第40話 勘違い
アリアに改心したことを信じて貰うための条件についても決め終わり、今回のアリアとの話はほぼ終わったものと言っていい。
実際今回アリアが訪れたのは、婚約者ということで定期的に会うということと、俺が倒れたことに対するお見舞いという理由からだ。
正直顔を見た時点で、アリアとしてはここに来た目的は果たしたと言える。
そのためかアリアももう帰る雰囲気を出しており、ふいに口を開く。
「それでは色々と話も終わりましたし、私としてはご無事を確認出来たので、ここへ訪れた目的は十分果たしました。そろそろ、失礼します」
まだ外は明るいが、俺達は雑談をするような仲でも無いため、確かにこれ以上一緒に居るということも難しいものがある。
アリアとの関係はまだまだ距離のあるものだが、今回は今までの話が出来ただけでも十分だと考えよう。
と、俺がそんなことを考えていると、アリアの中で帰る事はもう確定事項なのか、席を立ち扉へと向かう。
流石にいきなり帰るとは思わなかったため、驚き反応が遅れてしまう。
その間にアリアは扉の前まで行き、既に扉を開けてしまっている。
そこでようやく俺は慌てて、声を掛ける。
「お待ち下さい、アリア様」
帰るということに対して文句は無いが、このまま先へ行かす訳にもいかない。
俺の言葉を受け、アリアは、
「何ですか?……確かに、今日接してみて貴方は大分変わったようですが、それでも私はまだ貴方と長々と話したいとは思いません」
と、そう告げる。
その言葉は俺としては少しショックを受けるものではあったが、アリアの立場からしてみれば当然の気持ちだろう。
話すべきことは話したのだから、これ以上俺と居たところでアリアに得なんて無い。
とはいえ、俺が声を掛けたのは別に引き留めるためではない。
というのも、
「………いえ、お帰りになるのなら、門までお見送りしようかと」
単純に、帰るのならば馬車に乗るまで付き添おうと思ったからだ。
アリアが、一人で帰るというぐらいにさっさと先へ行ってしまうため声を掛けたが、引き留めるとか、まだ話したいといった意味では無い。
そう告げると、一拍遅れてアリアは自分の勘違いに気付いたのか、頬を朱に染める。
「………っっ」
態々勘違いを正すのも申し訳ないかと思ったが、他に何と言ったらいいかも分からなかったため、ありのままに告げると、アリアはそれはもう恥ずかしそうな反応をする。
やはり何か別のことを言えば良かったかと、申し訳なく思っていると、アリアにとっての悲劇はそれだけでは終わらなかった。
それというのもアリアは既に扉を開けてしまっていたため、部屋の傍に待機していたアンナとアリア付きの侍女にも一部始終を見られたことになる。
二人からしてみれば突然のことで、何がなんだか分かっていないだろうが、今のアリアにそんな冷静な思考が出来る訳もなく、その様は羞恥の極みといった感じだ。
普段はクールなことに加え、俺に対し少々冷たいことを言った上での勘違いということも合わさり、余計に恥ずかしいのだろう。
すると、
「そ、それならそうと早く言って下さい。……行きますよ!」
この空気に耐えられなかったのか、見送りに行くことに許可を出しつつも、早歩きで去っていくアリア。
そんなアリアの様子を見て、いけないことだとは理解しつつも、つい微笑ましく思ってしまった。
アリアが帰る準備は恙無く終わり、後は馬車に乗って出立するのみだ。
色々と大変だったし、アリアとの出会いを無事に乗り切ることが出来てほっとしていると同時に、どこか少し名残惜しくも感じる。
まあアリアからしたらそんな気持ちは微塵もないだろうし、関係は今後の交流で深めていけば良い。
一先ずは、一月後のアリアとの約束を守れるように努力しよう。
「本日は色々と、ありがとうございました。また一月後にお会い出来ることを、楽しみにお待ちしております」
簡単ではあるが、今日のアリアの来訪に対する感謝と次の機会について、そう告げる。
ちなみに一月後に会う件に関しては、今回はアリアが出向いてくれたのだから、次はこちらから出向こうかと提案はした。
しかし、条件として一月後に会うことを決めたのは自分だからと、次回もアリアの方から訪れると言われてしまった。
申し訳なくはあるが、アリア自身がそう言っているし、それが筋とまで言われてしまったため否定することも出来なかった。
と、それはともかく俺の言葉を受けアリアは、
「………そうですか。私はそこまで楽しみという訳ではありませんが。………まあ、頑張って下さい」
と、そう告げた。
アリアらしいそっけない物言いではあったが、最後は冷徹になりきれず、短く応援の言葉を告げているあたり、やはり良い子だなと思う。
そこで最後の会話も終わり、アリアは馬車に乗り込みフェルディア伯爵家を立った。
アリア・ローレスは外見の印象に違わず、クールで少し冷たい印象を与える女の子ではあるが、それでも随所に優しさや温かさを感じさせる、よく出来た良い人だと、そう感じた。
そんな彼女と交わした一月後の約束、アリアからの信頼を得るためにも、絶対に果たさなければならないと、より深く決意を固めた。
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