してしまっている。

 本来なら使う必要の無い魔力を、魔力制御が拙いせいで、無意味に使っているという事だ。


(まだまだ鍛錬が必要だな………………)


 自身の力量の未熟さを痛感する。

 けれど、嘆いている場合では無い。

 それは全てが終わった後にしよう。


「俺達がお守りするので、一先ず回復を!!」


「魔物の相手は任せて下さい!」

 

 そう言って俺を庇うように戦う二人に感謝を告げ、すぐに魔力回復薬マナ・ポーションを取り出す。

 貴重な物資ではあるが、この状況で出し惜しむ訳にもいかない。


 栓を開け、中の液体を一気に呷る。

 身体の内側で魔力が満たされる感覚があり、先程までの気怠さが和らぐ。


 俺は魔力の総量が多いため回復量も総量から見れば少なくなるが、そこは仕方ないだろう。

 回復している事に変わりは無いし、感覚的なものなので確実では無いだろうが、恐らくまだ総量の半分程度は残っている。

 

「………すみません。もう大丈夫です」

 

「謝らないで下さいよ。俺達はラース様に頼り切りなんですから」

 

「………はい」

 

 時間を取ってくれた事に感謝すると、レクターがそう返してくれる。

 確かに、俺の担う役目を考えれば自分が回復する事は、そのまま戦況に影響をもたらす。

 つまり俺が回復すれば、それは皆のためにもなるという事だ。


「此方こそ申し訳ありません。もっと休んで頂きたいんですが、ラース様に頼るしか無くて」

 

「いえ。皆さんが魔物を誘導してくれるおかげで、俺も存分に魔法を放てますから」


 コーディが忸怩たる面持ちでそう告げるが、俺だけが苦しんでいる訳では無い。

 この場に居る全員で戦っているからこそ、この作戦は上手くいっている。


「各々の役目に徹しましょう。大魔侵攻パレードに勝つ為に…………!」


「「はい!」」


 二人の気持ちの良い返答を聞きながら、改めて戦況を確認する。

 今までの大規模魔法による攻撃で、魔物達の戦力は半分以上削れている。

 そして俺の残存魔力は、恐らくではあるが半分程度は残っている。

 作戦の継続に支障は無いだろう。


 魔物の数もかなり減ったため、無理に作戦を続行する必要も無いのかもしれないが、やはりこの方法が一番効率的だとは思う。

 問題が無いのなら止める理由も無いだろう。


 それに、東側の戦況がどうなっているかは分からない。

 セドリックが居るため、万が一にも不利という事は無いとは思う。

 それでも此方の倍を優に超える魔物が攻めているのだから、まだ収束はしないだろう。


 その場合、此方の魔物を片付けて、東側へと増援に行く必要もあるかもしれない。

 その場合は、やはり戦力の消耗を抑えるためにも、作戦は継続すべきだ。

 

 皮算用は危険だが、そう思える程には此方の戦況はかなり上向きだ。

 これまでの大規模攻撃を繰り返せば、直に鎮圧出来るだろうという所まで来ている。


 そして、そんな推測は二人も同様だったのか、コーディとレクターが口を開く。


「正直これ、かなり良い感じですよね?」


「ああ。このまま行けば、本当に勝てるぞ。ラース様の策が、上手くハマりましたね」


「…………ええ、そうですね」


 二人の言葉に同意する。

 油断する訳では無いが、実際既に終わりが見え掛かる程に戦況は良い。

 このまま行けば、確実に勝てる。




 

 けれど、何故だろうか。

 妙な胸騒ぎがする。

 嫌な動悸が治まらない。



 つい10年前にも起きた大魔侵攻パレード

 正しく未曾有の災害がたった10年で再び起こり、その舞台も10年前と同じ。

 そして救援である俺達が駆けつけた後に、真逆の方向から大魔侵攻パレードの第二陣。

 


 異常事態イレギュラーに次ぐ、異常事態イレギュラー

 偶然?いや、それにしては出来過ぎている。

 まるで全てが仕組まれた事のように。


 もし、本当にもし、そうだとするならば。

 これで終わり、とは考え辛い。

 突拍子も無い考えなのは分かっている。

 外れている可能性の方が高いし、何なら外れてくれていた方が有難い。



 けれど、俺の嫌な推測は何故いつも当たってしまうのだろうか。

 


 正解ビンゴ、とでも告げるように。

 一度見えた希望を塗り潰すように。

 絶望に喘ぐ俺達を嘲笑うように。



 

 その瞬間、戦場に轟音が鳴り響いた。

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